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三十五話:決戦開始

遅れてすみませんでした!

 

「ふー……」


 深く長い息を吐いて、向こうの軍を見る。

 ほとんどの悪魔や正神教徒我は地面に足をつけて立っているが、中には一部のガーゴイルやサキュバスのように飛んでいる奴もいる。

 だが、この前沢山倒したとはいえ、アーサーたちから聞いていたよりは数が少ないように見える。

 それにはスーピルたちも気が付いたようで、相手を見つけた途端に念話石を使って指示を出していた。

 指示を出している先は、帝都に残した部隊だろう。奇襲に備えて、半分以上の戦力が帝都で待機している。

 万が一には俺たちがすぐに加勢できるよう、王国軍が来る時に俺が構築した転移魔法陣と同じ規模のものを描いているので、帰ったら帝都が消えていたなんて事態はないだろう。


 だが、奇襲とかそれ以前に…………


「既に二敗か……。もう後はないの」


 キラ先生が言うように、俺たちは既に二回負けている。五番勝負なので、これ以上負けてしまえば俺たちの敗北となる。

 そうなってしまえば、ルシフィエルに注射を打つ機会さえない。最悪五番勝負に負けるのは構わないが、ルシフィエルと戦えないことだけは避けなくてはならない。


「だけどこの後は……」

「うむ、こう言うと敗れた二人に失礼じゃが……妾たちの本命じゃな」


 正神教徒二人を相手にした、敗れた二人も惜しかったんだがな……。最後ギリギリで足りなかった。

 何度か模擬戦を行ったことのある俺としては、正神教徒相手だろうと勝てると思っていだが……勝負ってのは分からないものだな。

 もちろん、相手の正神教徒だってかなり冴えた動きをしていたけどさ。


「そう言われると緊張するな……」

「エストロ先輩」


 俺たちの会話が聞こえていたのか、エストロ先輩が苦笑していた。

 そう、この後三番手として戦うのは、五人の中で唯一王国出身のエストロ先輩だ。

 ちなみに俺は戦わない。対女神戦に魔力を温存しなくちゃならないからな。魔法陣だって一昨日に作ったくらいだ。

 ちなみに四番手は、俺に殺意を向けていたクレアさんの隣にいた女性だ。一回も戦っているとこを見たことがないので少し心配だが、クレアさんが太鼓判を押していたので大丈夫なんだろう。

 ちなみにクレアさんが出ないのも、俺と似たような理由だ。


「まぁしかし、アイリス様の護衛としても、王国軍としてもここで負ける訳には行かないからな」

「頑張ってくださいね、エストロ先輩」

「ああ、ありがとなゼロワン」

「その呼び方……懐かしいですね?」

「ん、そうか? そうか……最近はシンと呼ぶことも多かったからな……。おっと、向こうは既に用意できたようだな」


 エストロ先輩が見る先では、一人の翼を生やした悪魔が空を舞って悪魔たちを盛り上げていた。

 こうして見ると、感情を失ったように全く盛り上がっていない正神教徒が浮き彫りになるが、それはともかく……。


「あの、大丈夫ですか?」

「……剣一本でどこまでできるか、試してみる価値はありそうだな。しっかり見ていてくれよ?」

「そう言えるようなら大丈夫そうじゃな。何か策があるのか?」

「まぁ、見ていてください。先生」


 そう言うとエストロ先輩は、軍服の裾を翻して進んで行った。

 魔術学院にいるくらいだから使えないということはないだろうが、エストロ先輩が魔法を使って戦った話は聞いたことはない。

 そのことをエストロ先輩に鍛えられていた帝国騎士団も知っているのか、皆不安そうな顔をしている。


「……両者、準備は良いですか?」


 開始の合図を告げるのはアイリさんだ。

 これは俺の推薦である。アイリさんとしては俺たちに負けられては困るだろうし、俺たちに加担して怪しまれるのも困るから、中立に立ってくれるだろうという考えからだ。

 ちなみに、合図があるのは開始だけ。決着がつくのは、片方が戦闘不能になった時、または降参した時だ。敗れた二人は、両方とも気絶して敗北した。


「ああ、私は構わない」

(わたくし)も構いません」


 エストロ先輩と悪魔の人は、何か言葉を交わしていた。試合前の挨拶だろうか。

 試合って言っても、殺し合いだというのに。

 お互いに相手と距離を取る二人。しかしこの距離は……魔術師がよく使用する距離だな。剣を使うエストロ先輩にとっては、圧倒的に不利なはずだが……何か考えがあるのだろうか。


「では…………開始!」


 開始の合図を告げ、すぐにアンリさんはルシフィエルの近くに行き、ルシフィエルに守られながらその場を離脱。

 望遠の魔法で見てみると、アンリさんは嬉しそうな表情をしていた。こんな時に何いちゃついてんだあいつら……って、なるほど、これまで俺とエミリアがふざけあってた時、皆はこんな感情だったんだな。

 って、アンリさんを見てる場合じゃねえんだ。エストロ先輩を見ないと。


「うむ、やはりこうなるな。さて、ここからどうする……?」

「良かった……まだ何もしてない」


 予想通り、相手はエストロ先輩を中心にした円を描くように、グルグルと上空を飛んでいる。

 対してエストロ先輩は、腰の剣に手をかけているものの、タイミングを見ているのか何もしていない。

 と、その時、


「っ……」


 エストロ先輩が身体を前傾にした。

 静からの動。その突然の動きに、俺やルシフィエルを含めた全員が一瞬動きを止めた。

 それはもちろん、相手も同じ。


「はぁっ!!」


 エストロ先輩が地面を蹴り、空を飛ぶ。

 驚くことに、身体強化以外の魔法を使っていない。

 そしてそのまま、驚いて何もできない悪魔の脳天に、


「これが王国の力だ。覚えておけ」


 剣の柄の一撃を喰らわせた。

 あんなものを、エストロ先輩の力で脳天に喰らったのだ。気を失った相手はその場から落下していく。

 そしてエストロ先輩もまた、高所から落下……って待て待て。このままじゃ流石に死ぬ。

 ああ、なるほどな! エストロ先輩があれほど見ていろって言ってたのは、この後助かる方法がないから助けてくれってことかよ!


「俺があのままアンリさんを見てたら死んでましたからね!? 〈風壁〉!」


 俺の作り出した風のクッションに、エストロ先輩と気を失った悪魔は包まれた。

 いやほんと、勝ってくれたのはありがたいし、勝ち方もエストロ先輩らしい力の勝利ではあったけど……もっとこう、最初から伝えてくれませんかね!?


次話は土曜日です

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