二十話:接敵……?
「うわぁ……」
一種即発、その言葉がふさわしい。
何かが起きれば、粉塵爆発のように被害が拡大していく、そんな状況だ。
こういう状況で何も思わないのがボッチ時代の俺だったが、今は単純に胃がいた……くはないな。
というのも、険悪な雰囲気なのは主に騎士学園の生徒で、俺たちSクラスは面倒な顔をしている奴らがほとんどだ。
つまり難癖をつけられていて……やっぱり胃が痛い。
「何故魔術学院の生徒がここにいる……」
騎士学園の集団、その先頭に立つ少年がこちらを睨みつけながら言った。
軽装備で帯剣しているのを見るに、アタッカーの剣士だろう。鞘に手すら掛けていない、言葉と裏腹に敵対はしていないみたいだ。勿論、ただ単にアホだという可能性はあるが。
ああいや、敵対意識は無いからの不意打ちという高度なテクニックかな?
「何故と言われても、ここを歩く許可は必要ないのじゃが?」
それに、キラ先生が答える。
シンプルかつ完璧な答え。これには相手も文句を言うことは……
「ふん、俺はお前らみたいな非力な奴らが、何故ここにいるかを聞いているんだ。死にたいのか?」
あ、普通に文句言ってきましたね。
どうやら、彼は魔術師や魔法士が森を歩くと危ないと言っているらしい。
俺らからしてみれば、魔術師なしに森を歩く方が危険なんだが……まあ、そこはどうでもいいか。
さて、どうしようか……と俺らが考えていると、「俺が行こう」と一人の勇者が進み出た。
えっと……確かケビンだ。多分?
「死にたいと思います? 心配して下さったのは有り難いですが、別にこの辺の魔物なら大した脅威でもないので」
「はっ、強がりを言うな。変な呪文をコソコソ唱えるだけの奴らが、この辺の魔獣を相手にできる訳ないだろう。どうせ、まだ戦ってもいないんだろ?」
「ははは、バレましたか。ええ、弱すぎて戦った気にもなれませんね」
あ、あ、あ…………。
煽ってるぅぅぅぅ!
ナイスケビン! 俺、こういうの大好き。
君とは友達になれそうな気がする。おいそこ、気がするだけとか言うな。
「大方、教師とはぐれたんだろ? それでピーピー泣いているところに俺たちが来た」
「んなっ……教師とはぐれた……じゃと……?」
…………バイバイ、名も知らぬ少年よ。
あーあ、俺知らない。
灰になったら蘇生魔法も効かないからね?
「ふふ……ふふふ……やれ、シン」
「やらねえからな!?」
やるなら自分で……いやキラ先生がやったら消し炭になるね!
仕方ない、俺が代わりに……
「あー、俺はシン・ゼロワン。ただの平民です。お名前は?」
「ただの貴族だ」
成る程…………
「タダノキ・ゾクさんですか。珍しい名前ですね」
俺がそう言うと、後ろで誰かが吹き出した。
チラッと見ると、それはケビン。
彼は、自分が注目を集めていることに気付くと、
「どうもケビンです。ただのパン屋です。よろしくお願いします、タダノキ・ゾクさん(笑)」
めっちゃ苛つく笑みを浮かべて手を差し出した。
後でパンを食べに行ってあげたくなる笑みだ。
「き、貴様らぁぁぁぁ! 平民ごときが、貴族に歯向かって済むと思うのかぁぁ!?」
うわ、テンプレ。
どうしよっかな……こっちには王女たるエミリアや、帝国の王子であるアーサー。変態部隊ではあるが、一応そこの副団長のキラまでいる。俺も一応王女の護衛だし、ケビンはパン屋だ。
最後、落差が酷いな。
だけど、うーん……それどころじゃないな。
「……ケビンくん?」
「分かってる。後ケビンでいい。俺もシンと呼ぶから」
ケビンとアイコンタクトで意思疎通を図ると、どうやらこいつも気が付いているらしい。
それとケビンくん、君随分と馴れ馴れしいね。
「おい、何を話している?」
「……全員まとめてかかってこい。さっさと片付けてやるから」
「「「!!!!」」」
騎士学園の生徒が息を飲む……が、俺たちSクラスで驚いた奴は一人もいなかった。
エミリアが溜息をついているくらいで、他の奴らは面白そうに観戦している。
なんならグラムまで、木の上で丸まりながらこちらを見ている。
「き、貴様ぁぁぁぁ!!!」
が、こちらの呑気なSクラスとは違って、彼ら騎士学園の生徒は屈辱で歯を食いしばっていた。
だが……剣に手をかけている奴が少なすぎる。
相手から喧嘩を売られて、何故構えないんだ?
「…………」
集団の中で実力的に浮いている、恐らく教師だろう人物に目を向けると、困ったような顔をしたもののコクリと小さく頷いた。
キラ先生、そしてそっちのジーク先生似の騎士学園教師、両方の承認を得た。
それを確認した俺は、汚したくないので師匠のローブを〈ストレージ〉にしまい、なんなら杖も首飾りの鍵に戻す。
これで、ただの制服姿。完全なる舐めプだ。真の舐めプである全裸は捕まるので出来ない。
「ほら、全員かかってこいよ。こっちは忙しいんだ」
俺がそう言うと同時、リーダーっぽいタダノキくん……ではなく、その後ろの黒髪の女子が日本刀だろう片刃の長剣を振りかざして、こちらに切りかかってくる。
少し遅れて、リーダーっぽいタダノキくん。そして他の生徒も俺に向かって突進してくる。
「遅い……」
何これ? ちょ、さすがに欠伸が……あ、やべ本当に欠伸しちゃった。
うん、ごめんね。悪気はないんだ。欠伸はただの生理現象で……あ、二回目やっちゃった。
まあでも、実際俺のターンは既に終わっているし、やることがない。
「なっ……!?」
それは、突然始まった。
突進でこちらの体勢を崩そうとしていた大柄の男子が、突然金縛りにあったかのようにその動きを止める。
そうすれば玉突き事故が……と思うが、それは安心安全のシンクオリティなんで。
大丈夫、彼の後ろの生徒も同時に動けなくしている。
ただ、タダノキくんと黒髪の少女だけは、俺の魔法から逃れたらしい。
だが、タダノキくんは動きを止めた奴らに気を取られて、その足を止めて後ろを振り返ってしまった。
「おっ? チャンス到来〜」
「貴様何を……っ!」
第六感か、偶々か。振り向いたタダノキくんは咄嗟に剣で日本刀を受ける。
うん。さすがは騎士学園の生徒。力はやっぱそれなりにあるな。
「はは……魔術師が剣士に力勝負を挑むとは……貴様はやはり馬鹿──」
「馬鹿なのはお前だ馬鹿」
「え……?」
間の抜けた声。
まあ、それもそうだろうな。
だって、お前が相手にしているのは俺じゃない。
お前と鍔迫り合いをしているのは、黒髪の女の子だ。
女の子の持つ日本刀と、タダノキくんの長剣が鍔迫り合いをしているのだ。
「幻術って知ってるか? 基本的にはかかりにくい術と言われているが、他のことに気を取られるとこれが案外簡単にかかる」
「…………!」
「まさか……!」
「ああ、お前達が見ていたのは俺じゃない。仲間だ」
〈ストレージ〉から、愛用の刀を取り出す。
鍔迫り合いを続ける二人は、魔術師である俺が剣を使うことに気を取られて逃げようとしない。
「無詠唱でも良いが……せめてなんの魔法に倒されたかくらいは教えてやるよ。〈風刃〉」
結果はまあ、言うまでもない。
ただ、ジト目のエミリアに「本当にシンは女の子に甘いよね〜。なんでタダノキ君にだけ当てたの?」と言われたことは教えとこう。……全部言ったな。
そして、今はそんなことより……
「……来たか」
「面倒臭いのじゃ……団長め……あとで覚えておれよ……」
「シ、シン!」
「集団戦闘は苦手でござるよ……」
「前衛を務められる奴は前に出て、私と共に仲間を守れ!」
「フシャァァァ!!!」
目の前に迫る、数にして五百は下らない魔獣の大群をどうにかする必要がありそうだ。
……てか最後、お前やっぱ本物の猫だろ。
前話の出来事のせいで疲れているため、シンのテンションが低いです。




