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二十六話:バーカ

悪口じゃないです。信じて。

 

「騎士団長?」


 休憩していたシンとキラにさっきのことを話すと、興味を持ってくれたらしい。

 濡れタオルで身体を拭く手を止めて、聞いてきた。


「ああ、ここに来る途中で団長とか聞こえたから、多分騎士団長の隊だと思う」

「そうか……」


 だけどシンはオレの予想とは違い、嬉しいような、困ったような表情をした。


「どうした?」

「ああ……。これから忙しくなるなって。それに今俺が兵士にしてる訓練も、多分なくなるだろうからさ。やっぱり寂しいよね」

「あ、そっか……」


 これまで比較的自由気ままに行動できたのは、オレたちに文句を言うような奴がいなかったからだ。

 帝国騎士団が帰ってきたら、オレたち王国流じゃなくて帝国流のやり方で事が進んでいくと思うし、そうなると色々とやりにくくなるな……。

 ……あ、でも帝国騎士団が増えるってことは、またシンには既に相手がいるって思わせなきゃいけないから、オレはまた……。


「戦力的には嬉しいけど、できるなら来ないで欲しかったよなぁ。そうだろ、メア?」

「いや、オレはむしろありがた……じゃなくて! そうだな! うん!」

「???」


 あ、あぶねぇ……!

 思わずシンとまた寝られることが嬉しいって言いそうになった。

 …………。

 で、でもこれはあれだ! 帝国にいると中々眠れないのに、あいつの隣で寝た時だけは安心して眠れたからってだけで……。


「…………」


 別にオレがおまえと一緒に寝たいってわけじゃないからな!

 これは体力を回復するために必要な行動だ!

 そ、それにほら、シンだって困るわけだしな! だからこれはシンのための行動で、決してオレがしたいとかじゃない! 


「……なるほどのぉ…………」


 ……よし、ちょっと落ち着いてきた気がする。

 そうだ、大体オレがシンの隣で寝たい理由なんて、寝つきと寝覚めくらいしかないじゃねえか。


「……。おおっ! そう言えばまた騎士団が増えたのならば、お主が帝国に奪われぬよう牽制しておかねばな。どうじゃ、シン。今夜は妾が赴いてやろうか?」

「っ!! そ、それはダ────」

「おおぅ? どうしたのじゃメア。急に慌て出したかと思えば、真っ赤になって俯きおって。どうして口を押さえておる? さあ、何を言おうとしておったか言うてみるのじゃ」

「〰︎〰︎〰︎〰︎!!」


 くぅっ……どうしちまったんだよ、オレ!

 なんであんな気持ちに……。

 キラがシンを誘った瞬間、「嫌だ」なんて……。

 こ、これじゃオレが、シンと一緒に寝たいみたいじゃねえか! 


「……むぅ……ここまで押さえつけておればそろそろ限界だと思ったが……。予想以上に強固じゃな」

「キラ先生?」

「おお、すまぬの、シン。やはり妾は一人を愛する女故、今の話はなかったことに」

「え? あ、あぁ……それは構わないんですけど……今の一瞬に何が?」

「知らない方が幸せじゃ……」

「え、何それ怖い……」


 うぅ……くそっ! もう考えるのはやめだ!

 こうなったら、グラムから教えてもらったあれをやるしか……!


「おいシン! オレと勝負しろ!」

「なんで!?」

「おまえに合う装備を一から作るためだ!」


 身体を動かして、シンのことを頭から追い出す! 

 それに鍛治の集中が加われば、この変な気持ちもなくなるはずなんだ!


「ふむ……確かに妾以外の相手とも経験はしておくべきじゃしの……。……しかし身体を動かすことが最近流行っておるのか?」


 キラが何か言っていたが、オレはこのよく分からない気持ちを取り除くためにそれどころじゃなかった。


「でも、今のメアの服ってあまり激しく動くには向いてないような……。ほら、スカートだからメアの戦闘スタイルだと色々と……」

「……。一応、用意はしてる。だから……」

「ああ、更衣室ね。了解。ちょっと待ってて」


 う……準備のことなんて何も考えてなかった……。

 でも、シンが何もない地面に手を伸ばした途端、ゴゴゴと地響きを鳴らしながら土の箱が出てきたから、シンは承諾してくれたってことだよな?

 オレはマジックバックを持って、シンの用意してくれた箱の中に入った。……でも、これじゃ外から見えてしまう。


「今から閉めるからな。終わったら言ってくれ」

「え、あ、ああ……」


 咄嗟に思い付いて言った言葉なのに、どんどん話が進んで行く。

 それに呆気に取られて、いつの間にか、シンのことしか考えられない状況からは抜け出せていた。

 でもまだ、心の奥の変な気持ちは取れていない。


 せりあがって閉まった、ザラついた硬い土の壁を撫でた。

 本当に、これからシンと戦うのか。

 キューッてなってでもなんだか幸せな気持ちと、このドキドキしてワクワクしている気持ち。合わさると変な感覚だ。


「まさか、初めて着るのがおまえ相手だなんて思わなかったな……」


 でも、これは良い機会だ。オレも頼れるんだってことを分からせるためにも、本気のオレを見せてやる。

 服を脱いで下着姿になり、オレはマジックバックから取り出した装備を身に付けていく。


 ……それにしても、あいつは本当に気が付いてないんだろうか。

 二人の修行を見るのに、あいつの言葉で言えば動きにくい服を、なんの理由もなしに着るわけがない。


 あいつは、普段は無自覚に言って恥ずかしくさせてくるのに、言って欲しい時に限って言ってくれないんだ。


「せっかく、昨日買ったのに……」


 少しだけモヤッとした。


次話は木曜日です

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