二十四話:ヒント
「…………」
その夜、俺は雪風に魔力を注いでいた。
雪風の問題か、俺の問題か。普通精霊は精霊術師から魔力を分け与えられることで現界できるのだが、今の俺たちはその効率が非常に悪い。
自動で注がれる分は極僅かで、こうして俺が雪風に直接魔力を注がないと、雪風は現界することができないのだ。
ずっと俺の中に入っていなければいけないのも可哀想だし、雪風が魔力を消費せざるを得ない場面に遭遇した時のためにも、これは毎日の日課になっている。
もっとも、直接魔力を注ぐことだってかなり効率は落ちているがな。人より魔力量の多い俺でも、魔力をごっそり持って行かれる。だから、急な戦闘に対応できるためにも眠る前に行っている。
「昨日の分まで、しっかり補給するのです」
「この体勢の意味は?」
「触れる面積が多い方が効果が高いのです」
「えー……」
ただ、昨日はメアが部屋に来ていたこともあり、雪風に補給できなかった。どうやら、俺の中から周囲の様子を見た雪風が、俺がメアと一緒にいるのを見て遠慮してくれたらしいのだ。
その埋め合わせとして、俺は雪風の言いなりになって、今も雪風を膝の上に乗せて後ろから抱き締めている訳だが……、考えてみれば、雪風って精霊だから言ってしまえば魔力の塊だよな……。
「……どうしたのです? シン。なんだか手がいやらしいと言うか……あの、お腹をさわさわするのを止めて欲しいのですが……」
「いや、ちょっと気になって……」
「シ、シン? あの、流石にこの姿の時は複雑な気持ちと言うか……、まさかシンは本当にロリコンさんなのです? いつもの時にこうならないのは、まさか雪風が成長してるから……」
「ロリコンさんではないよ。……帝国騎士団の誤解はもう解けそうにないけど」
昨日、メアが俺の部屋に来たことが、どうやら一部の人間に広まっているらしい。
誤解されてそうなので何もなかったと必死に訴えた所、「あー、はいはい、そういうことにしておきましょう」みたいな、初々しい子供を見るような暖かい目を向けられたので、誤解は解けてないだろう。
メアは十四歳。つまり未成年。対して俺は十五歳を超えている成人。つまりは犯罪である。
……まぁ、こちらには、成人が未成年と付き合うとアウトみたいな法律はないけどな……、道徳的に悪いこととされ、白い目で見られることは同じだ。
雪風の時は、仲の良い兄妹のようなものだと思ってもらえたが、メアの方は歳が近い分実際にあり得そうだからな……。
ま、気にしたら負け! 帝国にいる時の俺は立派なロリコン教官だ! ……帰って良いかな?
「駄目なのです」
「心を読まないでくれませんかねぇ……」
「じゃあお腹を触るのをやめて欲しいのです……。その、子供だってことが明らかなので……」
恥ずかしそうに、お腹を触る俺の手に自分の手を重ねる雪風。
幼児の姿になっているからか、今の雪風は全体的に信じられないほど柔らかい。
もうぷにぷにだ。ぷに風だ。
なるほど、これはこの世にロリコンがいる訳だな。何この子、気持ち良すぎるだろ。
……見つかったら犯罪なんだろうなぁ……。
「身体が魔力でできていても、俺たちと触り心地は変わらないんだよなぁ……」
「……え? 雪風以外のを……もしかして犯罪者です?」
「師匠とマリンちゃんだよ……。幼い頃と向こうからは、流石にノーカンだと思います」
「まぁ、それはそれとして、何か雪風を元に戻す方法が分かったのです? 粘土みたいに魔力をくっつけたり……」
「それで身体が変わったら、精霊って一体なんなのか分からなくなるよな……。そうじゃなくて、実はさ……」
俺は昼間のことを話した。
雪風は精霊だからな、魔力については人一倍詳しいだろうし、魔力の扱い方について何か知っているかも。
「魔力を見たい、ですか……。だから雪風を触っていたのです?」
「何か良い方法とか知らない?」
「うーん……、あ、そういえば一つだけ、魔力をはっきり見たことがあるのを思い出したのです」
「え! 嘘! 何々!?」
まさか本当に知っていたとは……!
興奮に、立ち上がって思わず雪風を抱え上げてしまった。
むーと雪風が頬を膨らませ、足をばたつかせる。
でも面白いからこのままにしよう。
「…………糸なのですよ」
そのまま俺が雪風を高い高いしていると、雪風が諦めて教えてくれた。
教えてくれたので、雪風を床に降ろしてあげる。腕も攣るしな。
……でも、糸?
「魔力で作った糸ってことか?」
「そうなのです。……今雪風とシンの間に繋がっている魔力回路を、目に見えるようにしたようなものなのです」
糸…………。
確かに今考えてみたら、俺と雪風を繋ぐものも、念話石を繋ぐものも、両方糸みたいなものだ。
だからアルディアが間に入ると、念話石も使えなくなるし、雪風との魔力のやり取りも出来にくくなる。
「ありがとな! 雪風! じゃあ糸をイメージして練習してみるよ!」
糸ならイメージしやすい。
よし、早速寝るまで練習するか!
明日は投稿する予定です、




