表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

216/344

四十話:海水浴の準備

遅れてすみません……

 

「よし、準備完了」


 部屋で水着に着替え終えた時、


「なぁシン、ちょっと良いか?」


 ノックされた扉の向こうから、メアの声が聞こえた。

 みんなと一緒に、もう海に行っているはずじゃないのか。気になって扉を開けると、折り畳まれている空気の入っていない浮き輪を胸に抱いて、メアが立っていた。

 着ている水着は、破けてしまった昨日の水着と種類が同じ、胸から腰回りまでを覆うワンピースタイプの水着。だが、色や柄は違うせいか昨日とはまた違った印象を受ける。

 ちなみに、昨日は青系で昨日はピンクだ。厳密にはサーモンなんちゃらみたいに、同じ青やピンクでも細かい違いがあるんだろうが、残念ながら俺は詳しくない。


 それはともかく、突然メアが俺の部屋にやってきた理由が分からない。


「急にどうしたんだ? 水着なら似合ってるから安心して良いぞ?」

「なっ! み、水着のことなんて誰も聞いてない! ……でも、一応礼は言っとく。あ、ありがとう……」


 違うのか。新しい水着がみんなに変だと思われないか気になったから、俺に聞きにきたのかと思ったのに。

 でも水着じゃないとなると、他には……


「浮き輪か? 貸してみ、膨らませてあげるよ」

「う、浮き輪でもないけど……膨らませてくれるのは助かる。……あっ、こ、これはあれだぞ! 泳ぐのが面倒だから使ってるだけで、別にオレが泳げないとかじゃないからな!」

「はいはい、分かってるって」

「その言い方は絶対に分かってないだろ!」


 顔を真っ赤にして吠えるメアの腕の中から浮き輪を引っこ抜いて、俺は口を使って膨らませていく。

 魔法を使うことも考えたが、威力とかの調整が面倒なのでやめた。魔法でゆっくりやるくらいなら、口で直接空気を吹き込んだ方が速いのだ。

 昨日のメアは苦労していたが、肺活量の差か、俺はそこまで苦労しなかった。

 とは言え時間はそれなりにかかったのだが、膨らませて終わってメアを見ると、まだメアは廊下でモジモジしていた。

 さっきまで膨らませる前の浮き輪を胸に抱いていた腕が、今は居場所を失って動いている。


「…………入らないの?」

「え、いや…………まぁ……」


 俺が聞くが、メアの答えははっきりとしない。

 昨日、無防備なのはお前の方だと言われたのが、実はそれなりにショックだったのか?

 一瞬そう思ったが、メアはひとつ深呼吸をした後、結局俺の部屋に入ってきた。どうしたんだろ。


「う、浮き輪、ありがと……」

「お、おう……どういたしまして……」


 なんだか、メアの様子がおかしい。今の言動もそうだけど、そもそも何かを恥ずかしがっているように見える。

 メアが恥ずかしがりそうなこと……脳内検索をかけてみるが、妥当そうなのは俺の服関係だ。また何か、脱いだまま忘れてしまっていたのか。

 でもそれにしては、メアに怒りとか謝罪の感情が見えない。


 と、俺がメアの用件を予想していると、


「あ、あのさっ! その、おまえに頼みがあってさ、今日は来たんだ」

「……頼み?」

「こ、これなんだけど……一人じゃ難しいから、おまえに頼みたくって……」


 そう言って、メアは小瓶を渡してきた。

 この小瓶に入っているトロトロの液体はもしかして……


「日焼け止め?」

「そ、そうだ」

「でもメアの水着って背中も覆われてるけど、大丈夫なのか……?」

「水着に覆われてても必要なんだよ! い、いいからさっさと……」

「いや、そういことじゃなくてさ、これ、どうやって塗るの?」

「は? だから手で液体を伸ばすようにして……お腹とか背中に……」


 もう一度言う。メアの水着は、肩紐のあるワンピースタイプだ。

 背中に塗るためには、水着を脱がなければいけない。


「ぁ…………」


 どうやら、考えていなかったらしい。

 か細い声を漏らしたメアの顔は、気がついていなかったことへの恥ずかしさと、水着を脱ぐという恥ずかしさで赤くなっている。


「だからやっぱりエミリアたちに頼んで……」


 もう良いだろう。俺が小瓶を返そうとすると、


「べ、別にそれくらいなんてことない!」

「はい!? 脱ぐんだぞ!? おまっ、それでも関係ないとか……」

「関係ないってオレが言ってるんだから良いだろ! そ、それともなんだよ、おまえはオレの裸なんか見なくないって言うのか……?」


 怒ったような表情だが、どこか不安そうに見える。

 その表情でその質問はズルイと思う。見たいか見なくないかで言えば、断然見たいのだから。

 オレは観念して、後ろを向いた。

 ……大丈夫、日焼け止めを塗るだけだ。変なことを想像するから、いやらしいものに思えるのだ。


「も、もう大丈夫だ」


 メアに呼ばれて再びベッドの方に目を向けると、メアは俺のベッドの上にうつ伏せに横になっていた。

 水着はお尻ギリギリまで下ろしていて、一矢纏わない背中はシーツよりも綺麗だった。

 …………そして、怖いのを紛らわすためか、枕を胸に抱いている。どうしよ、今夜から寝る時にこの枕使えない。絶対良い匂いしちゃう。


「へ、変なことしたら本格的に殺すから」


 それは枕に対して? なんてことは聞かない。本人も気が付いてなさそうだしな。

 かなり恥ずかしいみたいだし、さっさと終わせてあげた方が良いだろう。


「い、行くぞ……」


 俺はしっかり伝えてから、トロトロした液体をつけた手をメアに伸ばした。


「ひゃぁ……っ」


 その手が背中に触れた途端、メアがピクリと身体を震わせ、何やら甘い声を出す。

 その反応に思わず手が止まったが、声はどうやら無意識のようで、メアは不思議そうに「シン?」と顔だけ後ろを向いて聞いてくる。


 あんな声を出したなんてことを知ったら、色々あって俺が変態呼ばわりされることは、これまでの経験から目に見えている。

 だから俺は無視して、メアの幼い背中にオイルを塗り込んでいく。


「んっ……あっ……。な、何だこれ……、か、身体の奥が……ふぁ、……ジンジ……ンッ……、ぅぁ、してくるぅ……」


 俺が手を動かす度に、出そうになる声を押し殺そうとするが、残念ながら全て漏れ出ている。

 なんというか……これなら我慢とかしないで、普通にくすぐったがって欲しい……!

 声を押し殺してるせいで、なんかイケナイことをしてる気分になるから……!!


「シン……、な、なんか身体が……んぅ……へ、変なんだ……。おまえに背中触られてると……はぅ……ポ、ポカポカする……」


 枕をギュッと抱き締め、涙の滲む瞳をこちらに向けるメア。


「うぅ……は、恥ずか、しい……。こんなの……ふぁ、オレじゃない……」


 俺の顔を見たことで恥ずかしくなったのか、火照った顔を枕に埋めてしまうメア。

 ……こ、これはヤバイ……。た、ただ日焼け止めオイルを塗っているだけなのに、なんだかイケナイことをしているように……こ、こうなったら何か別のことを考えて……。


「んぁ……はっ……くうっ…………」


 だ、駄目だ! 

 この状況で他のことを考えるとか、できるわけがない!

 は、早く終わってくれ……!


「んんっ……おまえ…………日焼け止め塗るの、上手すぎだろ……はぁ……はぁ……」


 永遠とも思える時間が過ぎ、やっとオイルを背中全体に塗り終えた時、メアは荒い息を吐いてグッタリしてしまっていた。

 でもその顔はどこか、誇らしげにも見えた。

 

肌を守るためにも、日焼け止めって大切ですよね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ