表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

232/344

十三話:能力

 

 その後俺たちは、王国軍の上官たちが使っている部屋の中でも、誰も使っていない空き部屋に来ていた。

 ちなみにメンバーは、俺、アーサー、メア、雪風、キラ、アルディア。

 団長や『閃光』は「子供だけで……」とか言って遠慮して、精霊術師として危険を察知したのか、スーピルはアルディアの側に寄りたくないと言って来ていない。

 ああ、あとはエストロ先輩だけど、エストロ先輩は、「さあ、訓練の続きだ!」とか言って帝国軍を恐怖に陥れていました。


 …………てか団長たちよ、俺らはともかくキラは子供じゃないと思うんだが……でもまぁ良いか。誰も気にしてないみたいだし。

 いや、キラは気にしろよ……。


「それで、何を教えてくれるのじゃ?」


 そんなキラは、至って真面目にそう聞いた。


「何が知りたいんだ? 龍鎧? あいつの能力? それともこの練成士の最近お気に入りの小説とかか?」

「っ!? な、なんでこいつが知ってるんだよ! ま、まあどうせハッタリだろうけどな! でも、い、一応聞いてやる。一応な!」

「軍の中で芽生えた恋愛を描いた作品で、確かタイトルは『天邪鬼──」

「わー! わー! そ、それ以上言うな! くそっ……なんで本当に知ってるんだよぉ〜」

「昨日の昼、本屋で立ち読みして、赤くなりながら会計してただろ」

「あそこに居たのかよ!」


 どうやら全部本当のことらしい。

 メアが真っ赤になった。

 怒ってる……のもあるだろうけど、これはどちらかというと恥ずかしさか?

 いや、俺には判別がつかないけど、怒っているのならもうちょっとメアは悪く言えば暴力的になる。

 実際に手を出さずとも、我慢するせいで握った拳をプルプルさせたりくらいは見せる。

 でも今はそれがない。

 だから多分、これは怒りじゃないな。


 ……すごいなアルディア。俺ならもう三回くらい殴られてると思うんだけど。


「「「天邪鬼……」」」


 ん? 何故かキラ雪風アーサーの三人が繰り返したんだけど……。

 そして俺の方を見て来たんですが……えっと、これは何?


「シン、少し内容に興味が湧かんか?」

「え? まぁ俺は、軍内の恋愛とか試練のある恋とかは確かに好物だけど……メアが嫌がるんじゃないか?」


 そう思ってメアを見たのだが、目が合ったメアは「ぅ…………」と小さな呻き声みたいな声を出して、真っ赤になりながらも口を開いた。


「き、騎士の男とその上司の娘の恋愛話だよ……。娘が、その男を追って軍に入るような……。それだけじゃなくて、知らない武器とかも出てきて面白し……」

「なるほど、難しい恋かぁ……。上司の娘と付き合うとか、普通は厳しいというか俺なら無理だけど、そういうのも……えっ? ちょっなんでそんな泣きそうなの!?」

「うるさい! 黙れ! 難しいことくらいちゃんと分かってるんだ! でもそういうのだってあって良いだろ!」

「ご、ごめん! 小説世界を否定したいわけじゃないんだ! ヒロインが騎士を追って自分も軍に入る所とか、うん、すごく良いと思う!」


 でもエミリアは軍に入らないでください!

 心労で俺が倒れるので!


「多分、メアが怒ったのは小説内の恋愛を否定されたからじゃなくて……」

「シンに無理と言われたからじゃな。まぁ当人たちが、そのことに気が付いているとは思えんが」


 二人が何か言っていたが、よく聞こえなかった。

 と、その時、アルディアが呆れたように口を開いた。

 

「鈍感二人とか、もう終わりじゃねえか……」

「何か言ったか?」

「そろそろ話して良いかって聞いたんだよ」

「あ、ああごめん。それじゃあまず、ルシフィエルについて聞いて良いか?」


 何かを誤魔化された気もするが、追及してものらりくらりと躱されるだけだろう。

 俺は深く追及せずに、ルシフィエルについて聞いた。

 敵の能力を知ることは何よりも重要なことだ。特に正神教徒幹部が持つ能力は特殊だから、知らないと命に関わることもある。

 アルディアの能力を知っていれば精霊は絶対に勝負を挑まないが、知らなければ挑んで消滅させられてしまうように。


「奴の名前は『罪悪』のルシフィエル。ただ能力は『罪悪』のものじゃない。『心中』の方だ」

「……どういうことだ?」

「主人殺しだよ。元天使だったあいつは、ある神に支えていてな。まぁその神ってのが面倒な奴で、ルシフィエルと心中をしようとしたんだ」

「つまり、堕天使ってことか……。それで、あいつが生きてるってことは……」

「まあな。奴だけが生き残り、奴は主人を殺したことで堕ちた。『罪悪』を名乗ることで、主人を殺した罪を忘れないよう」

「「「「「…………」」」」」


 ルシフィエルの過去に、俺たちは何も言えなかった。

 主人と心中をして、自分だけが生き残った辛さは、俺も想像できる。何かが壊れてしまうのも仕方ないかも知れない。

 もしかしたら、あいつと敵対するのは間違っているのかも知れない……。


「でも……そんな過去があったって、関係ないさ。手を組む道がないのなら、帝国に仇なすのなら……彼は滅ぼすべき敵だ」


 だがそんな気持ちも、アーサーの決意の眼差しを見て吹き飛んだ。

 これまでほとんど喋らなかったアーサーは、その瞳に恨みではない闘士の炎を燃え上がらせていたのだ。

 緊急時の代理とはいえ、帝国の長であるアーサーが見せた覚悟に、俺たち王国側は息を飲んだ。


「……よく言った。過去がなんだろうと、人々を蹂躙している正神教徒であることに変わりないからな。……任せて良いんだな?」

「ああ。任せてくれ、必ずやり遂げるよ」


 アーサーが、あの大司教と戦う。

 作戦としては完全に間違っている行為だ。皇帝が意識不明の今、アーサーが死んでしまえば、帝国は柱を失うのだから。

 だが、俺たちは反対しなかった。と言うより、できなかった。


「……アーサーに任せるよ。どちらしろ、俺はあいつと戦えないみたいだし。頑張れよ」

「シンに言われるまでもないさ」


 アーサーは冗談っぽく言った後で、真面目な顔になってアルディアに向き直った。


「それで、能力は一体なんなんだい?」


 アーサーが聞くと、アルディアは一度深く呼吸をしてから、ゆっくりと話した。

 

「奴の能力は、心中。全ての傷を相手にも負わせる、()()()能力だ」


論文がまだ書き終わっておらず、明日に投稿できない可能性があります。

その場合、火曜日まで待ってもらえると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ