エピローグ
遅れました……もういっそ、これから八時半投稿にしようかな……?
「アヒャ、アヒャッ……アヒャハハハハハハハハ!!」
その部屋で、一人の男が腹を抱えて床に笑い転げていた。
男の身体は龍のような鱗と獣のような体毛に覆われており、背中からは禍々しい翼、腰からは細く長く先の鋭い尻尾が生えている。
悪魔の一種だ。
そこにいるだけで周囲全てを圧倒し飲み込むような、大悪魔。
「…………何がおかしい」
だがある男は、その悪魔を前にしても微動だにしなかった。
腰についた鞘から剣を抜くこともなく、玉座に座ったまま、立とうともしない。
──皇帝。
人類最強とも称される、帝国の長である。
「いや、何。アンタの言うことが面白くてねぇ……。いやぁ、無知っていうのは怖いよ」
「俺が無知だと?」
「ああ、無知だね。俺の正体を知っていれば、あんな発言はしないだろうに」
「ほう。では聞こう、貴様は何者だ? 近衛兵たちを瞬く間に無力化した、貴様の名は?」
死闘において、相手を気絶させるためには、かなりの力量差が要求される。
相手が多人数であれば、尚更だ。
皇帝直属の舞台である近衛兵たちの実力は、語るまでもないだろう。それをこの悪魔は、いとも簡単に気絶させた。
「良いぜ、教えてやる! 俺の名前は『罪悪』のルシフィエル! 正神教徒、大司教だ!」
──大司教。
最近、史上初めて討伐が為された、災厄そのものの存在。
この悪魔が傲るのも当然だ。
だが…………
「ほう、大司教がわざわざそちらからやってくるとはな。丁度良い、敵の頭を殺せばこのくだらない抗争も終わるだろう」
「…………は?」
皇帝に動揺はなかった。
動揺したのはむしろ大司教の方だ。
「な、何を言っているんだ!? 俺は大司教だぞ!? そ、そうか! 貴様、大司教が討伐されたことで俺たちを侮ってやがるな!?」
「侮る? そんな愚かな真似を俺がすると思うか?」
「じゃ、じゃあ何故勝てると……」
「勝てるとは言っていない。だが、俺は負けなければ良い。貴様に痛手を負わせ痛み分けするだけで、俺たちの勝利だ」
立ち上がり、鞘からゆっくりと剣を抜いて行く。
その表情には、恐れがない。
ただ、死闘を終えた後の、自分だけが立っている姿を見ていた。
「はっ、はははっ! どちらにしろ貴様は馬鹿だ! 大司教と戦い生き残るなど……」
「そうか? 俺はそうは思えないがな。息子の友人を軽視するつもりはないが……これでも、昔はかなり鳴らしていたのだぞ?」
「はっ、そうか! なら手合わせと行くか!」
合図はなく、二人は同時に走り出した。
大司教と人類最強の戦い。
「……こんなものか」
一言、部屋に言葉が響き、次の瞬間、
「えっ…………?」
悪魔の身体に、斬撃の赤い線が走った。
傷は瞬く間に開き、
「ガッ……あぁぁっ!!」
のたうちまわる悪魔を冷ややかな目で眺めながら、
「……弱いな。大方、新参者。それも息子の友人が打ち倒した者の後釜に据えられた程度だろう」
「くそっ!! 舐めやがって……!!」
「ほう、まだ立つか。その心意気だけは認めてやろう。だが…………」
血に濡れた剣が、悪魔の首めがけて振るわれる。
無造作に見えて、少しの隙も感じさせない一撃。当たれば死は免れない一撃を、辛うじて立てた程度悪魔では避けることができない。
「目に目を、歯には歯を! 貴様の身体を持って貴様の罪を償わせる!」
「っ!」
だが、当たることはなかった。
当たる直前、剣がピタリと止まったのだ。
「ぐっ……!!」
ゆっくりと下がる剣先から、悪魔のものとは違う血が滴り落ちる。
皇帝の身体中に、深い斬撃の跡が刻まれていた。
「な、に、を…………!!」
「俺の能力だよ。……だが、まずったな……。予想以上に、傷が深い……」
悪魔がゆっくりと手を伸ばすと、門のようなゲートが開いた。
よろよろと、門に入って行く悪魔。
「ふんっ……」
後には、血だらけの皇帝が残された。
♦︎♦︎♦︎
「…………どうする? 団長。あの皇帝がやられるなんてね……正直、スーピルさんも予想外だよ」
「ああ……まさか、あの男に傷をつける人間がいたとはな……。いや、相手は悪魔だったか」
二十五番隊兵舎で、報告書片手に、スーピルと団長が顔を合わせていた。
「で、誰に行かせる? どうせ王様から言われてるんでしょ?」
「…………俺たちだ」
「私と団長?」
「いや……それは、明日、あいつらが帰ってきてから話す」
「…………少なくとも、シンくんは確定か……。ま、アーサーくんがいるしね、仕方ないか。はぁー! 私も久々の遠征だぁー! 楽しむぞー!」
大きく伸びをしながら、スーピルが研究室に入って行く。
後に残された団長は、スーピルがいなくなったことを確認してから、小さく、呟いた。
「…………お願いだから、誰も死なないでくれ……」




