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十三話:こちらが図書館の頼れる防衛システムです

 

「……そういえば、さっきからベルフェは何を地面に刺しているんだ?」


 次の地点に向かう道中でも、ベルフェは地面に棒を突き刺していくことをやめない。

 測量でもしてるのか? と言いたくなるほど、等間隔に棒を刺していく姿は手慣れたものだ。


「ああ、あれは防衛システムの一環だよ。棒と棒の間に強い電撃を流すことで、侵入を阻止する」

「中々近代的な防衛方法だな……。でも棒を攻撃されるから意味ないだろ。隠さなきゃ」

「ああ、でも隠すような建物を作ることはできないし、地面に埋めても意味はない。ベルフェの幻術で誤魔化すには、ベルフェの負担が大きすぎる。じゃあ、どうすれば良いと思う?」


 どうすれば良いかって言われても……。守るための装置は敵から丸見えって、滅茶苦茶大きなハンデじゃないか?

 少し考えてみたが、何も思い付かない。……と思ったが、待てよ? 逆の立場で考えるんだ。


 ……そこに装置があったとして、どんなことがあれば装置に触ることを躊躇う? いや、正確には攻撃することを、か。明らかに触れてはいけない存在だと思うようなものは……、あ、そうか。


「罠にすれば良いのか? 迷宮の部屋に宝箱が剥き出しでポツンと置いてあって、ホイホイと触るようなアホはいないだろ。いても帰ってこないだろ」

「正解っ! ちなみに触ると……」


 ととっと少し先にある棒に駆け寄ったオメガが、鋭い手刀の一撃を棒に与える。

 すると次の瞬間、棒の先が赤い光を赤色灯のように発し始め、サイレンのような音が鳴りはじめる。


 そしてゴゴゴ……と地響きが始まり、次の瞬間。


「いやいやいやいや……確かにこれは触る気なくす」

「だろう? 全部の棒にこれが仕込んである。ちなみにこのゴーレム、自動で修復する機能がついている。さらに核は五つあって、一つでも核を残せば残りの核も自動復活だ。ちなみにめっちゃ硬くて、魔法への耐性もある!」

「何その聞いただけで心が折れちゃいそうな性悪ゴーレムは」


 身長十メートルにも及びそうな、巨大人型ゴーレムが棒を守るように現れた。

 オメガは攻撃性能について言っていなかったが、なんであろうとこの巨体。その場でブレイクダンスなんか始めようものなら、近づくことすら命に関わる厄災に変わる。


「ボクの自信作だよ。ま、ボクがしたのは性能面の改造だけで、流石にゴーレムを作る技術はないけど」

「なるほど、つまりお前の性格が反映されているわけだな。これ以上ないほど納得したわ」

「酷い言い草だねぇ、ボクが何をしたって言うんだい? どこからどう見ても十人中十人が振り向く美少女だよ?」

「確かにどこからどう見ても不審者だもんな、そりゃ振り向くよな。てかお前美少女だったのか」


 手とか髪とかは確かに綺麗なんだけど、仮面の印象が強すぎるせいで美少女とかの概念の外にあったわ。


 というか、勝手に起動して大丈夫なのかよ。ベルフェが地面に膝をついて力なく座り込み、「あはは……面倒事が増えた……」とか乾ききった笑みを浮かべているけど?

 しかもゴーレムくんは腕を振り上げて、今にも俺たちをペシャンコにしようとしてるけど?


「…………まずくね?」

「…………まずいかも」

「…………」

「…………」


 …………え? これ実際にまずいの?


「てめっ、ふざんけんなよ! まさか何も考えないで起動したのか!?」

「だ、だって仕方がないじゃないか! このゴーレムを君に自慢したかったんだから! ああもう! 何をやってるんだボクは! こんな予定じゃなかったのに……!!」

「くそっ、とにかくその話は後だ! 何か止める方法はないのか!?」

「防衛システムだよ!? そんなの用意してるわけないじゃん! 君は馬鹿なのかい!!」

「どう考えても馬鹿なのはお前だオメガ!」


 俺たちがギャーギャー言い合っている間にもゴーレムの攻撃動作は続いていて、ついに振り下ろし始めた。

 振り上げ動作に比べて、遥かに速い。このままじゃ数秒で俺たちはぺらぺらの紙になっちまう!


「ああもう! お前のせいなんだから文句は言うなよ!!」


 もしかしたら何か策があるのかも知れないが、そんな可能性に賭けている余裕はない。龍鎧を纏った俺は、右脇にオメガを、左脇にベルフェを抱えてその場を離脱する。


 その直後、地獄に轟音が響いた。後ろを振り向くと、ついさっきまで立っていた地面に小さなクレーターようなものができている。

 ……ど、どうやらギリギリ間に合ったらしい。


「「…………」」


 腰を抱えられた二人は一言も喋らないが、彼女らも無事なようだ。

 誰にも被害が出ていない。それが分かって安堵したからか、俺はだんだん怖くなってきた。痴漢で訴えられたらどうしよう……エミリアの悲しい表情を俺は見たくないぞ。


「いや、あの……二人が危ないと思ったから咄嗟にな? 邪な気持ちがあったわけじゃないんだ」


 二人を離しながら、俺は言い訳をする。いやまぁ、言い訳じゃなくて事実なんだけど……。

 だが、どうやら二人が無言なのは俺を責めるためではないと、振り向いて二人の様子を見て分かった。


「…………」


 ベルフェは分かりやすい。というのも、その顔が真っ赤になっていたからだ。ベルフェはサキュバスという種族に似合わず、男慣れしていない。どうやら咄嗟に抱えられて助けられたことに照れているようだ。

 オメガもモジモジしていて、ベルフェ同じく照れているらしい。


 ……なんだか、理不尽な言いがかりをされないのはありがたいが、こういう空気も新鮮だ。

 しかしゴーレムは、当然こちらの事情など気にしない。


 背後から、ゴゴゴ……という音が聞こえ、魔界の赤い月明かりで照らされていた俺たちを大きな影が覆った。

 …………やばくね?


「と、とにかく逃げるぞ!」

「「っ!!」」


 判断は一瞬、今度は俺だけでなくベルフェもオメガも素早い動きだった。


「…………ボクのバカ……」


 ゴーレムが動くたびに鳴り響く音と、俺たちが逃げることに必死だったせいで、オメガが呟いた言葉は聞こえなかった。


次話は土曜日です

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