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八話:見てはいけないもの

 

 王国では落ち着いてきた熱さが、帝国でまだ猛威を振るう中、アーサーから好きに使ってくれと渡された鍛錬場で、俺は朝からアーサーに任せられた兵士の特訓をしていた。

 一通りのメニューをこなさせた後は、乱取り稽古。

 武器は使わず、魔法と体術だけで俺を倒せたら兵士たちの勝ち。俺が全員に昼飯を奢る。逆に俺が勝ったら……特に何もない。

 せいぜい、観戦に来てる帝国市民の皆さんからワーワーキャーキャー言われるくらいだ。

 ちなみに本来鍛錬を観戦することはできないのだが、こんな時期だ。何か楽しみがないとやっていけないだろうから、俺がアーサーに言って許可してもらった。


 そして今、カウンターの蹴りを放ったことで姿勢を崩した俺に、最後まで立っていた一人の兵士が飛びかかってきた。


「ここで……決める!」


 避けるのもガードするのも、間に合いそうにないな……。 


『魔弾』

「なっ──!」


 下から顎を蹴り上げられ、そいつは宙に舞った。

 勝てると思っていたのか、信じられないとでも言いたそうな顔だ。


「い、今何を……」

「あ、そうか、無詠唱だったか」


 それなら、俺の足が瞬間移動したみたいに見えてもおかしくない。


「跳弾だよ」

「跳弾……?」

「さっき俺は、左の足先から地面に向けて〈魔弾〉を放った。もちろん左足は地面についていたから、足と地面の間で〈魔弾〉は爆発する」

「じゃあ……その、衝撃を利用して?」

「そうだな。体勢が整っていないことを逆に利用した。〈魔弾〉の爆発で勢い良く上がった足が、丁度お前の顎に当たったってわけだ。だから、ほら」

「っ!!」


 俺はローブの裾を上げて、左足を見せた。

 見なくても感覚で分かるが、足首の辺りがポッキリ逝ってる。複雑な折れ方をしてしまったのか、ジンジンと強く痛む。

 爆発の衝撃と、その直後の蹴りの反動に耐えきれなかったんだな。

 でも徐々に、痛みも治まってきた。


「ま、俺の場合勝手に治癒してくれるからな。自分の能力を理解して、どれだけ無茶できるかってのもかなり重要なんだよ」

「無茶……」

「意外か? 俺はよく王女様に無茶してばっかりって怒られてるんだぜ?」


 ま、何度怒られようが、エミリアを守るためにはどんな無茶だってするけどな。

 もちろん、今はエミリアだけじゃないけど。雪風とか今の俺の護衛対象であるメアとかな。

 さて、もうほとんどの奴が立つことさら困難らしいし、エストロ先輩に代わる前にここらで休憩させとくか。


「休憩だー! さっさと休めー! エストロ先輩は俺より厳しいぞー! 休憩休憩ー!!」

「うへぇ……シンさんより厳しいんですか……」

「馬鹿言え、俺は優しいだろ」


 何せ休憩時間があるんだから。


「タイヤを引きずって走るとか、外壁の外に穴を掘るとか、外壁や家を修復するとか、そんなことさせる教官初めてですからね……?」

「普段あまりしないことをすることで、体力と対応力がついただろ? それに帝都を修復したり、落とし穴を仕掛けたりできるし、一石三鳥だ」

「タイヤは……?」

「俺の国の伝統」

「王国って怖い……!」


 いや、王国じゃなくて、どっちかつぅと天照国の方なんだけどな……。

 天照国は天照国でも、発展した後の天照国みたいな……。野球部とか生まれた後の天照国なんだけどな……。

 まあでも、俺は本当に優しい方だと思うけどな。


「六歳児に重りをつけて湖に放り込んだり、小さな子供を大剣で叩きのめしたり双剣で切り刻む人たちよりはマシだろ」

「そんな悪魔みたいな人たちいるわけないでしょ!」

「悪魔だと!? てめぇ、団長たちはどうでも良いけど、俺の女神である師匠を馬鹿にすんのだけは許さねえぞ!」

「ご、ごめんなさい!」


 速い、一瞬の土下座。

 日頃からエミリアたちに土下座をしている土下座マスターの俺から見ても、完璧な評価をせざるを得ない土下座だった。

 きっと彼も、転んで彼女に飛び込んでしまったり、お風呂に入ろうとしたら何故か先に彼女がお風呂に入っていたり、野生の猫を捕まえてモフモフしていたら家の猫系獣人に嫉妬されたり、そんな経験が多いのだろう。

 うん、きっと俺だけじゃないはず。彼もそうなんだ。

 親近感が湧く。名前を覚えていてあげよう。えっと……マイケルとか、たけしとか、ドナルドとか……さとしっぽいからさとしだな。


「なんか今、今後のあだ名が決まったような気がするんですが……」

「気のせいだ」


 やけに勘の良いさとしが起きるのを手伝ってやり、治癒班の所へ行かせる。

 よし、俺も休憩するか。この後は暇だけど、どうせ何もすることがないから一人寂しく穴掘ったりするだろうし。


「あ」


 教官用の控え室に戻ろうとした時、窓から中を見て、俺は固まった。

 控え室の中に、メアがいたのだ。

 それも、俺が使っているタオルを胸に抱き締めながら、ギュッと目を閉じて。


「どういう状況だ……?」


 俺がそう言った瞬間、俺の気配に気が付いたのか、メアが目を開けた。


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