十三話:能力
その後俺たちは、王国軍の上官たちが使っている部屋の中でも、誰も使っていない空き部屋に来ていた。
ちなみにメンバーは、俺、アーサー、メア、雪風、キラ、アルディア。
団長や『閃光』は「子供だけで……」とか言って遠慮して、精霊術師として危険を察知したのか、スーピルはアルディアの側に寄りたくないと言って来ていない。
ああ、あとはエストロ先輩だけど、エストロ先輩は、「さあ、訓練の続きだ!」とか言って帝国軍を恐怖に陥れていました。
…………てか団長たちよ、俺らはともかくキラは子供じゃないと思うんだが……でもまぁ良いか。誰も気にしてないみたいだし。
いや、キラは気にしろよ……。
「それで、何を教えてくれるのじゃ?」
そんなキラは、至って真面目にそう聞いた。
「何が知りたいんだ? 龍鎧? あいつの能力? それともこの練成士の最近お気に入りの小説とかか?」
「っ!? な、なんでこいつが知ってるんだよ! ま、まあどうせハッタリだろうけどな! でも、い、一応聞いてやる。一応な!」
「軍の中で芽生えた恋愛を描いた作品で、確かタイトルは『天邪鬼──」
「わー! わー! そ、それ以上言うな! くそっ……なんで本当に知ってるんだよぉ〜」
「昨日の昼、本屋で立ち読みして、赤くなりながら会計してただろ」
「あそこに居たのかよ!」
どうやら全部本当のことらしい。
メアが真っ赤になった。
怒ってる……のもあるだろうけど、これはどちらかというと恥ずかしさか?
いや、俺には判別がつかないけど、怒っているのならもうちょっとメアは悪く言えば暴力的になる。
実際に手を出さずとも、我慢するせいで握った拳をプルプルさせたりくらいは見せる。
でも今はそれがない。
だから多分、これは怒りじゃないな。
……すごいなアルディア。俺ならもう三回くらい殴られてると思うんだけど。
「「「天邪鬼……」」」
ん? 何故かキラ雪風アーサーの三人が繰り返したんだけど……。
そして俺の方を見て来たんですが……えっと、これは何?
「シン、少し内容に興味が湧かんか?」
「え? まぁ俺は、軍内の恋愛とか試練のある恋とかは確かに好物だけど……メアが嫌がるんじゃないか?」
そう思ってメアを見たのだが、目が合ったメアは「ぅ…………」と小さな呻き声みたいな声を出して、真っ赤になりながらも口を開いた。
「き、騎士の男とその上司の娘の恋愛話だよ……。娘が、その男を追って軍に入るような……。それだけじゃなくて、知らない武器とかも出てきて面白し……」
「なるほど、難しい恋かぁ……。上司の娘と付き合うとか、普通は厳しいというか俺なら無理だけど、そういうのも……えっ? ちょっなんでそんな泣きそうなの!?」
「うるさい! 黙れ! 難しいことくらいちゃんと分かってるんだ! でもそういうのだってあって良いだろ!」
「ご、ごめん! 小説世界を否定したいわけじゃないんだ! ヒロインが騎士を追って自分も軍に入る所とか、うん、すごく良いと思う!」
でもエミリアは軍に入らないでください!
心労で俺が倒れるので!
「多分、メアが怒ったのは小説内の恋愛を否定されたからじゃなくて……」
「シンに無理と言われたからじゃな。まぁ当人たちが、そのことに気が付いているとは思えんが」
二人が何か言っていたが、よく聞こえなかった。
と、その時、アルディアが呆れたように口を開いた。
「鈍感二人とか、もう終わりじゃねえか……」
「何か言ったか?」
「そろそろ話して良いかって聞いたんだよ」
「あ、ああごめん。それじゃあまず、ルシフィエルについて聞いて良いか?」
何かを誤魔化された気もするが、追及してものらりくらりと躱されるだけだろう。
俺は深く追及せずに、ルシフィエルについて聞いた。
敵の能力を知ることは何よりも重要なことだ。特に正神教徒幹部が持つ能力は特殊だから、知らないと命に関わることもある。
アルディアの能力を知っていれば精霊は絶対に勝負を挑まないが、知らなければ挑んで消滅させられてしまうように。
「奴の名前は『罪悪』のルシフィエル。ただ能力は『罪悪』のものじゃない。『心中』の方だ」
「……どういうことだ?」
「主人殺しだよ。元天使だったあいつは、ある神に支えていてな。まぁその神ってのが面倒な奴で、ルシフィエルと心中をしようとしたんだ」
「つまり、堕天使ってことか……。それで、あいつが生きてるってことは……」
「まあな。奴だけが生き残り、奴は主人を殺したことで堕ちた。『罪悪』を名乗ることで、主人を殺した罪を忘れないよう」
「「「「「…………」」」」」
ルシフィエルの過去に、俺たちは何も言えなかった。
主人と心中をして、自分だけが生き残った辛さは、俺も想像できる。何かが壊れてしまうのも仕方ないかも知れない。
もしかしたら、あいつと敵対するのは間違っているのかも知れない……。
「でも……そんな過去があったって、関係ないさ。手を組む道がないのなら、帝国に仇なすのなら……彼は滅ぼすべき敵だ」
だがそんな気持ちも、アーサーの決意の眼差しを見て吹き飛んだ。
これまでほとんど喋らなかったアーサーは、その瞳に恨みではない闘士の炎を燃え上がらせていたのだ。
緊急時の代理とはいえ、帝国の長であるアーサーが見せた覚悟に、俺たち王国側は息を飲んだ。
「……よく言った。過去がなんだろうと、人々を蹂躙している正神教徒であることに変わりないからな。……任せて良いんだな?」
「ああ。任せてくれ、必ずやり遂げるよ」
アーサーが、あの大司教と戦う。
作戦としては完全に間違っている行為だ。皇帝が意識不明の今、アーサーが死んでしまえば、帝国は柱を失うのだから。
だが、俺たちは反対しなかった。と言うより、できなかった。
「……アーサーに任せるよ。どちらしろ、俺はあいつと戦えないみたいだし。頑張れよ」
「シンに言われるまでもないさ」
アーサーは冗談っぽく言った後で、真面目な顔になってアルディアに向き直った。
「それで、能力は一体なんなんだい?」
アーサーが聞くと、アルディアは一度深く呼吸をしてから、ゆっくりと話した。
「奴の能力は、心中。全ての傷を相手にも負わせる、生きた能力だ」
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