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十話:最初の防衛戦

 

「敵は下級悪魔と正神教徒の混合部隊、数は不明だが、王都で起きた反乱程はいないと予想される。正神教徒に関してだが、少なくとも幹部とコピー……ここでは司祭と呼ぶことにするが、幹部と司祭はいない」


 外壁の外にある集合場所に行くと、どうやら俺たちが最後だったようで、早速説明が始まった。


「良いんですか、司祭なんて言って。コピーのようなものとはいえ伝説の英雄ですよ?」

「私が決めたのだよ」

「いたのか、アーサー」

「当然だろう。私は皇帝の息子で、今は私が帝国を引っ張らなくてはならないのだからな。前線を見ずして、兵は動かせないよ」

「お前が死んだら全部終わるが?」

「死なない」


 アーサーは、強い眼差しと共にはっきりと言った。


「言ったろう? 私には婚約者がいると。彼女を残して先に死ぬわけには行かないんでね」

「そういうことか……。よし、そういうことなら全力でサポートするぜ」


 エミリアたちが王都で待っている俺も、死ぬわけには行かないっていうアーサーの気持ちは分かるからな。

 防衛戦は苦手だけど、対多戦闘なら俺の得意分野。

 範囲魔法で一掃してやるよ!


「意気込んでいるとこ悪いけど、男は今回あまり活躍できないと思うよ」

「「え」」


 見事に重なる俺とアーサーの声。


「精霊の知らせによると、敵の先鋒はサキュバス成分高めっぽいんだよね。特にほら、シンくんは今色々面倒くさいでしょ?」


 そう言ってメアの方をちらりと見るスーピル。

 その向こうでは、複雑そうな表情をした団長と苦笑いする『閃光』の姿があり、キラ先生は恥ずかしそうに俯いている。仲直りしていることを唯一知っているエストロ先輩はニヤニヤしているし……、どうやら、少なくとも同じ建物で寝泊まりしていた人には広まっているみたいだ。


「ま、そうじゃなくてもここはお姉さんたち妖艶な王国女性陣に任せなさい!」

「いや妖艶ではないだろ」

「すごいねシンくん。一言でここにいる王国の女性陣が妖艶じゃないって断言したよ」

「え、だって実際……」


 この場にいる人を見渡してみる。

 キラ、メア、スーピル……妖艶とは無縁の存在だ。

 帝国軍の皆様……それなりに女性も多いが、王国軍じゃない。

 俺たち以外の王国軍の人も何人か来ているが、たまたまその中に女性はいない。

 雪風ももちろん違うし……


「な、なんだ。こっちをじっと見て」

「妖艶、か……?」

「面と向かって失礼な奴だな……。どうせ私は妖艶じゃありませんよーだ」


 拗ねたような、わざとらしい子供っぽい表情をするエストロ先輩。

 エストロ先輩のトレードマークである軍服とのアンバランスさがとても良い……。

 ああどうしよう、俺は夢を見ているのかも知れない。あのエストロ先輩がこんなお茶目なことをするなんて……、これじゃただのあざと可愛い女の子じゃないか!! 女の子にキャーキャー言われるかっこかわいいエストロ先輩は何処へ!?


「「「「「「「……………………」」」」」」」

「な、何か言ったらどうだ!」


 赤くなるエストロ先輩。


「さー、戦闘だー。準備はいいー? ファントムー?」

「久々の戦いじゃの~、少しは骨のあるやつがおればよいが……」

「オ、オレも最後の点検をしておくか……」

「あ、おい! なかったことにしようとするな! 男も和気あいあいと戻るんじゃない!」


 せっかく水に流そうとしたのに、自分から掘り返すだと……!?

 だが心優しい俺たちは、エストロ先輩の言葉を無視して、さっきの光景は忘却の彼方へと押しやった。

 そして俺たち男性陣が帝国軍と新人の王国軍が集まる所まで下がると、こんな声が聞こえてきた。


「すげぇ、これが王国軍……。大群との戦闘を前にしても緊張感がない……」

「いや、さすがにあれはあの人たちが特殊なだけだからな……?」


 ひどい。俺はまともなのに……。

 と、袖をクイクイっと引かれた。見ると、不安そうなアーサー。なんだよ、袖を引っ張るからエミリアかと思ったじゃねえか。


「しかしシン。たった四人で大群を相手にできるのか……?」

「ん? まあできるだろ。メアはともかく、他三人は王国軍の中でも化け物みたいな強さだからな。あと袖引っ張るのやめろ。それは一部人間にしか許していないんだ」

「具体的には?」

「エミリア」

「ああ、理解したよ。……まあ、そう言うのなら、信じてみるか……」


 俺は四人に視線を戻した。


 ♦︎♦︎♦︎


「……見えてきたね。それじゃ、準備はいい? じゃあいっちょ、見た目で私たちを馬鹿にする奴らに見るもの見せてやろうゼ!!」

「目的変わっておらんかの!? いあまぁ、妾たちだけでやるのには、確かにそういう意味もあるが……」

「オレ、戦闘要員じゃないんだけど……」

「私は教官として厳しく指導しているから、そもそも馬鹿にされないのだが……」

「冷たい! みんなの反応が冷たいなぁ!」


 目元に手を当て、泣き真似をするスーピル。戦闘直前とは思えない気の緩みっぷりだ。

 だがそれも次の瞬間には、真面目な表情に変わっていた。

 王国軍でもトップクラスの切り替えの速さに、帝国軍からどよめきが起こる。


「それじゃあ、作戦通りにね。お姉さんの作戦は完璧だ! 行っくぞー!」

「「「おー!」」」


 空を飛ぶサキュバスの大群に向けて、まず、エストロが飛び出して行った。

 

今後、英雄のコピーは司祭と表記することがあります。

ちなみに、英雄のコピーは文字通りの意味です。

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