二十七話:水着を着るために
「スパッツ……?」
「…………あ、あの……」
和服の対極に位置すると言っても過言ではないだろ……。
そうか、部屋着の紫苑は外着に比べてスカート丈が短いと思っていたが……。こういう防衛線があったのか。
「いや、普段から着ている可能性も……」
「シン殿? そ、その……」
いやいや、今はそういう話じゃない。
紫苑がこれを履いているという矛盾について、今は話すべきだ。
「あ、あの……いくら下着ではないと言っても、そこまでじっくりと見られるのは……」
何故か恥ずかしがり始めた紫苑。
モジモジと内腿を擦り合わせているのを見るに、もしかしてトイレに行きたいのだろうか。
正直スパッツの状態でそんなモジモジされると興奮してくるので、紫苑には辛いかも知れないがトイレは我慢して欲しい。
「あ、あのっ! もうそろそろ限界で……!」
「…………」
と、まあちょっと紫苑を虐めて楽しんでいたけど、どうやら紫苑の羞恥心が限界を迎えたようだ。
トイレではないぞ?
確かに、呼び出した時は緊張していたのか沢山水を飲んでいたけど…………え? 限界なのは尿意じゃないよな?
信じて良いよな?
「よし、もうそろそろ良いだろう」
「っ! な、何か分かったのでござる?」
「えっ……?」
やっべ途中から何も考えてなかった。
もう何というか、羞恥で内股を擦り合わせる紫苑が可愛くて、つまり何を考えていたかと言えば…………
「やっぱりスパッツってエロいよな!」
「はい!? そ、そんな目で見ていたのでござる!?」
「当然だろ。スカートの下は、たとえスパッツだとしても夢が詰まってるんだよ。いやむしろ、見せてくれる時は下着よりもスパッツ派の人類だって存在して…………」
「至極真面目な顔でなんてことを言っているのでござる!」
「至極真面目な話だからね!」
「それはシン殿だけでござる!」
真っ赤な顔で反論してくるが、スカートをたくし上げたままだ。
俺のチラチラッという視線に気が付いたのか、紫苑がゆっくりと下を見て……
「ひゃっ!」
「なんか可愛い声が出た」
「っ……〰︎〰︎〰︎〰︎!!」
スカートを押さえてしゃがみ込み、俺を睨みつけてくる紫苑。
俺を非難しているんだろうが、顔が真っ赤で目も上目遣いだと可愛いだけなんだよなぁ……。
「へ、変態…………。シン殿は変態でこざる!」
「うぐっ……ごめん、変態って言われて喜ぶ趣味はないんだ……多分」
「別に喜ばせようなどとはしておりませぬ! あとハッキリしてくだされ! なんだかとても心配になってくるのでござるが!」
「分かった。変態と言われて喜ぶ」
「そっちではありませぬ!?」
忙しく口を動かしている紫苑を見ていると、だんだんと笑いがこみ上げてきた。
「あはっ……あははっ!!」
「〰︎〰︎〰︎〰︎!! かっ、揶揄うのはやめてくだされ!」
「ぅっ……くくっ……ご、ごめんごめん……っふふ……」
「もう! このままでは時間がなくなります!」
それはまずい。
俺は意識を無理矢理切り替える。
…………とは言っても完全な切り替えは無理で、顔にはニヤニヤ笑いが残ってしまったが……まあ許容範囲内だろう。
「えっと……まず何から聞けば良いんだ……。あっとそうだ、スパッツは無理して履いてるの?」
「いえ。拙者は忍び。突然の戦闘も予定して、必ず下には履いておりまする」
「ふーん…………」
「どうしたのでござる?」
「いや、エミリアたちもちゃんとそうしているのか気になってさ……。ほら、普段は制服着てるけどさ、アニルレイに行った時とかは私服でしょ? 俺がエミリアを抱えて走る時、気を遣わなきゃ見えちゃうわけじゃない」
「あー……多分履いておられるのでは……? その、一緒に着替える時は、なるべく見ないようにしているもので……」
「ま、エミリアには昔から言い続けてるから大丈夫か。グラムも短パンだし、キラ先生と雪風みたいな空飛ぶ人たちは気を付けてるでしょ」
杞憂だな。
ちなみにグラムは、俺が尻尾を触った日からスカートをやめて短パンに変えている。変えた理由は知らないが、スカート以上に脚が強調されるせいで時々目のやり場に困る。
「慣れない洋服を着ることよりも、下着を見られる羞恥が勝るってことか……」
「慣れていることもあるかも知れませぬ。天照国にもなかったわけではないですから、昔から履くことはありました」
「母親の?」
「いえ…………姉のを勝手に……」
なるほど。お姉さんはさぞ焦ったことだろう。『嘘っ、誰かに私のスパッツ盗まれた……!?』みたいに。
「上はさらしなのか?」
「ば、場合によりまする……今は……」
「そっか、黒の勝負下着だもんな」
「そ、それは忘れてくだされ! あと、これも多分慣れがあるのかと……あ、初めて着けた日は言いませぬからね?」
「最初から聞こうとは思ってないよ」
流石にそこまで変態ではない。……あ、いや、そこまでの変態どころか変態ですらないけど。
しかし、そうか……もしかしてだが……
「…………スカートは?」
「これは、和服の一部と考えているのでござる。ですがこれも、姉のを隠れて着たりしていたので……」
「お姉さんねぇ…………」
お姉さんのを拝借して着ていたと言う割には、着られる物が偏っている気がするが……。
まさか、お姉さんはわざと…………いや、流石にそれはないか。
まあでも、取り敢えず今ので……
「よし、何をすれば良いのかは分かった」
【スパッツ派VS下着派】の争いは、姉妹戦争レベルには及ばないが、かなり激しい戦いだと考えていたりする作者は思った。
(この争い、字にしてみると狂気に溢れてるな……)




