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二十五話:主戦力

 

「………………」


 今日も、オレは店で本を読んでいた。

 本屋に来て本を読み気に入った本を買うのが、最近のオレの日課だ。

 今日読んでいるのは、典型的な恋愛小説。ちなみに昨日読んだのは、猛吹雪の中の館に閉じ込められた集団を、幽霊が人を一人ずつ襲っていって、最終的に二人だけが生還するっていう怖い話だ。


「あ、そろそろシンが終わる頃だ。えっとタオルは……よし、ちゃんと用意してる」


 今日もシンは、兵士との訓練が終わった後にキラと修行をするらしい。

 最初の修行をした次の日、シンは魔力の糸って提案をしてきて、それから何日かその方針で修行を続けた結果、シンも今では水晶を割ることが少なくなってきた。

 あの時は、オレもアドバイスをしたんだよな。その前日に丁度、実物を見たことがあったし。


「へへっ……」


 思い出して、思わず誇らしげな笑い声が出てしまった。

 店内の他の客から、変な目で見られる。


「今日はこの本を、お願いします……」


 気まずくなって、オレは本を買って店を出た。

 すると突然、どこかから大きすぎるくらいの笛の音が聞こえた。

 その瞬間、街の人たちの顔が明るくなった。

 …………どうしたんだ?


「おい、お前は見に行かないのか!?」

「ふぇっ!? え、ぁ、ぅ、み、見に行くって……?」

「おっと驚かせちまってすまねぇな! じゃ、俺は先に行ってるぜ!」

「あ、おい! ……み、見に行くって何をだよ……」


 なんだよ、あの男……。

 急に声をかけてきたかと思ったら、すぐにどっか行っちまうし……。

 びっくりして、変な声出ちまったじゃねえか。

 でもあいつだけじゃなくて他の奴も、みんな門の方に走ってる?

 うぅ、すげぇ気になる……!


「ごめん、シン!」


 シンだって、今の笛の音は聞こえていたはずだ。何があったかオレが教えてあげれば、許してくれるはず……!

 最近は不純な行為を取り締まるとか言ってエストロが控え室に先回りしてるから、毎日シンに会いに来てるって思われてそうでちょっと恥ずかしいし……。


「……っ、とと……」


 言い訳を考えていると、いつの間にか門についていたみたいだ。

 でも、門の人だかりのせいで何も見えないな……。


「ズルしてるみたいだけど……、ここまで来て何も見ないってのは勿体ないし……」


 人だかりから離れて、オレはまだ修復されていない外壁に来ていた。

 壊れた外壁の残骸が残っているから、普通の人なら通れないだろうが、オレは一応人以上に身のこなしが出来るはずだ。

 周りに誰もいないことを確認して、オレは瓦礫の上を飛び登って、外壁の向こう側に出た。

 そのまま外壁に沿って、人だかりがあった方へ進んでいく。


「お、見えた見えた。……あの旗、帝国騎士団か? あ、もしかして遠征に行ってた奴らが帰ってきた……!?」


 王国と並んで最強とか言われてた帝国がこんな姿になったのは、帝国軍のいくつかの部隊が遠征に行っていて不在だったからだ。

 その中には、最強の……王国で言う一番隊のような部隊もあったはず……! この騒ぎようだと……


「てことは、あれは……!」


 そりゃみんな騒ぐ訳だ……、だってありゃぁ、実質勝ったも同然だし!

 勿論、オレたち王国軍だって実力は負けてないけどな。でもオレたちじゃ大規模な作戦は出来ない。地形にも詳しくないし、中心の戦力がオレたち二十五番隊だし……。

 オレたちが作戦を無視するとかじゃなくて、他の隊との関わりがないから、連携が取りにくいってことだ。スーピルのことだからそれも踏まえるだろうけど、より良い作戦が選べないってことはありそう。


「その分帝国軍が中心になれば……」


 うん、オレたち二十五番隊だって得意な遊撃に回れるかも知れない。

 キラが隊長でシンが隊員の二十五番隊"刃"は、中心となって戦うよりも遊撃専門だしな。


 ……まぁ、帝国騎士団の辺りに、空を飛んでる人影があるのが気になるけど……。もしかして遊撃が得意な奴も多いのか?

 空を飛ぶのは、陣形を保つのも難しいと思うし……遊撃だよな?


「…………ん?」


 だが、さらに近付いてみると、何か様子が変なことに気が付いた。


「あれは魔法……か?」


 空を飛ぶ人影が何かを持っており、その人影に向けていくつか魔法みたいな光る弾が飛んでいる。

 それを人影はヒラリヒラリと躱していて……最初はパフォーマンスだと思ったけど、どうやら違いそうだ。

 だって……


「人が捕まってる……!?」


 さらに近づくと、ヒラリヒラリと魔法を避ける人影の正体と、そいつが何を持っているかが見えてきた。

 幼い少女の姿の悪魔が、騎士団の服を着た獣人の少年を抱えて飛び回ってやがる……。


「誤射を恐れて、本気で放てないのか……」


 それなら、オレがここからやるしかないな……。

 ゴム弾にすれば、外しても死ぬことはないはず……!


「ふー…………」


 ……慌てることはない。

 見た所あの悪魔……幼い女の子の見た目の悪魔は、どうやら獣人の少年を殺す気はないみたいだ。

 低い所を飛んでるみたいだから、揶揄うのが目的なのかも知れない。戦力を削ごうとしてるのか……?

 

「マジックバックを持ってきて良かったな……」


 マジックバックとは、シンの〈ストレージ〉みたいなものだ。鞄の中が亜空間になっていて、見た目以上に物が入る。

 容量が大きい物は目が飛びてる程値段が高いから、これはあまり質のいい物じゃないけど……、それでも狙撃銃くらいなら簡単に入る。


 近くの平たい岩の上に寝そべったオレは冷静に、スコープを覗いた。

 

「蝶みたいに飛んでて、狙いが付けにくいな……」


 でもこれくらいなら……。

 シンとキラの修行をこれまで毎日見てきたおかげだ。

 狙うは、獣人の騎士を持っている腕……。

 

「……スー……ハー……」

 

 …………。

 …………。


「…………ッ」


 行けっ!

 当たることを願いながら、放った弾丸の行方を追うオレ。

 弾丸は、オレの予想通り悪魔の手の甲に当たって……、

 

「よしっ!」


 悪魔の少女が獣人の騎士を手放したのを見て、オレは思わずガッツポーズした。

 良かった……、狙撃は最近やってなかったから勘が鈍ってるのが怖かったけど、上手くいって……。


「……って、もうこんな時間か! 早くシンたちの所に行かなきゃ!」


 ふと太陽を見ると、もうシンとキラが修行を始めている頃だった。

 シンは心配症なところがあるし、心配してるかも知れないしな。

 オレは狙撃銃をしまって、足早に街の反対側に向かった。

 

次話は火曜日です。

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