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十九話:一種即発?

 

「…………はぁ……」


 昨夜のことを思い出して、俺は溜息をつく。


 つ、疲れた……。

 結局、洗いざらい吐かされた。

 まあ、とは言っても、勿論偽装だとは言ってないし、俺の無様な所やエミリアによる家宅捜索も話していないのだが。

 まあ、でも個人的に驚いたのはエミリアの演技力だ。

 婚約破棄から恋人になる、その過程をどう説明─というか、俺も何故エミリアが婚約破棄をしようとしたのか知らないんだが─するのか気になっていたのだが。


『好きな人とは結婚したいけど……婚約は私が無理矢理押し付けちゃったみたいになってて、それで、その……好きな人の重圧になってるとか考えちゃって……』

『断られたら? うん……勿論怖かった。だってシンが私を好きだなんて、そんなこと有り得ないと思っていたし……あっ、シンが私を好きなのかはまだ分からないんだけど! と、とにかく、断られたら好きにさせるだけだもん!』

『え、い、今? う、うん……婚約していた時よりも、その……なんていうか、幸せ? シンから私に何かしてくれるなんて初めてで……えへへ……』


 実に上手な演技力を見せてくれた。

 政治に関わりがないとはいえ、王族の血を引いているだけある。真実を隠すことには長けていて、事情を知ってる俺でも本心から言っていると勘違いしてしまう程だ。

 これはもうハリウッドとか狙えるレベルじゃない?

 俺はそんなに見ないからよく知らないけど。


 だけど、これで一応、誰も被害を受けずに俺とエミリアが付き合っていると言えた訳だ。

 嘘だってことも、そんな素振りを見せていないから当たり前だが、誰にもバレていない。

 アーサーと紫苑は疑わしそうにしていたが、まあ、彼らなら簡単に口を割ることもなさそうだ。


 んで、洗いざらい吐かされたまでは良かったんだ。

 勿論、精神的には十分緊張して疲れたけど、その後の今に比べたら全然マシな部類だった……。


「溜息なんてついてないで、シン君がエミリアちゃんを好きなのかどうか、はっきりしなさいよ」

「そうよそうよ。それに、大体女の子に告白させるのもどうなのよ? 婚約していたんだから、気持ちには気付いていたんでしょ?」

「シン君に好かれているのかどうか、いつも心配で眠れないエミリア様……お労しい……」

「………………はあ……」

「「溜息!」」

「ああ、こんなヘタレを……何故エミリア様は……」


 女子たちに集中砲火を食らって、また溜息をつく。

 何これ、モテる男のように女子に囲まれてるのに、全く嬉しくないんだけど。むしろ怖いわ。

 嘘を言った弊害か、俺の悪評(?)がSクラス女子たちの間に広がっていく。

 エミリアが俺を好きだと言ったのは演技だし、エミリアが寝不足でないのは俺が確認済みだ。あとヘタレ言うな。俺は安全第一に生きたいだけだ。

 最初は殺気を向けていた一部男子も、今では哀れみの視線でこちらを眺めてきている。

 まあ、楽しそうに眺めるアーサーって人もいるけど。


「……好き……だよ……?」


 思った以上に、しどろもどろ。自信の欠片もない声が出た。

 うーん、あの練習は何だったんだろう。

 いやいやいや。でも流石に、囲まれた状態で問いただされるとは、一片たりとも思わなかった。


「「「…………」」」


 ……俺の周囲の三人も、そしてそのさらに周囲の他の女子たちも、全員納得しなかったみたいです。

 エミリアと紫苑、グラムを除く、女子五人の意思が満場一致とは恐れ入る。

 というか、このクラスの男女比がおかしい。男子六人女子八人とか、他では中々見られないぞ? Aクラスになった生徒は男子だったらしいから、仕方ないんだけど。


「証明して」

「そうね、証明が必要ね」

「疑問形とか、ふざけてんのか、あ? エミリア様に詫びるよな、な?」


 どうしよう、なんか変なのがいる。

 えっと……さっきのお淑やかな女子はどこに……?

 怖い、怖いよぉ! 助けて、師匠ぉ!


「証明って言われても、何をすれば良いのか……」

「お? それは私たちが言ったことをするってことで良いのか?」


 君には聞いていない、なんてことを言う勇気は勿論ない。

 言ったことをする……少なくとも、破茶滅茶な要求はされない筈だ。

 この表裏激しい女子はどうやらエミリアを慕っているみたいだし、エミリアが嫌がるようなことはこいつが止める。

 そして俺は、エミリアが嫌がることの基準を、一応の所は知っているつもりだ。


「ああ、だけど関係ないのはなしだ。別れるとか」

「ええ、分かっています。勿論そんな事は致しません。シン君に出来る範囲でお願いします」

「…………」

「何か?」

「いえ、なんでも……」


 言える訳がない、「お前誰?」だなんて。二重人格なのかも知れない。


「そうですね、では最初はハグから」

「ハグ……こうか?」

「ふにゃ!?」


「その状態で頭をポンポンと」

「ん」

「はにゃぁ……」


「耳元で愛を囁く!」

「え、えっと……愛してるエミリア」

「ん、んにゅぅ……」


「次は唇に接吻でござる!」

「やらねえからな!? てか、何故参戦してる!?」

「や、拙者居ても立っても居られず……」


 そう言うと、紫苑は「どうぞ、続きを」と言って元の場所に戻った。何だったんだ……。

 ……ん? ──いや、やらねえからな!? 続きとかないからな?

 だが、女子たちはそう思わなかったらしく、


「へえ、それはおかしいわね」

「そうよそうよ。キスすら出来ないなんて、本当に恋人なの?」

「…………っ!」


 い、一瞬息が詰まった……。

 しかし、その女子はどうやら適当に言っていただけだったらしく、焦る俺に気付くことはなかった。

 あのお淑やかな女子は、「キ、キキキキス!? そんなの結婚するまでダメだって父さまが言って……お前とエミリア様にはやらせねよ!」と言っている。やっぱ二重人格だろこれ。

 まあでも、結構乙女だという事実にニヤニヤが止まりませんね。

 ()()()()から、決して表情には出さないけど。


 と、その時だった。


「────にゃ?」

「────!」


 木の上で昼寝をしていたグラムが飛び起きたのとほぼ同時、俺の気配察知に何かが引っかかった。あ、気配察知って言っても、スキルとかじゃないぞ? 第六感というやつだ。

 少し遅れて、他の奴らも探知魔法や気配察知に反応を見つけたらしく、女子たちは俺の周りから離れてい行った。

 まあ、その時に「後で話ね」と耳打ちされたので、不安は拭えないのだが。


「数は二十三人、鉄の臭いが濃いからほとんど戦士系かにゃ?」


 流石は猫系獣人、気配察知も俺以上の精度だし、嗅覚は人間の何倍も鋭い。

 その集団は俺たちの方に向かってきているのだが、速度が変わらないので俺らに気付いた様子は……あ、いや、一人だけこっちに気が付いたな。

 でも、速度を緩めない? 仲間に知らせていないのか?


「…………面白いことになりそうにゃ…………。これは必見にゃ……」


 猫耳を毛繕いしていて説得力がないですよー。

 というか目閉じてるし。このまま寝るんじゃね?


「…………」

「グラムさーん?」

「……にゃっ!? 寝てにゃい。寝てにゃいにゃ!」


 あ、寝てたんですね。分かりますとも。

 グラムが木の上で伸びをすると、その豊満な胸が制服をさらに押し上げる。ちなみに、グラムは猫系獣人だからか、ローブは着ていない。だから、ブラウスのボタンがはち切れそうなのがよく分かる。

 でもそれ、獣人の中だと小さいんですよね。分かりませんとも。

 いやぁ、みんな前の反応に集中し過ぎですよ。頭上にこんな絶景があるというのに、俺しか見ていない。絶対かな絶景かな──


「……シ、シン………? 何を……してるの……?」

「──っ!」


 真横から、地面の底から響くような声がした。

 恐る恐る見てみると……


「エ、エミリア? こ、これはだな……」

「言い訳するの?」

「そ、そうじゃなくて……えっと……その…………」


 顔は笑っているのに、目が笑っていない。さらに言えば、怒りを抑えているのか口元が少し震えている。

 そ、そうだよな……従者が視姦するなんて、主人にとっては恥だよな。

 何か言い訳を……言い訳……何か、何か……………


「ごめんなさい」


 無理でした。


「へ、へー、やっぱりシンはあれくらい大きい方が好きなんだ。昨日は、私が一番だって言っていたのに」

「いや、あれはっ…………ぐうっ………………」


 予行練習で! と言おうとしたが、それを言って仕舞えば、俺とエミリアが付き合っていることが嘘だってバレちまう……。

 あと、エミリアが一番とは言ったけど、別に胸の大きさの話じゃないぞ!? 大きさで言ったらむしろ師匠やレイ先輩……おいそこ、ロリコンとか言うな。

 十円玉より百円玉の方が小さいってことだよ、はい論破! ……俺は何を言ってんだ?


「おいお前達、イチャイチャしてないで前見ろ前。奴らは騎士学園の生徒達だってことが判明した。そろそろ、向こうもこっちに気が付くぞ」

「いや、してないからな!? どっからどう見ても俺が怒られているだけで……エミリアからも何か──」

「イ、イチャイチャ……! えへ、えへへへ……!」

「って壊れてるし!!!」


 な、なんて時にバグるんだ……!

 どうやら、嘘をつくことへの忌避感からか、エミリアは偽装恋愛することになってから時々こうなる。

 練習をしている時なんか、練習が嘘をつくための準備だからか、もうエミリアが何度壊れたか分からない。


「……はぁ…………」


 アーサーが、深く溜息をついた。

 なんだ、俺を小馬鹿にするその笑みは。なんだ、俺を哀れむその視線は。

 睨み返そう……と思ったがイケメンとガン飛ばし合う勇気はないので、横の壊れたエミリアを眺めていると、近くに寄ってきたアーサーが小さな声で言った。


「この分だとあれか、偽装なんだろ?」

「ソ、ソンナコトナイヨ?」


 や、やだなぁ、ハハ。

 アーサーも冗談が中々上手いね。

 いやぁ、これは一本取られた。


「ほう、そうか。実はここに自白剤が……」

「流石、王族、汚い。やることが汚い」


 というかなんで持ってんだよ!

 キラ先生とか俺は仕方ないが、こいつはただの王族……成る程、帝国の王族は持つのが常識なのか。帝国怖い。そしてやっばり王族汚い。

 エミリア……君だけは綺麗なままでいてくれ……。


「まあ、そのことは後で夜にゆっくりじっくり尋問するとして……」

「俺、外で寝ることにしたわ、すまんな」


 アーサーと同じテントという予定だったが、これはもう外で寝るしかない。

 大丈夫、テントなし寝袋なしでの山籠りは既に経験済みだ。


「まあ、それはそれで面白いことになりそうだから、私は全然良いのだが……騎士学園の奴らが来たぞ?」

「え?」


 アーサーの指し示す先、そこには……


「なあ、騎士学園と魔術学院って実は仲悪い?」


 バチバチと火花を散らし合う、我がSクラス生徒と騎士学園生徒の姿があった。


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