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十二話:罪悪

 

「…………殺戮兵器?」


  知らずのうちに、俺は杖を握っていた。

 無意識に鍵から変化させたのだろう。

 この杖は何年も前から使ってきている物で、制御を間違えるなんてことはあり得ない。

 それを今俺は、自分でも気が付かないうちに変化させて、杖の先を目の前の男に向けていたのだ。

 ……それくらい、俺は腸が煮えくり返る思いだった。


「良いぜ……その殺気。流石はあの老害を殺しただけあるなぁ……」

「ルシフィエル様、挨拶に伺っただけだということをお忘れなく。そもそも、まだ回復していないのですから」

「ッチ……わぁってるよ、今やり合っても負けるだけだ。それは認める。だから、一旦休戦しねえか?」

「…………何?」


 思わぬルシフィエルの言葉に、アーサーが訝しげな表情をする。


「より正確に言うのなら、一回の総力戦で決めないかってことだよ。無駄に仲間を殺すのは好きじゃねえ。物量で押し切ってやる」


 ルシフィエルの顔は、嘘をついているようには見えない。

 だが、その言葉はあまりに信用できない。仲間の被害を少なくしたいのなら、さっきの攻撃は全勢力を使えば良かった。

 今は追い払ったものの、少し前まで帝都には、道で食べ歩きをするような悪魔さえいたのだ。俺たちの戦力が未知数だから総力戦を避けたということはないだろう。


 それに気が付いたのは俺だけじゃないようで、皆それぞれ厳しい目でルシフィエルを睨んでいる。

 エストロ先輩や雪風なんか、露骨に刀を構えている。


「正々堂々とやんのが俺の流儀だ。騙し討ちも奇襲もしねえよ。力を最大限に利用して、真正面から勝つ! 俺の力を証明するために!」

「ッ……」


 ルシフィエルが拳を掌に打ち付けた瞬間、強い突風が吹いた。

 魔力が生み出した風。ルシフィエルの魔力が闘気となって、吹き荒れたのだ。

 戦士の見た目をして、並の魔術師を遥かに超える魔力量だな……。ここまで来れば、もう分かるぞ。

 こいつが、あの有名な皇帝に重傷を与えた正神教徒の大司教だ。

 今、ここで殺せば…………


「日時は後で伝える。じゃあな」

「ッ!!」


 ゲートを開き、こちらに背を向けた瞬間、俺は龍鎧を纏って飛びかかる。

 狙うは首だ。心臓を貫かれても、大司教なら死なない可能性があるからな! だが頭部さえ取れば……!


「やめろ、シン」


 突然、俺の身体に目に見えない重みのような物がのしかかり、纏っていた赤のオーラが霧散した。

 龍鎧が解除されれば、残るのは魔術師の俺だ。拳は易々と受け止められた。


「なんでお前がここにいる!」


 仮面をつけた正神教徒、()()()()()に。

 突然全ての身体強化が解除されたのも、こいつの結界のせいか……!


「…………」


 そうこうしているうちに、ルシフィエルはワープゲートを潜ってどこかに行ってしまった。

 次いでルシフィエルに付き従っていた女性が潜ると、空間に開いていた穴は閉じて、消えてなくなった。

 

「……なんで、邪魔をした」

「邪魔じゃない、俺はお前を助けてやったんだよ」

「何?」

「いくら龍鎧が使えるとしても、あいつの能力にお前は敵わないってことだ。龍鎧は万能じゃない、単に龍の力を人が扱うためのものだからな」

「? どういうことだ?」


 いまいち、何を言っているのか分からない。

 ……でも、確かに俺の行動は軽率だったかも知れない。

 大司教なんだから、何か特殊な能力を持っていてもおかしくない。ほとんど使わなかったとはいえ、ザーノスは時間の能力を持っていた。

 時間系の能力なんて、大体チートと相場が決まってるからな。それと同等の力をあいつが持っていたとしたら……、俺はやられていたかも知れないのだ。


「……分かった。だが、色々教えてもらうぞ」

「は? なんで俺がお前に教えなきゃならねえんだ? いいか、俺はお前の敵であいつの味方だ。そんな義理なんてどこにも……」

「義兄さん」

「……躊躇しないんだな、お前」

「そう言うお前は妹思いなんだな」

「うるせえ」


 尻尾も耳も燃えて失っているが、アルディアはグラムと同じ孤児院で育った獣人だ。

 グラムが夏場に発情期になるだろうことも、それで俺との関係が大きく進むはずがないことも、こいつは分かっているのだろう。

 だからここで、こうして俺に協力しないフリをして、俺にグラムとの関係性を明言させた。

 

「あーあー! 一々説明すんな! ったく、誰かに聞かれてたらどうするんだ」

「そんなの、グラムが喜ぶだけだろ」


 ルシフィエルは逃したが、久しぶりにこいつと会えたことで、俺もどこかうれしくなっているようだ。

 だから、気が付かなかった。


「……あー、シン。なんか俺、めちゃくちゃ敵視されてない?」


 アルディアと一緒に地面に降りて、みんなのところに戻った途端、俺とアルディアは囲まれた。

 囲んでいないのは、雪風とキラとメアとスーピルか。それ以外はみんな、アルディアを殺そうと武器を構えている。


 アルディアはどこからどう見ても正神教徒。なんならさっきルシフィエルを守った。

 うん、完全に敵だわ。


「そこをどけ、シン・ゼロワン。こいつは正神教徒だ。しかも先程何やら奇妙な力を使った。ここでやっておくべきだ」

「あー、いや、違うんですよ」

「いや、違わない。お前はサキュバスにすぐ騙されるだろ? 今もお前は騙されてるんだ。どかないならお前ごと切るからな。……よし、どくな」

「ちょっと団長!? 別に俺は騙されてもないですから!」

「いえ、きっと騙されているのです。騙されていないなら、証拠として雪風が好きだと言えるはずなのです!」

「それこそ騙されないからな!? 目を輝かせながらこっちを見るな! う〜……好きだよ雪風!」


 なんか事情を知ってるはずの雪風まで参加してるし! いやまぁ、望み通り言ってあげたら、満足して離れていったけど!


「「…………」」


 メアはなんか頬を膨らませていて怒ってそうだし、スーピルに助ける気はなさそうだ。

 当事者のアルディアにも、自分で誤解を解く気はないみたいだし……!

 もうこうなったら……


「お願いします、キラ先生!」


 唯一この場を解決できそうな人に頼むしかない!


「わ、妾か? えっと……そうじゃな……まずこやつはシンを殺して……」

「「「「っ!?」」」」

「よりによって一番言っちゃ駄目なエピソードじゃん……」

 

 キラの言葉を聞いて、さらににじり寄ってくるみんな。

 まあそれから色々あって、結局誤解を解くことはできたんだが……。

 誤解を解くには、かなりの時間を要したとだけ言っておこう。 




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