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四十話:神と人

今日は少し早めの投稿

 

「ちっ……そろそろ魔力も辛い頃か……」


 大規模魔法の多用のせいで、体内の魔力が残り半分を切った。

 キラとの特訓のおかげで魔力効率が格段に良くなったから良いが、それがなかったらとっくに魔力が尽きていたはずだ。

 ちなみに、龍鎧を纏うのはとっくにやめている。あれは短期決戦用、何か良案が思い付くまでの時間稼ぎの戦いには向かない。


「まだ逃げるのか人間! もう幻術はとっくに見切っているぞ?」


 と、その時、


(──シン──シン!)

「っ、雪風か!? 丁度良い、今から俺の言うことを──」

(違うのです! 後でなら言うことをなんでも聞くですから、今は雪風のことを聞いてください!)

「ッ────」


 雪風の迫力に負けて、俺は口を閉じる。


(──シン、シンが何を躊躇っているかは見せてもらったのです。でも、それは大丈夫なのです)

「見せてもらった……?」


 ああ、心を読んだのか……。


「それで……どうなんだ? 女神が『心中』の能力を使った時には、何が起こる……?」

(──大司教の予想では、何百人か道連れになると言っていたのです)

「何百っ──」


 慌てて周りを見渡した。

 恐らくいるであろう別働隊に備えてほとんどの戦力が帝都に残っているから、ここには千人もいない。

 この中から何百人……。雪風たちが巻き込まれる確率は、考えたくもねぇ。


(──だから、作戦を伝えるのです)

「…………分かった。聞こう」


 何故ルシフィエルと仲良くなってるんだとか、色々聞きたいことはあったが、これはやっと見えた光なのだ。

 俺は藁にもすがる思いだった。


 しかし雪風の説明を聞いた時、俺は一瞬耳を疑った。


「…………まじで言ってんのか、それ」

(──まじのまじです。……どうするのです?)

「どうするってそりゃ…………」


 雪風から聞いた作戦は、作戦と呼べる代物ではない気がする。

 希望的観測が多分に含まれた、こうなったら良いなぁ程度の、馬鹿馬鹿しい考え。


「やるに決まってるだろ」

(──っっ! シンならそう言うと思っていたのです!)


 どんなにアホらしくても、何もやらないよりはマシだ。

 小さいからと言ってチャンスを無視すれば、俺たちは何もできない。大きなチャンスが転がってくることを期待するくらいなら、このチャンスをものにした方がいい。


「……そうだ、雪風」

(──どうしたのです?)

「アーサーに伝えてくれ。俺がどんな技を使っても絶対に守るから、お前はただ自分を信じて斬ることだけを考えろ、って」

(──はい! 了解なのです!)


 元気の良い返事を最後に、雪風との念話が切れた。

 俺は魔術を放っていた腕を止め、息を整える。


「…………諦めた、というわけではないようだな……。くくっ……面白い、やれるものならやってみよ! 道連れにする覚悟があるというのなら、この私を殺して見せろ! シン・ゼロワン!」


 俺の雰囲気が変わったことに気が付いたのか、女神の覇気が段違いに変わった。

 女神のら長い髪が揺らめき始め、強い風が吹き荒れる。女神を中心にして、魔力の渦が巻いているようだ。

 流石は女神。魔力の量からして圧倒的だ。これで死後だというのが、にわかには信じがたい。


 だけど……気持ちで負けてちゃ駄目だよな。神が何だ。マーリンの時代の人間は、そんな化け物とやり合ってたんだ。

 そう、キラもザーノスも、あの時代で神と死闘を繰り広げていた戦士なのだ。

 そんな奴らに、俺は認められている。いや、ザーノスが認めているかは微妙だけど……少なくとも、あいつには勝ったんだ。


 ──あいつが勝ったような奴に負けてるようじゃ、エミリアの護衛を名乗る資格はない!


「『龍鎧』!」

「むっ!」


 俺は龍鎧を纏って、一気に女神との距離を詰めた。その途中、一瞬の間に幻術を使用して。

 女神には、突然何十体にも分身した俺が襲ってきたように見えただろう。


「ッ──!!」


 だが、その直後、女神と目が合った。


「またそれか……全く成長しないな、人間」


 心底残念だとでも言うように、溜息をつく女神。

 女神がまるで歩き始めるかのように、小さく上げた足で勢いをつけて地面を踏むと、その瞬間、俺の身体をしていた幻影が霧散した。

 そして──


「ガハッ──……!!」


 黒い霧が、俺の心臓を貫いていた。

 女神の両腕が、黒い霧に変化しているのだ。

 身体が熱い。何度も死んでいるから分かるが、これは死ぬギリギリの所を彷徨っている状態だ。


 でも、俺は死なない。

 女神の攻撃だろうと、再生能力はちゃんと働いている。


「捕まえた……!」

「何!?」


 こうして身体を貫いている以上、霧は貫く部分だけでも固体になる必要がある。

 その部分を俺は掴み、引っ張ることで女神に近付こうとする。

 女神は慌てて霧状に戻そうとするが、もう遅い。

 腕を元に戻す前に、俺は女神をしっかり捕まえている。


「だ、だからどうしたというのだ? その身体では何もできまい……!」

「ああ……()()()

「──まさかッッ!!」


 何故、俺が幻術を使ったのか。

 それは……こいつの油断をさそうため。


 ──幻術には二種類ある。


 対象者に幻を見せる幻術と、誰にも見える幻を作る幻術。

 俺はこれまで、後者しか使えなかった。

 だが今回使ったのは、両方。

 今でも一瞬だけしかできないが、女神の意識を俺に完全に向けるには、むしろそれ以上は必要ない。


 ハッと気が付くがもう遅い。

 既にそいつは、光り輝く剣を掲げている。

 女神には、身体を霧状にする時間さえない。


「人の力を、思い知れ!!」


 アーサーが、聖剣を振り下ろした。


次話は明日です。

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