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一話:はじめてのねんわ

生活の時間が少しズレたせいで、八時半投稿が現実味をおびてきた……。

 

「…………ん?」


 突然、魔道具を弄る手を止めて顔を上げたメア。

 場所は訓練場が見下ろせる、二十五番隊兵舎内のとある一室のバルコニー。


「どうしたのです、メア」

「いや……なんか今、急に嫌な気持ちになった」

「嫌な気持ちです?」

「なんか……イラッとするような感じだ」


 メアが苛立ちを感じたのと同時刻、シンとキラが馬上でイチャイチャしていることを、彼女らが知る術はない。

 だが女の勘というのは恐ろしいもので、メアは確かに心に嫉妬に近い感情を抱いていた。


 何故自分が苛立ちを感じているのか、この時そのことに考え気が付いていいれば、メアも自分の心を理解していたかも知れない。

 本人と相手だけが気が付いていない、メアの秘める想いに。

 だがメアは、深く考えなかった。


「お、始まるみたいだぞ」


 考え始めたその瞬間、運悪く訓練場からメリハリのある声が届いたのだ。

 一番隊隊長、『閃光』。歴戦の戦いを生き抜いてきた実力者で、多くの者から尊敬されている。

 中には、『いっちゃん』、『閃光さん』、『ピカッチ』などと呼んでいる、二十五番隊という部隊もあったりするのだが、彼らは例外だ。


 そんな一番隊隊長が、二十五番隊兵舎に来ている理由は簡単。


「間もなく、転移陣の開通予定時刻だ! 総員、準備は良いか!」

「「「「「イエッサー!!」」」」」

「え、何ここ、地獄?」

「スー、静かに」


 これから、転移魔法陣を用いて帝国に直接乗り込むからだ。

 魔法陣を描くのは、シン。

 数人ならまだしも、数十人規模の人間を転移させるような魔法陣の構築には時間と集中力を必要とするため、その間のシンの護衛をキラがこなす。

 転移魔法陣の使用には冒険者ギルドの発行する許可証が必要であり、その許可証を持っていたシンに白羽の矢が立ったというわけだ。


「今から帝都に向かうのは、先に向かった二人を含めて四十人! 選ばれた意味をよく噛みしめ、それぞれ任務を遂行するように!」

「「「「「おう!!」」」」」

「なんか暑苦しいな……鍛冶場みたいだ」

「やる気があるのは、良いことなのです」


 雪風が満足そうに頷いた。

 『閃光』だけでなく、団長やスーピルなどが代わる代わる話していき、最後に集まった者たちの雄叫びが再び響いたその時、


「あっ……ね、念話来ちゃった……」


 テーブルの上の念話石が微かな振動と共に柔らかな光を発して、それを見たメアの顔が強張る。


「きっとシンなのです。出れば良いのです」

「で、でも……オレ念話石なんて使ったことがないし……」

「魔道具を作っているのに?」

「う……何回も調整しようとしたけど、その度に壊しちゃって……成長するまで触るなって師匠が……。今も、使う機会なんてなかったし……」

「じゃあ教えてあげるのです。まず魔力を通して、耳に当てるのです」

「つ、使い方くらい…………いや、えっと……こうか?」


 使い方くらい知っていると言おうとして、しかし自分がまだ初めてということを思い出したのか、言われた通り耳に念話石を当てるメア。

 緊張しているのか、背筋が伸びている。


『──メア?』

「ひゃう! シ、シンの声が耳元からした!」

「そりゃそうなのです」

『ああ、耳に当ててんのか』

「はうぅ……! ちょ、ちょっと待て!」


 念話石を顔から離して、声がシンに届かないようにして、


「お、おい! これダメだ! み、耳元からシンの声がすると、なんか頭がおかしくなる!」


 慣れていないのか、顔を真っ赤にするメア。

 そんな可愛らしいメアを微笑ましいと思いながらも、雪風は耳に当てない使い方を教えようとして……。


「くっ……こうなったら、即興で改造して……!!」

「えっ、メア!?」


 突然、分解を始めたメアに目を丸くする。

 羞恥心がブーストをかけているのか、圧倒的な作業速度でメアは魔道具を作り直していき……。


「で、できた!」

「少し早すぎないです!?」

「こ、これで脳内に直接話しかけられているように聞こえるはず……!!」

「しかも興味をそそられる魔道具なのです!」


 売れば大盛況間違いなしの魔道具を作り出してしまったことに、メアは気が付いていない。

 ただ、新しい魔道具でシンとの勝負に勝つことを楽しみにして、シンに通話をかけなおしている。

 もっとも、勝負というのはメアが勝手に思っていることで、ルールとしては恥ずかしがらなければメアの勝利だ。


 だが……ワクワクしていたメアの顔は、その直後にまた……いや、今度は先程よりも真っ赤に染まることになる。


『──大丈夫か? メア』

「────!?」


 脳内に直接語りかけられる。

 それが耳元で囁かれるよりも遥かに恥ずかしい思いをすることに、メアは考えが及ばなかった。

 改造したことにより、メアの脳内にシンの声がクリアに届いてしまうのだ。

 メアは心臓が激しく脈打ち、腹の奥がキューッと締まるような感覚を感じた。

 メアは、再び耳から離した念話石を手に握って、黙って振りかぶり……


「うぁぁぁぁぁ!!」

「ああっ! 貴重な新しい念話石が!!」


 空高く投げ飛ばしたかと思うと、腰のガンホルダーから引き抜いた短銃を空舞う念話石に向けて、躊躇うことなく発砲した。

 その銃声に、兵舎に集められた兵士たちが何事かと顔を向けた先で……。


「綺麗だねぇ……」

「スー、多分そんなこと言ってる場合じゃないと思うよ〜」


 太陽の光が砕けた念話石の欠片に乱反射し、綺麗な花火が描かれていた。


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