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二十話:忘れ物

 

 最近、疲れが溜まりがちだ。


 まず、学院。

 史上初めての大司教討伐ということで、俺はどこに行っても誰かに声をかけられるようになった。

 先輩や同級生だけでなく、教師、さらには入学希望だという、未来の後輩まで。


 相手が男なら良いんだ。本当に疲れている時は断ればいい。

 でも相手が女の子、特に可愛い子だったりすると、俺も強く出れない。メアも言っていたが、俺は女性に甘いのだ。


『シンくんだよね! ね、ねえ! 今から時間あったりする? よ、良ければさ、私たちとお茶でもしない?』

『すごいよゼロワンくん! 私たちの代から、まさか偉業を成し遂げる人が出るなんて……、ところでさ……このあと暇だったりするかな? あはは……お父さんがさ、家に連れて来いってうるさくて……」

『先輩! 私はこの学院に絶対に入学しますから、その時は是非、教育係を引き受けてください!』


 とまあこれは一例なのだが、こんなものが各所で起こるのだ。

 中にはラブレターを渡してくる子もいて、そんなことは初めてだから非常に扱いに困ってしまう。

 何せ、エミリアたちに知られるのは色々とまずい。雪風にバレた時なんて、気にしていないフリをしていたが、なんだかいつもよりソワソワしていたからな。

 可愛いと言えば可愛いのだが、心が痛む。そしてラブレターを捨てるのも、心が痛む。


 つまり、学院でのんびりすることができないのだ。アニルレイに行く前と後で変わらないのは、Sクラスのみんなくらいだろう。

 これが、精神的な疲れの原因。



 体力的な原因は、王国軍関係だ。

 悪魔軍との戦いで、二十五番隊メンバーが中々の活躍を見せたらしく、二十五番隊への認識が見直された。そのため、俺はもう毎日のようにどこかの隊に呼ばれているのだ。

 そこで何をするのかと言えば、技術指導だ。得意分野の魔術だけではなく、魔術と剣技、体術を混ぜた戦い方も時には教える。

 面白いことに、剣士よりも魔法剣士の方に適正がある奴がそれなりの数いて、彼らで四番隊が構成されるかも……という噂まである。


 そして何故か、エミリアが必ず付いて来るのだ。確かに、アニルレイに居た時、エミリアにも色々と教えるみたいな話はしたが……これが本当に恥ずかしい。

 汗を拭いてくれたり、飲み物を用意してくれたりするのもそうだが、それ以上に、恥ずかしいことがある。


 それは、技術の他に俺が他の兵士に教えているものだ。

 お偉いさんが集まって会議した結果、考え方から変える必要があると判断され、主人を守るという意志が異常に強い俺とエストロ先輩に白羽の矢が立ったのだ。

 そう、つまり俺は、主人を守る心構えを、頬を赤く染める主人本人の前で熱く語っているのだ。もうヤケクソだ、既に開き直っている。


 そして家では、グラムが誘惑してくる。

 発情期が近づいているせいだろう。もうグラムは学校を休んでいて、俺が帰って来るたびに軽い誘惑をしてくるのだ。

 何気ないボディタッチも妙にいやらしく、尻尾の動きもどこか蠱惑的で、もう色々とヤバイ。

 なんか最近、メアも様子がおかしいし……。


 そういうわけで、俺はかなり疲れていた。

 だから、普段はしないミスをしてしまうのも仕方がない。


「もうさっさと寝よう……」


 風呂から上がった俺は、ふらつく足で部屋に向かった。


 ♦︎♦︎♦︎


「ん? あれ?」


 その夜のこと、洗濯をするため脱衣所に服を取りに来たオレは、あるものを見つけてしまった。

 床に落ちた、一枚の布。


「これって……パンツ、だよな?」


 手にとって広げてみると、それはあまりに特徴的な形を持つ衣服の一部だった。

 今、自分が何を手にしているのか。答えは、シンの下着だ。

 それも、多分、今日履いていたもの。


「はっ!? えっ!? なんで!?」


 なんでここにあいつのパ……パンツがあるんだよ!

 だって、シンはいつも自分で洗濯してて……! ええっ!?


「うぅ……ど、どうすれば……」

「おや? どうしたのですか?」

「!?」


 だ、誰だ!


「え、えっと……驚かせてしまいましたか?」

「な、なんだ……レイか……」


 シンかと思ったじゃねえか……。


「ん? レイはなんでエプロンなんか持ってるんだ?」

「えっ!? あ、これは……まあ、色々あって、汚れてしまったので……」

「??? 魔法実験でもしてたのか? まあでも丁度良い。今から洗うから貸してくれ」

「あ、ありがとうございます……」


 なんでもないフリをして、オレはレイから変な色の液体のついたエプロンを受け取る。

 本当になんだこれ……?


「貴方は、本当に偉いですよね。私が十四歳の時は…………えっと……思い出せないということは何もしてないのでしょう」

「別に、洗濯くらい普通だろ。オレは、あいつのメイドなんだし……」

「メイドにしては、言葉使いが荒いですね」

「し、仕方ねえだろ。育ちが育ちなんだから……。敬うってのも、よく分かんねえし……」


 でも、シンはそれでも良いって、昔に言ってくれたしな。

 と、そんなことを考えているうちに、洗濯は終わってしまった。

 

「まだ、シンの服が落ちてたりしないかな……?」


 下着だけ忘れるなんてことは、アイツに限ってないと思う。忘れるなら全部忘れるだろうし……。


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