五話:ロリコン
投稿時間、これまでは6時〜8時にしてたけど、7時〜9時に変えようと思いました。
(6時台に投稿したことはないので、特に影響はないです。8時半投稿をする度に言い訳しなくて良くしただけです)
ちなみに昨日投稿できなかったのは、ストックあると思ってたら、途中までしか書いてなかったからなんです……!
修練場に向かう途中、アーサーが話しかけて来た。
「ありがとう、シン」
「?」
「王女の護衛で、史上初めて大司教を討伐した魔術師。帝国に来るのは、容易ではなかっただろう?」
ああ、そういうことか。
「そうでもないよ。俺は結構厄介者扱いされてるからね。それに友人が助けを求めてるんだ。関係ないよ」
「そうか……シンは厄介者扱いされてるんだな」
「まぁ、若くて命令違反の常習犯なのに、長い間王女の護衛をやってるしね。軍官にも文官にも、俺を嫌う人はそれなりにいるよ」
軍に入って数年経ったくらいの、慣れて来た人に多い。
軍に入る人の中には、エミリアの美しさに惚れて、彼女を守りたいと思って入隊した心熱き若者も多く、そういう人は俺を忌み嫌う。
中には俺を支持する数奇者もいるがな。
ま、出る杭は打たれるってのは、王国も俺の故郷も同じだ。
向こうでは折れてしまったけど、こちらでは折れるわけにはいかない。エミリアがいるからな。
「帝国ならばそういうこともないぞ? 実力が物を言うからな。年齢よりも貢献だ。使えない者、自身の利益のために帝国に不利益を与える者は、即刻排除だ」
「……でも、エミリアがいないだろ?」
「…………」
俺が答えると、アーサーは驚きを受けているようだった。
なんだ? そこまでおかしいことを言ったつもりはないんだけど。
「…………いや、なんでもない。さあ、もうこの扉を開けたらそこだ。心の準備をしておいたらどうだい?」
アーサーは扉の前で立ち止まり、俺とコスプレ対決をしている時によく見せるニヤリとした笑みを浮かべて、ゆっくりと扉を押し開ける。
「心の準備?」
──なんで心の準備が必要なんだ?
そこまで言い終える前に、俺はアーサーがわざわざ注告をした理由を知った。
「……随分と熱い歓迎方法だな」
「あはは……」
こちらに向けられていた杖の先から、人の頭くらいある火球が幾十も飛んできた。文字通り、熱い歓迎方法だ。
さらに、魔術師同士の隙間から、こちらに弓を向ける弓兵部隊も見える。
弾速は弓の方が圧倒的に速いから、目の前の炎ではなく、先に対処するべきは弓だな。となるとこれは、突然の出来事でも冷静に判断できるかを問う試練か?
だから俺は……
「シン? 私がいるからと言って、彼らは手加減など……」
「違うよ。アーサー」
特に何もしようとしない俺を見て、誤解したのだろう。
訝しげにするアーサーに俺は、心配するなと前を向かせる。
何故なら俺が対処するまでもなく、既に対処はされているからだ。
「はいは〜い」
ポンッと、特に意味のない演出の小爆発をさせながら、ファントムが俺たちと魔法や矢の間に現れた。
なんとも気の抜けた声、アーサーも訳が分からず……というか、現れたのが空飛ぶ小さな猫というあまりに頼りにならなそうな存在だったせいで、あからさまに心配そうな表情をしている。
それは帝国騎士団も同じ。中には小馬鹿にしている者さえいる。
まあそれも仕方ないか。基本精霊は、その身体の大きさに力が比例する。身体が魔力でできているから身体の大きい方が魔力量が多いという、単純な話だ。
小さな子猫ちゃんが出て来たところで、普通は「あ〜れ〜」とか言ってやられるしかない。
「ほい!」
だが、ファントムは違う。ただの猫じゃない。
ファントムが両手の肉球をポンッと叩いた瞬間、火球がその場ではじけて、矢がピタリと止まって地面に落ちた。
俺がよく使う、幻影魔法。それを同時に数十と展開したのだ。流石、名前がファントムなだけある。
帝国騎士団は、呆気にとられている。
「ぼくはファントム。大精霊だよ。キラーン!」
だから決めポーズを取ったファントムが、なんだかとても悲しいことになった。
誰からも反応がないとか、俺なら心が折れるな。
「はいはーい! 大精霊のぼくを前にして萎縮しちゃったかなぁ? でも大丈夫! ぼくは安心安全な大精霊だからね! ……スーに危害を加えなければだけど」
「……お前って、結構ハートが強いよな」
「褒めても何も出ないよ〜?」
「うん、やっぱ強心臓だわ。何? 猫精霊って心臓にまで毛が生えてるの?」
ポジティブというか、めげないというか……ただ単に変人というか……うん、最後だな。
空気を読まないような人だと、場が白けても恥ずかしくならないのかも知れない。
と、俺とファントムが話している間に状況を理解したのか、一人の男がゆっくりと場の中央に出て来た。
「……まずは突然の無礼を謝ろう。すまなかった。いや何、この中に大司教を殺した者がいると聞いてな……まさか、大精霊様と契約している精霊術師とは……」
そう言ってその人は、俺の方を見て来た。
…………ん?
あれっ? もしかして俺がファントムと契約していて、ファントムと一緒に大司教を倒したって誤解してる?
……もしそうだとすると、黙っていなさそうなのが二人いるんだが……。
「失礼だね! ファントムは私の精霊だ! 誰にもあげない!」
「そうなのです! シンの契約相手は雪風なのです! この猫じゃないのです!」
スーピルと、雪風だ。
……てか雪風、さっきまで寝てたよな?
「攻撃的な魔力の気配を察知したからです。戦えなくても、感覚は鈍ってないですから」
「そ、そうか。ありがとな。……ところで俺の肩に乗るのやめない? なんかロリコン精霊術師って声がどこかから聞こえたから」
「ロリコンなのです?」
「違う!」
なんか最近この問答が多くなって来て、もしかして俺ってロリコン……? とか思って来たけどまだ俺は諦めないぞ!
そうだ。この顔の両側に柔らかな太腿が押し付けられていて興奮するのも、俺がロリコンだからではなく、乗っているのが雪風という美少女だからだ!
だから「変態……」とか言って離れるのはやめろ帝国騎士団! それと仲間だと言わんばかりに嬉しそうな顔をする奴は、危険なので衛兵さんにでも突き出した方が良いと思います!
「お、おお、ではその彼女が討伐をした……」
「ううん、違うよ。人物はさっきので正解。シンくんだよ」
「え、このロリコンが……?」
「だからロリコンじゃないって言ってるよね!?」
「嘘だ! 毎日のように獣人の子と一緒にお風呂に入ってデレデレしてるのに!?」
「なんだと!? おいシンッ! どういうことだ! これまでは許して来たが、本当にそういういやらしい目で見てるなら……」
「…………シン?」
「誤解だ! 誤解! 一緒に入るのも時々だし、デレデレなんてしてない! 可愛いなぁとは思うけども、そこに変態的な感情は一切ないからな!?」
メアが泣きそうな顔になり、雪風の表情からは感情が消える。
団長も『閃光』も助けてくれそうになく、二人に挟まれた俺はどう説得しようか頭を巡らせる。
てかスーピルはなんで知ってんだよ! ……いや本当にデレデレなんてしてないけどね!?
そしてそんな情けない俺を見ながら、エストロ先輩が小さく呟いた。
「一緒に入っている時点で、十分変態ではないのか……?」




