プロローグ
新章です!
(四章の登場人物紹介は、五章と合わせてやります)
帝国からの救援要請を受けて、まず俺とキラ先生が、先に二人で帝国に赴くことになった。
意外なことにキラ先生が馬に乗れなかったため、軍の駿馬に二人で乗っているのだが……。
「あの、キラ先生…………」
「なんじゃ?」
落ちないよう、後ろから俺に抱き付いて来ているキラ先生。
背後だから見えないけど、そんなキラ先生と俺の間で、キラ先生の小柄な身体の割に豊満な胸がムニムニ潰れていることが、暴力的な感触で分かってしまう。
これが冬ならまだしも、今は夏、つまり薄着。紫苑でさえ感触を感じたのだから、キラ先生から受ける圧力はもう言葉にできない。
しかも本人が初めての馬に夢中で気が付いていないらしく、時より無自覚に押し付けて来たり、身体を揺らしたりするから、非常に危険な馬上である。
俺たちが乗っているのが、乗り心地より速さを重視した馬なのも良くない。馬の揺れが激しいせいで、背中の向こうで暴れている感触が常にしている。
もう、背中に意識を集中させているせいで、馬の手綱を握る手の感覚がおぼつかない。
結論、キラ先生と二人乗りは色々危険。
このままでは、そう遠くない未来に落馬する。
だから俺は意を決して、キラ先生に教えることにした。
「キラ先生のバストって……どれくらいですか?」
それも、直接言うと傷付くだろうから遠回しな言い方で。非常に紳士的な態度だな。
もしかすると、頭が混乱しているせいで何かを間違えている可能性もあるが、そんな怖いことは考えない。
「何を言うかと思えば、何を聞いておるのじゃ!? 胸の大きさなど、今は関係っ…………」
キラ先生の言葉が、ピタリと止まった。
気が付いたのだろう。自分が今、胸を俺に押し付けていることに。
「す、すまぬシン! 気が付かなかったのじゃ! あ、えと……気になるのなら、妾が前に座ろうかの?」
だが流石は長い時を生きるキラ先生。動揺はしたものの、理不尽に怒るようなことはない。
これがメアだったのなら、きっと顔を真っ赤にして怒る…………いや、メアは胸にコンプレックスがあるみたいだし、自己評価の低さも相まって「どうせオレなんて……」とか言い出しそうだ。
そして俺がメアの良さを伝えると、何故か殴られる。理不尽すぎる。
「そうしてくれると、助かります」
一旦馬を止め、キラ先生が前に座るように位置を変える。
キラ先生も小柄だが、流石に腕の中にすっぽり収まるほど小さくはない。
だから落ちないように片手でキラ先生を抱き寄せ、もう片方の手で手綱を握らなければいけない。
馬の操縦が少しだけ大変だが、さっきの集中できない状況よりはマシだ。
「これはこれで、なんか恥ずかしいの……。お主に、後ろから抱き締められておるぞ……」
密着しているのは変わらないが、さっきよりは大丈夫だ。
「……ひゃうっ、擽ったいのじゃ……」
キラ先生の髪の良い匂いが常にするが、さっきよりは我慢できる。
「……思えば、二人きりでお主がこんなに近くにいるのは、初めてではないか? ふふ……妾よりも、随分と大きい身体じゃな」
なんか突然恥ずかしいことを言い出したが、まだ…………。
「む? なんじゃ、これは」
「っ!!」
それを確かめるように、キラ先生がお尻を動かす。
「……おい、シン」
「…………」
「無視しても無駄じゃぞ。妾のお尻に、何やら硬いものが当たっておるのだが……これはなんじゃ?」
やめて、お尻でグリグリしないで!
というか顔が見えないのが怖い!
「はぁ……紫苑に雪風、グラムと三人から好意を寄せられておきながら、妾にまで反応するのはどうなのだ?」
「し、仕方ないでしょう……あんなに胸を押し付けて来ていた先生のせいですよ? 大丈夫です、俺たちは教師と生徒なんですから、ちゃんと弁えてますって」
「まあ確かに、妾のせいでもあるか……。弁えておるのなら良い。……じゃがなぁ……それはそれで、少し嫌な感じがするのじゃ……」
どこか不満そうなキラ先生。
それってつまり、弁えないでくれってことか……? まさかキラ先生にも発情期が……!?
そ、それは大変だ。運動しなくちゃ。
と、そんなことを考えていたのだがどうやら違ったようで、
「今は学院ではなく、軍としての仕事であろう? 教師ではなく、一人の仲間として見てほしいのじゃが……」
「ああ、そっち…………」
「そっち?」
「いえ、なんでもないです。えっとじゃあ……学院に入学する前の話し方で良いか?」
「うむっ! それじゃそれ! 敬語に慣れて、その喋り方には違和感を感じるかと思うていたが、全くそんなことはない! なんだか距離が縮まったような気がするぞ!」
そうか、そういえば入学したばかりの頃はよく、俺の敬語に違和感を感じるって言ってたもんな。
段々と慣れて行ってたみたいだけど、敬語じゃない方が好きなのか。……それなら今度から、学校外ではタメ口にしようかな……?
「の、のぉ……お主よ、他には何かないかの? なんだか、懐かしくなって来てしまってな」
「他には…………?」
「なんでも良いぞ? 例えばそう……「ママァ、撫で撫でしてぇ〜」とかの!」
「そんなことを言った覚えはない!」
「ふふ、冗談じゃ♪」
そう言って、甘えるように俺の腕に頬を擦り付けるキラ先生。
…………なんか、調子狂うな……。
俺の知る昔のキラ先生は、ポンコツ感はあったものの甘えるなんてことは絶対になかった。
Sクラスの教師をやることで、心に余裕が生まれたのだろうか。
だとしたら、良いことだ。その甘えの矛先が俺に向くとしても、良いことだ。
流石にみんなの前でするようなことはないだろうし、息抜き程度に甘えてくれるなら、俺もむしろ大歓迎だしな。
だから俺は、キラ先生……いや、キラの要望にしっかりと応えた。
「これから改めてよろしくキラリちゃん! ところで良い髪の匂いだね!」
「それではない!! というかなんだか変態みたいではないか!? むぅっ、嗅ぐな嗅ぐな!」
匂いを嗅ぐのを邪魔するかのように、頭を勢い良く振るキラ。紅髪が綺麗に舞った。
「なんでもするって言ったじゃん……」
「なんでもするとは言ってないからの!?」
なんでもいいは、なんでもよくないんだなぁ……。
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