二十六話:禁忌領域(紫苑)
「本当に、するのでござる……?」
寮の方にある俺の部屋に紫苑を呼び、今から行うことの主旨を説明すると、紫苑が恥ずかしそうな顔をする。
この部屋にあるのはベッドだけなので、紫苑と俺はベッドに並んで座っている。
「恥ずかしいか?」
「それは……もちろん恥ずかしいのでこざる」
「でも、俺に見せるだけだぞ?」
「シン殿に見せるだけ……そ、それでもやはり羞恥が勝りまする……」
「…………紫苑、ちょっとベッドに寝そべってくれる?」
「え……? それは構いませぬが……」
キリがない。
そう考えた俺は、ベッドの上で横になった紫苑に覆い被さり、顔を近づける。
「シ、シン殿!?」
「俺が見たいんだよ。それでも……駄目か?」
「っ…………」
耳元で囁いた後、顔を離して紫苑の顔を見ると、紫苑は顔を茹で上がらせていた。
そして、俺と見つめ合うこと数秒。紫苑は力を抜いて目を閉じ、
「……いえ、どうぞ。シン殿のお好きなようにしてくだされ……」
顎をクイっと、まるでキスをねだるかのように僅かに上げる紫苑。
みんなは屋敷にいるので、俺たちが何をしようともバレることはない。
だから俺は…………
「それなら、俺が買ってきた物から選んで着てくれ」
「うぅ……押し倒してお願いするなど、シン殿はズルイのでござるよぉ……」
「ちょっと期待した?」
「……………………」
紫苑は目を逸らした。
♦︎♦︎♦︎
海に行くと聞いて俺が考えたのは、紫苑の水着の問題だ。
紫苑は和服以外が苦手で、制服ですら長時間は着れない。そんな紫苑は、肌の露出が多い水着を着られるのか? これは俺にとってかなり重要な問題だった。
ウエディングドレスが着られないのもそうだが、紫苑にコスプレさせて楽しむことができないのは悲しい。
コスプレ頼んで快くやってくれそうなのは、紫苑くらいなのだ。
エミリアや雪風やグラムもしてはくれそうだが、絶対引かれる。その点紫苑は、結構ノリノリでコスプレしてくれそう。
「というかそもそも、俺は紫苑の水着が見たい!」
「っ…………!!」
「現実的に考えて、一人ビーチとか悲しいだろ? この特訓は、ウエディングドレスを着るためでもあるんだ」
と、そこで気になることがあった。
「ところで紫苑、下着見せて」
「はい!?」
「あやべ、本音出た……。ごめん今の言い間違え。正しくは今着ている下着どんなの? です」
「い、今身に付けている下着にござる!? そ、それは………………く、黒……でござる」
「そうか黒か…………黒!? えっ、なんで突然色言うの!? というか黒なの!? えっ、もう本音隠さず言うけど見たいわ!」
「黒を連呼しないでくだされ! そうですよ! シン殿に部屋に呼び出され、念のためと思って勝負下着を着てきましたよ!」
「え、やだ、紫苑ちゃんのエッチ……」
「仕方ないのでござる! グラム殿が発情期になっている今、もしや知らぬうちに拙者だけ取り残されて……と考えてしまって、はっきり言って嫉妬中なのでござる!」
「すごい本音言うね!?」
「シン殿だって、先ほど下着を見たいと言っておられますから!」
くっ……これが俺が時々やる、誰かの失敗を自分の失敗で相殺する解決法……!
実際やられるとめちゃくちゃ気まずいな!
というか、今の紫苑は欲求不満なのか……。嫉妬中と誤魔化して言ってはいたけど、文脈的にも紫苑の性格的にも、紫苑は欲求不満だと思う。
今は、たくさん構って欲しいのだろう。
だから、俺の提案にわざわざ嫌そうな顔をして、俺に自分を押し倒させて頼ませたわけだし。
「でも、嫉妬しちゃうくらいなら屋敷に来れば良かったのに」
「それも確かに魅力的ではありますが……今はまだ、許されぬ身であるが故に」
「……面倒なんだな、格式ある家ってのは」
「面倒な女はお嫌いでござる?」
「いや? じゃなきゃエミリアの護衛も、雪風と契約したりも、グラムを助けたりも、全部しないで師匠を探しに行ってるよ」
「確かに、シン殿はそういうお方でござった」
少し心配げに聞いてくる紫苑だったが、俺がベッドに身を投げ出しながら答えると、紫苑が俺のお腹を撫でながら微笑んだ。
ベッドに横になる俺の横で、紫苑がベッドに腰掛けて俺のお腹をさわさわしてくるこの状況。
なんだか気恥ずかしくなる。
「ま、それは一旦置いといて、今は水着の話をしよう」
「下着の色を聞いて……何か分かったのでござる?」
「いやそもそも、俺が聞いたのは色じゃなくて種類というか……具体的に言うと、さらし? ふんどし?」
「あっ、そういうことなのでござる!? てっきり拙者は色のこととばかり……。そ、そうでござるな。そもそも、シン殿にこれを伝えていないのですから」
「俺に伝えてないって……何を?」
色とくれば……次はスリーサイズとかだろうか。
自分にはさらしが必要ないとか自嘲したら、たとえ冗談だとしても俺は怒るぞ。
そう俺は考えていたのだが、紫苑が言ってきたのはスリーサイズではなかった。
立ち上がった紫苑はクルリとこちらを向いて、部屋着用の改造和服のスカート部分をつまむ。
「この服、何か気が付きませぬか? 和装しか着られないと言っていた拙者が、このような服を着ている矛盾を」
「…………もしかして、スカート?」
俺が気になった点を言うと、紫苑は柔らかく微笑み、スカートを徐々にめくり上げていった。
徐々に見えている生足の面積が増えていき……って、え!?
「ちょっ、何やって────」
「……パ、パンツではないので、恥ずかしくはありませぬから!!」
たくし上げられたスカートが守っていたのは、黒い布。
だがそれは下着では……俺の想像するような際どい下着ではなかった。
「スパッツ…………だと……?」
紫苑の言う黒い勝負下着を、黒いスパッツが隠していた。
禁忌領域……単に作者がスカートの中をそう呼んでいるだけ。()の中には人名が入ることが多い。
絶対領域とは全くの別物。ちなみに作者は、地理のテストで絶対領域と答えたことがある。
以上のことは、生活上全く役に立たない知識だと思われる。
というか、本当はなんて言うの?不可侵領域?




