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二十八話:一枚上手?

 

 紫苑が着ることのできる服の共通点は、『昔から身近にある』ということだ。

 天照国は別に鎖国をしているわけではない。天照国出身の全員が和服を着ているわけでもない。

 ショーツやブラジャーといった定番の下着は、もちろん存在する。

 大人っぽさに憧れていた幼い頃の紫苑は、姉の下着をこっそり着用しており、それによって今もスパッツやスカートを履くことができている。


「つまり、慣れれば良いんだ」

「…………それで、これでござる?」

「ああ。良い案だろ?」

「これは、強引と呼ばれる類だと思うのでござるが……」


 俺が考えたのは、『普段から水着を着ればそのうち慣れるんじゃない?』というものだった。

 なんとも素晴らしい案ではないか。

 この素晴らしい案を実行して、紫苑は今水着になっている。


「あの、それにこのような水着で意味があるのでござる?」

「和服要素があった方が、紫苑も楽になるからだよ。それともこっちにするか?」

「それはただの紐でござる! いえ! 拙者はこの水着で徐々に慣れていくので!」


 マイクロビキニを見せると、真っ赤になった紫苑は、今着ている水着を守るように両腕をクロスさせて胸を隠した。


 普通の水着と違うのは、胸を覆う布と繋がる袖があることで、袖の下には(たもと)がついている。

 そして胸を覆う布自体も、着物の襟合わせと同じようにyの字(左胸を覆う布が、右胸を覆う布の上にある状態)になっている。

 さらに着物の裾をイメージしたであろうパレオまでついているから、露出度はそれほど高くない。


 慣れるのならまずはこれからと考えて選んだが、もうこの水着で海に行って良いのではないだろうか。

 普通に可愛いし、何より紫苑らしい格好だ。


「…………シン殿は、こういった格好が好きなのでござる?」

「え? まー、露出が多いのは嬉しいけど……。でも俺としては、露出度が高いとむしろ心配になるんだよね。それどころじゃないって言うか……他の男に見られている気がしてさ」

「独占欲が強いのでござるな」

「うん…………自分でもそう思う」


 その醜い独占欲のせいで、俺はあろうことかエミリアを襲おうとしてしまったわけだし。

 我に帰ったから良かったものの、あのまま暴走していたらと考えると、本当にゾッとする。


「それで、どう? 慣れてきた?」

「それは全く。ですが……何というか、今すぐ脱ぎ捨てたいとは思いませぬ」

「そりゃ、脱いだら裸になるしな」

「いえ、そういうことではなくて……多分、シン殿が拙者のことを考えて選んでくれたからだと思いまする。無論恥ずかしさはありますが、これはどちらかと言えば普段に比べて露出が高い故。水着を着ていることはあまり関係ありませぬ」

「そうか……なら、次のを着てくれないか?」


 和服っぽさがある分、紫苑もあまり嫌悪感を抱かなかったようだ。

 この水着はもう良いだろう。俺は次の水着を紫苑に渡す。


「これは……巫女服?」

「をモチーフにした水着。露出度はさっきよりも高いが……着られそうか?」

「はい、今なら着られるかと」


 部屋から出て待つことしばし。

 紫苑に呼ばれて部屋に入ると、そこには巫女服をモチーフにした水着を着た紫苑がいた。

 全てにおいて、さっきよりも露出度が高い。


「…………取り敢えず、「お帰りなのじゃ」って言ってくれ」

「一言目がそれでござる!? も、もう少しこの服装への感想を……じゃ、じゃなきゃ拙者の勇気はどうなるのですか!」

「感想……感想ね……」

「一番最初に思ったことで構いませぬので!」


 俺の感想が貰えなきゃ割に合わないとばかりに、「さぁさぁ!」と感想を要求してくる紫苑。


「エロい。海用の水着って言うより、もうそういうコスプレにしか見えない」

「酷い!」

「確かに可愛いし、似合ってはいるんだけど……なんかエッチな気分になるんだよな……。あまり他の奴には見せたくない」

「えっ……? 可愛いのでござる?」

「うん。というか紫苑自体が可愛いから、何を着ても可愛いんだよな……。だから感想を言わなかったんだけど……」

「っ…………!! そ、そうでござるか……。へ、へー……」


 何着ても可愛いのだから、一目見て思うことは可愛いの一択なのだ。

 着る服によって変わるのは、似合っているかどうかと、俺がどう感じるか。


「可愛いのは当然だし、巫女服をイメージしているんだから確実に似合う。それ以外に思った感想で一番最初に浮かんだのが、エロいなって感想だったんだよ」

「な、なるほど……。そう言われると、悪い気はしませぬ。ですが、拙者たちは言われないと分からないのでござる。シン殿の感想も確かに嬉しくはありますが、やはり、可愛いと思われたのであればそれは言葉にして頂きたいと申しますか……」

「そういうものか」

「そういうものです」


 可愛いばかり言っている男みたいに思われるのが嫌で、俺はあまり言わないようにしていたのだが……これから少なくとも紫苑には、正直に言うようにしよう。


「……で、どうだ? その格好でビーチに出れるか? 一応、他の客が少ないビーチを探している所だけど」

「うむ…………実は、シン殿だけに見せるのであればどんな格好であろうと、拙者は我慢ができるのでござる」

「え、全裸でも……? 裸以上に恥ずかしい格好でも……?」

「……はい。拙者の身体は貧相ですが、それでも興奮してくれるのであれば、嫌ではありませぬ」

「…………紫苑ってやっぱり尽くすタイプ? 尽くすことに喜びを見出すタイプ?」

「そうでござるよ? ですから、独占欲の強いシン殿とは相性バッチリなのでござる!」


 な、なんて恥ずかしいことを……!

 俺は内心かなり動揺していたが、それを悟られれるのは何だか悔しい。

 

「…………と、取り敢えず着替えろ。それとなんなら、泊まって行かないか? 屋敷での俺たちが気になるのならさ。みんな喜ぶよ」


 タオルをかけて紫苑の綺麗な肌を隠し、照れているのが露見する前に俺は部屋から出ていく。

 顔には出していないし、声が上擦ったりもしていない。

 でも何故だが、紫苑には全てバレているような気がした。


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