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六話:拒絶の言葉

 

「なるほど。思った以上に、帝国の内情は酷いものなのじゃな」


 時は夜。

 帝国騎士団の団長を交えて、もう一度今後の方針について話していたせいですっかり遅くなってしまった俺は、自分の部屋でキラに何があったかの情報を共有していた。

 と言ってもキラの方は目ぼしい収穫がなかったらしいので、ほとんど俺がキラに教えている形だが。


「悪魔の侵入を全く感知できていないなんて、やっぱりいつもの帝国じゃありえないことなのか?」

「当然じゃ。……とは言っても、妾が帝国に来るのはこれが初めてと言っても良いくらいじゃから、聞いた話にはなるがの」

「となると、まずは魔道具の設置からか……。確かメアがそんな感じの機能を持った魔道具を……キラ先生?」


 さっきまでベッドに腰かけていたのに、キラはわざわざソファに腰かけていた俺の隣に移動してきた。

 部屋はそれなりに広いので、わざわざ移動する必要はないのに。


「むぅ……いまは、先生と呼ぶなと言うたであろう……?」

「いやでもその……なんか近くありません?」

「そうか? エミリアならこれくらいするかと思うておうたが……」

「確かにエミリアならこれくらいするな……。それも、無自覚で。だがキラ、お前は確信犯だろ!」

「さて、何の話かの?」


 俺の腕を抱きかかえてきたので注意すると、キラはクックッと喉を鳴らして笑い、この状況を心から楽しんでいるらしい表情で俺を見上げてきた。

 見ると、キラの小さな身体の割に大きな胸で腕を挟んで、その柔らかな感触を存分に伝えてくれている。

 いやぁ、まずい。何がまずいって、駄目だと分かっているのにドキドキしてしまっているのがよくない。それと──


「あの、キラ先生……少し、不安なことがあるんですけど……」

「なんじゃ? 申してみよ」


 俺が動揺しているのがそんなに嬉しいのか、キラは俺が先生と呼んでも特に何も言わなかった。


「それじゃ、お言葉に甘えて……。もしかしなくともキラ、下着着ていないよね?」

「……」

「……」


 なんだこの緊張感は………!! 

 いやいや、でも本当につけていない状態でこんなことをしていたら、それは実際にかなりまずいことな─そんなキラを前にして俺が平静を保てる自信はない─わけで、俺の感じるこの緊張感は決しておかしいものではないはず……!


「これは、どちらと言うべきかの?」

「ッ!!」


 突如キラが立ち上がり、薄手の寝衣がスルリと流れる水のように落ち、その下からキラの身体を包む下着のベビードールが現れた。

 そこまでいやらしいものではなくとも、大きく開いた胸元から覗く深い谷間や、透けて薄っすらと見えている腰は魅力的で、俺の言葉を奪うのには十分だった。


「ふふ、少し張り切ってみたのじゃが、どうやら上手くいったいったようじゃな」


 そう言いながら、キラは俺の手を引きベッドまで行くと、純白のシーツの上に身を横たえた。

 足を組み替えるだけでベビードールの裾が捲れあがって、キラの綺麗な肉付きのいい太腿が、徐々に付け根まで露わになっていく。


「さあ……」


 こちらに向けて両手を広げるキラ。

 ここまで来たら、何をしようとしているのかくらいわかる。

 俺は片方の手でキラの頬をなで、もう片方の手でキラの手を握った。


 ……待て、何かがおかしい。俺は気付いた。

 でも、何かおかしいと分かっているのに、身体が言うことを聞かない。

 俺はキラの身体──頬、首、肩、鎖骨と指を這わせていき……


「シン! 敵襲っ……」


 鍵を閉め忘れていたのか、勢いよく開いた扉。

 その音に俺たちが扉のほうを見ると、そこには口をキッと結び、今にも感情が爆発しそうな……って、メア!?


「何匹か、状態異常を得意とする悪魔たちが直接ここに襲撃しに来た。その中には、サキュバスもいるから、男のおまえは戦うな。そう言いに来たが……どうやら、お楽しみだったみたいだな!」

「お、おい待てって! これは多分サキュバスの仕業で……!」


 どこかへ行こうとしたメアの手を掴み、俺は誤解を解こうとするが……


「うるせぇ! そんなことは分かってんだよ! 馬鹿!」

「じゃ、じゃあなんでそんなに怒って……!」

「おまえが! オレ以外の奴とあんなふうになってたからだよ!」

「……え?」


 メアの言ったことが信じられず、思わず聞き返すと、メアは拳を俺の胸に軽く押し付け、俯きがちに言った。


「オレだって、おまえにあんな風に押し倒されたいとか思うんだよ……。し、下着を見せるのは恥ずかしいけど、それでも…………」

「それって、じゃあ……」

「……嫉妬だよ。悪いか?」

「そ、そんなことは……」


 あまりに驚いたせいで、俺への催眠は解けてしまっているらしい。

 それくらい、メアの言葉は衝撃的だったのだ。


「ならば、メアも一緒にどうじゃ? ふふ、初めてが三人というのも悪くなかろう」

「え?」

「(無論メアだけでなく、妾も愛してもらうからの?)」


 でも、まだ解けているのは俺だけのようで、後ろからキラに声が聞こえたかと思うと、耳元で甘えた声を出されたせいで反応できなかったのか、俺は気が付けば三人でベッドの上にいた。

 一人用のベッドに三人が寝ているのだ。いくらキラとメアが小柄とはいえ、あまりに窮屈だ。

 身体が触れ合う度、メアが恥ずかしそうに顔を伏せる。


「ほれ、メア。もう素直にならんか、いい加減気が付いておるのじゃろ?」


 だが、メアを挟んだ向こう側にいるキラがメアを物理的に押して俺とくっつけたことで、メアも勇気が出たのだろう。

 メアはやっと、恥ずかしさで真っ赤になってしまった可愛らしい顔を見せてくれた。


「シン…………」


 メアが熱っぽい瞳で見つめてきたかと思うと、


「駄目だ……もう、抑えきれない…………」


 おずおずと俺の身体に腕を回し、ぎゅっと控えめに抱き着いてきた。

 もしかして……、逸る気持ちを抑えながら、俺は尋ねる。


「俺のことが……好きなのか?」


 俺がそう聞くと、メアは一瞬目を逸らしたものの、すぐに視線を戻して小さくコクリと頷いた。


「……うん。そうだ。オレはおまえのことが──」


 と、その瞬間、


「これで、最後だ!」


 エストロ先輩の声が聞こえ、自分の頭から何かが剝がれ落ちるような感覚を感じた。

 それは、俺だけでなくメアもキラも同じようで、キラは俺を誘惑していたことを思い出して一人悶絶し、メアはと言うと……。


「ぁ…………」


 か細い声を出したかと思うと、急速にメアの顔が真っ赤に染まっていく。

 …………そうだ。まったく気がつかなかったが、俺だけでなくキラもサキュバスの魅了に引っかかっていた以上、メアだって影響を受けていてもおかしくない。それも、龍種のキラよりも強い影響を。

 まるで俺のことが好きであるかのような反応も、こうして俺に抱き着いているのも、すべてサキュバスのせいであり…………。


「っ…………オ、オレがおまえを好きなわけないだろ、バカッ!」


 そして、キッ! と、まるで親の仇を見るような目を俺に向け、続けて、


「おまえなんか……おまえなんか……本格的に嫌ってやる!!」


 俺のことが嫌いだと、はっきりと口にしたのだ。


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