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二十九話:第二の問題

昨日投稿できなかったのは、寝ていたからです。起きた時には、時すでに遅しだったのです。すみません。

 

「もうお腹いっぱいにゃ……」


 紫苑の水着問題がひとまず解決したその夜、出された料理の半分ほどを食べ終えた所で、グラムがお腹を押さえながら言った。

 いつもならおかわりをするくらい食欲旺盛なグラムにしては、中々珍しい光景と言えるだろう。

 俺の誘いを受けて泊まることにした紫苑は、グラムを見て驚いている。

 だが俺たちはそこまで驚かなかった。


「どーぞにゃ、シン」


 ()()()()()、俺はグラムから料理を受け取って食べた。

 紫苑の分おかわりがなくなっていたから、ありがたい。

 エミリアの料理は、リーシャに叩き込まれたメアと孤児院で子供たちを養っていたグラムの指導によって急成長している。

 入学時では複雑怪奇な見た目をしていたとは思えない程、見た目も今では綺麗になっているのだ。

 そして当然、味も美味しく成長していて、一口食べたリーシャさんは激しく混乱していた。


「? どうかしたか、紫苑。箸を持ったまま固まっているけど」

「いえ……グラム殿が、残しておられるので……。食事制限……という訳でもなさそうですし」

「実は、最近食欲がないのにゃ。あ、でも病気とかじゃないから気にしなくていいにゃよ?」

「はぁ…………了解にござる」

「そんなことより、久しぶりに紫苑もいるのにゃ! グラムはもっと色々話したいのにゃ!」

「お話って言えば、最近王都で変な人たちがいるよね? 大声で王族の歴史をお話ししている」

「ああ、それは多分半王家の方たちですね。悪魔族を利用したクーデターの責任を誤魔化しているんですよ」


 王国軍の練度が低いせいで、多数の死者が出た。そもそも王族の行う政治が悪いせいで、クーデターが起きた。

 主張しているのは主にこの二つだ。

 後者はともかく、前者は真実だけに何も言い返せないのだ。まあもっとも四番隊の裏切りがなければ、メアや団長やスーピルも前線に出ることができた訳だけど。


「クーデターを起こしたのはあいつらで、王族は何も悪くないのにな。エミリア、あまり気にするなよ?」

「う、うん。大丈夫。あ、そういえばアーサーくんはなんで帝国に帰ったの? ずっと気になってたんだけど」

「帝国で怪しい動きがあるんだってさ」

「怪しい動きか……」

「何か知ってるの? メアちゃん」

「えっ? あ、ああ……まぁ……知ってるというか、心当たりがあるっていうか……」


 メアは帝国に行ってたからな、帝国の情勢には詳しいだろう。

 それにメアは、魔道具や武器を作る練成士だ。


「武器です?」

「武器? どういうこと、雪風お姉ちゃん」

「戦うのには武器が必要です。戦争やクーデター、大討伐の前には、必ず大量の武器が動くのです」

「武器が動くの!?」

「違うにゃマリン。この場合は、いっぱい売れるってことにゃ」


 アニルレイに行った時、俺たちが武器屋を真っ先に訪れたのと同じように、武器を作ることを得意としているメアは、その街の武器の流通を見てしまう。

 どんな武器が人気なのか、どんな機能が求められているのか……。

 気に入った相手にしか武器を作らないせいで不真面目なように思われているが、メアはかなり真面目だ。

 毎日のように装備の流れを見ていれば、何かがおかしいことにもすぐに気がつくだろう。


「とは言え、帝国は実力主義の国です。反乱など日常茶飯事でしょうから、気にすることはないと思いますよ」


 ♦︎♦︎♦︎


 女性陣が仲良く風呂に入っている中、一人だけ自分の部屋に戻った俺は、紙を取り出し机に置くと、一言だけ書いた、


 『グラムの発情期問題』


 紫苑の水着問題がひとまず解決した所で、次に俺が取り組むべき問題はそれだ。場所の方は、キラ先生に心当たりがあるらしいのだ。


 発情期の問題は、紫苑の問題と違って解決方法は簡単だ。俺がグラムと交わるだけである。

 だがそれはあり得ない。グラムには可哀想だが、それは許されない。


 海に行っている間だけでも、発情期を抑えられれば良いのだが……。


「駄目だ……エッチなことしか思いつかない……」


 『獣人+発情期=なんかエロい』こんな方程式が頭にある俺が、紫苑の時のように素晴らしい案を思い付くはずもない。

 教官として王国軍を鍛えているせいで疲れ切っているのもあって、俺は何度もやめたいと思った。

 

「でも……」


 グラムだって、なりたくて発情期になってるわけじゃないんだ。


 本人の口から聞いたことはないが、グラムは俺のことを異性として好いてくれていると思う。

 何故なら、いくら発情期だと言っても、プライドの高いグラムが好きでもない男を誘惑するはずがない。


 好きな男の前で発情している状態、グラムだって嫌に決まっている。実際俺は、部屋で泣いているグラムを見たことがあるわけだし。


 一刻も早く、対処法を見つけてあげたい。

 だから俺は、今日もまた、沢山の文献を漁っているわけだが……。


「駄目だ。信頼できる文献が少なすぎる……」


 獣人は発情期になるとどこかへ行ってしまう。そのせいで研究も進まないのだろう。

 その上、発情期に対する対処法自体の研究がされていないのか、対処法に言及していない書物も多い。書かれていても、自慰や性交等々が数行で書かれている程度だ。

 中々、求めている対処法が見つかなかった。


 それだけならまだしも……


「読んでることがバレたら、メアに殺されるな……」


 印刷技術の進歩により、これまで世界に一冊しかなかった沢山の書物が、近くの本屋で買えるようになった。

 もちろんその中には、官能小説やエロ漫画も含まれる。

 論文などで調べるのに行き詰まった俺は、そちらの方にも手を出していたのだ。

 結果、


「…………」

 

 興奮してしまっている。

 もちろん、俺がエロ本を読んでいることにやましい気持ちは一切ない。

 でもやっぱり、発情しきった獣人のヒロインが主人公と濃厚なイチャイチャをしているのを見ると、変な気分になってくる。 

 最初は主人公を揶揄っていた猫系獣人の女の子が、主人公の反撃に遭ってにゃんにゃん言っているのを見ると、頭の中で勝手に俺とグラムに置き換えてしまう。

 毎日こんな状態だから、グラムの誘惑から逃れるのにも実はかなり苦労しているのだ。グラムをにゃんにゃん言わせてみたいとか思っちゃうのだ。


「〈ストレージ〉に魔導書よりもエロ本の方が沢山入っている魔術師って、一体なんなんだろう……」


 そんなことを呟きながら、またページをめくる俺。

 その目が、ある一文に止まった。

 続きを読んで行くと、結局獣人の子はにゃんにゃん言うことになっていたが……。


「これなら……いけるかもしれない」


 ゴクリと唾を飲み込んだのは、決して主人公と獣人の子が愛し合っている生々しい表現のせいだけではない。


特に変な意味はないんですが、『にゃんにゃん』って良いですよね。発音というか……響きが可愛い。


小さい子供が「ワンワン」「ニャンニャン」って言うから、脳内で『にゃんにゃん=可愛いもの』ってなってるのかも知れないです。

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