三十九話:夜中の決意
昨日投稿できなくてすみません……
「……本当に、どうしたんだろ。オレ……」
夜、眠れなかったオレは、一人浜辺に来ていた。
波打ち際を歩くと、冷たい風が頬を冷まして、心地よい波の音が耳に届く。
でも……それでも、オレの心は落ち着かなかった。
だって、だんだんと分かってきてしまったから。今日一日過ごして、流石に気が付いてしまった。
「オレはシンに、認められたいんだ……」
オレがこんなにイライラしている理由は、多分それだ。
認められたいと言っても、そこには色々ある。
仲間、隣に立ち共に戦える仲間として、オレはシンを助けたかった。シンが困っていた時、オレは帝都にいた。そのことが、ずっと心のどこかで引っかかっている。
エミリアたちにも劣等感を感じているというか、距離を置いているのも、これが原因だ。
……でもそれは、海に来る前から薄々知っていたことだ。
オレが今こうして悩んでいるのは、今日初めて気が付いたもう一つの方の、『認められたい』。
オレはきっと、シンに自分を見て欲しいのだ。それも、嫌な感じではなく、「あ、あの子可愛いな」みたいな感じで。
「なんで、こんなに苦しいんだろ……」
シンがエミリアに見惚れていた時、シンと雪風が抱き合っていた時、そのどちらでも、オレは目の前が真っ暗になったように感じていた。
幸い、すぐに再起動したからキラたちにそのことがバレることはなかったけど、訝しげにはしていた。
逆に言えば、オレは訝しげに思われるほど、シンが他のみんなと仲良くしていることにショックを受けていたわけだ。
見た瞬間に沸き起こって身体を支配した、怒り、悲しみ、寂しさ、切なさなどの感情が混ざり合ったような感覚は、忘れようにも忘れられない。
「オレとあいつは、ただの仲間なのに……」
オレはシンのことをオレの人生を救ってくれた恩人だと思っているけど、シンにその自覚はないと思う。
そしてまたシンは、今オレが感じている感情を、オレに対して感じることはない。
そう考えると、ひどく悲しい。
「こんなの、知らない……」
怒った時よりも静かなのに、怒りよりも激しく大きな感情だ。
周りに綺麗な女性を侍らせている女ったらしなのに、すぐ裸を見たり胸を触ってくる変態なのに、気付いて欲しい所に気付いてくれない鈍感野郎なのに。
二十五番隊員らしい、常識外れの変人なのに…………
「なんで、シンが頭から離れないんだよぉ……」
最近ずっと、オレはシンのことばかりを考えている。
シンの仕草、シンの言葉、目線の動き、その全てが気になって、気が付けば目で追ってしまっている。
それで目が合うと嬉しくて、他の奴を見ているとムッとする。
時々、目が合って手を振ってくれたりした時なんか、もう駄目だ。顔が人に見せられないくらい緩んじゃって、オレはすぐ自分の部屋に逃げる。
毎朝シンを起こす時、何度も自分の身嗜みを確認してから起こす。勿論、ちゃんとシンの寝顔を見て楽しんだ後に。
装備品とか魔道具に関しての話でも、シンがオレの工房とか部屋を訪れたりしたら、恥ずかしさと嬉しさで過度に緊張して無愛想になってしまう。
意図せずにお互いの手が触れた時、魔道具の研究に興奮したシンがオレの手を肩を掴んだり、手を握った時、褒めて頭を撫ででくれた時。
気にしないそぶりをしたり、シンをオレから引き剥がしたり、子供扱いするなと怒ったりするけど…………本当は、ものすごく恥ずかしい。
今日、お姫様抱っこをされた時なんか、直接肌と肌が触れ合うせいで、もう死ぬんじゃないかと思った。
シンが腕を離せば、オレは海に落下して溺れ死ぬ。その、シンの腕だけがオレの支えという状況に、シンがとても逞しく格好良く見えたのも真実だ。
でもそんな時は大体、素直になれない。シンと触れた所が熱くなって、オレの体温も上がって、それを誤魔化すために、思ってもないことを言ってしまう。
「オレがオレじゃないみたいだ……」
オレの中に素直じゃないもう一人のオレがいて、焦ったり緊張したりすると、そいつが出てしまうような感じだ。
本当は、シンに頭を撫でられるのも好きだし、お姫様抱っこされるのも、見られるのは恥ずかしいけどシンを感じることができて好きだ。
でも、それを伝えるほどの勇気はオレにはなくて、だからこうして一人夜の海に来ている。
波の寄せる砂浜に、オレの伝えられない想いを表すために。
「…………」
屋敷の人たちと仲良くなるために計画した海水浴。
でも、その本当の目的……本当のターゲットは、エミリアたちじゃない。シンだって、また屋敷の住人なのだ。
そしてまた、今のこの悩みを解消しなくちゃ、オレはエミリアたちとも仲良くなれないと思う。
「明日から、確認しないと……」




