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二十五話:夏季休暇!

 

 屋敷のみんなは、優しい。

 部外者と言っても過言ではないはずのオレに、仲良くなろうと、近づこうとしてくれている。


「オレからも歩み寄らなきゃ、駄目だよな……」


 太陽が元気を出してきた、八月。

 オレはある考えを持って、二十五番隊兵舎に来ていた。

 オレが一直線に向かったのは、今はあまり使っていない自分の作業場ではなく、団長……二十五番隊隊長である、親父の執務室だ。


「…………どうした? お前が俺のとこに来るなんて珍しい」


 飲み物の入ったカップを傾けながら、親父が聞いてくる。

 手元の資料を読んでいる風に見えるが、時々チラッチラッとオレの方を見て来ているから、言葉とは裏腹にめちゃくちゃ動揺してるんだな。


「あのさ、親父。頼みがあるんだ」

「ブハッ! ッ……ゲホッケホッ! すまん。もう一度言ってくれ」

「だから……その……お、親父に、頼みがあるんだよ。……海、行きたいんだけどさ……良いかな?」

「…………」


 おいっ! せめて何か言えよ! 

 ポカンとして固まられると、オレの方が恥ずかしくなってくるだろ! こんな、親父に頼み事なんて、初めてなんだしさ……。


「あ、ああすまん。まさかお前がそんなことを言い出すとは思わなくてな……。一応聞くが、誰とだ?」

「……そ、それは……」


 や、やっぱ言わなきゃ駄目なんだよな……。


「変な男じゃないだろうな?」

「ち、ちげえよ!」

「なら、なんでそんなに言葉に詰まる。何か隠してるんじゃないか?」

「いや、これは単に……まだ行くか聞いてないから、答えられないだけで……」

「誰に声をかけるつもりなんだ?」

「……シンと」

「二人で海に行くのか!? い、いやしかし……それは……」

「違う! エミリアとか紫苑とかもちゃんと誘う! オレだけじゃ断られるかも知れないけど、シンが行くのならエミリアも来るだろ……?」


 うぅ……自分で言ってて、自分が嫌になってくる……。

 打算的で、あいつらを信用していないみたいで……オレ、嫌な奴じゃねえか……。


「…………理由は?」

「……言わなきゃ駄目か?」

「別に言わなくても良いが、口に出した方が決心がつくぞ。途中で誘うのが怖くて帰るのだけは避けたいだろう?」

「…………仲良く、なるためだよ……。屋敷で無愛想なオレにも、みんな話しかけてくれるんだ。だから、オレからもちゃんと仲良くなろうとしないといけないと思って……」

「……………………」


 な、なんか言えよぉ〜〜!


「駄目、か……?」

「メア。俺は最近、二つ嬉しいことがあった」

「う、うん? えっと……大司教討伐と、二十五番隊の地位が向上したことか?」


 前者はシンたち。後者はオレたちだ。


「違う。一つは、お前が家族以外に心を開いたこと。もう一つは、お前が自らメイドを志願したことだ。でも、それが今一つ増えたよ」

「それじゃあ……!!」

「ああ、存分に楽しんで、土産話を聞かせてくれ」


 よっしゃ! 

 これで後は、誘うだけ……! シンは休みたいだろうから来てくれるだろうし、そうすればみんな来てくれるはず……!

 自分でもウキウキしていることが分かるけど、こればっかりは喜んで良いよな! 


 あ、一つちゃんと教えておかなきゃ。


「ああ、あとそうだ。親父、良い事言ったみたいに思ってるかも知れないけど、正直キモいぞ」

「グサッ!」


 ♦︎♦︎♦︎


「シ、シン! 海に行かないか!」

「…………へ?」


 夏休みが始まり、八月になり、発情期が本格的に始まって来ているグラムのための魔道具をレイ先輩と二人で開発していると、突然、メアがそんなことを言って来た。

 レイ先輩は「涼みに行って来ます」と言って、この研究に使っている小屋から出て行ったばかり。まさか居なくなるまで待ってたのか?


「い、いやほら。夏休みになってからますます演習とかにも呼ばれるようになってさ、お前も疲れてるだろ? だから、休暇が必要だと思うんだよ」

「それで、海?」

「い、言っとくけど、行きたくなかったら別に断ってくれても良いんだからなっ」

「…………」


 ツンとして、断られでも気にしませんよ〜とでも言いたげな表情だが、心の内では断られるのを怖がっているはずだ。

 誘うこと自体初めてのはずで、きっとものすごく勇気を出してくれたのだろう。


「や、やっぱり、オレが一緒だと嫌か……?」

「そんなことないって! ちょっと誰を誘おうか考えてただけだ! 行く! 俺も行くって!」

「ほんとだな! う、嘘じゃないよな!? 言質取ったからな!」

「ああ、俺も行かせてくれ。……それで、誰を誘うんだ? あ、それとも二人だけか? 俺はそれでも良いけど」

「ちょ、ちょっと待て。それなんだけどさ、もう決めてあるんだ。屋敷を見せた時にいたみんなを誘うと思うんだけど……」

「んー、良いんじゃないか? 紫苑は男の前で水着になるのが苦手そうだし、今のグラムを他の男と会わせたくない。というか場合によっては、雪風と先輩とマリンちゃんのせいで俺がロリコンの誘拐犯だと思われる可能性すらある。とすると、人がいない方が良いな。危険な魔物がいるくらいなら、蹴散らせば良い話か? どうするメア、場所の案がないならこっちで探しておくけど……」


 もちろんそれだけじゃなくて、エミリアの水着姿を他の奴に見せたくないって感情もあるんだけど……。

 俺が畳み掛けるように言うと、メアは目をパチクリさせて、


「おまえ……よく考えてるんだな。オレは、そんなこと考えもしなかった……」

「あ……ま、まあ仕方ないよ。知り合って間もないんだし、知らないのも当然だって。そもそも、この海に行こうってのも、そういうことを知り合うための企画だろ?」

「あ、頭を撫でるな! うぅ……オ、オレは今から誘ってくるからな!」


 俺の手を払い除けて、少し顔を赤くしたメアが屋敷の方に走って行く。

 すると、メアがいなくなるのを待っていたかのようなタイミングで、レイ先輩が戻ってきた。 


「可愛いですね、彼女」


 やっぱり、見ていたのか。


「可愛いというよりも……素直に嬉しいです。昔は本当に排他的というか……周囲と距離を取っていましたから。そんなメアが、自分から海に誘うなんて」

「……なんだか、メアを妹みたいに思っていそうな発言ですね」

「そうですね……。あいつに言ったら、殴られそうですけど。妹っぽいです。少し前まで雪風を妹扱いしてましたけど、多分メアを重ねていたんでしょうね」

「あの二人に、共通点があるんですか……?」

「一つ、大きな共通点があるんですよ。俺から見たら、あの時の雪風と今のメアは似ている気がする。ま、雪風と違ってメアは俺のことを好きでもなんでもないですけど」

「…………ソウデスネ」


 何故かジト目で見てくるレイ先輩。

 

「水着、買わなきゃ行けませんね……」

「水着、か…………」


 丁度良いタイミングだ。

 あれを実行に移す機会かも知れない。


なんか言うことあったけど忘れた。

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