十九話:くノ一の憧れ(4)
最近、30分に投稿できないことが多いなぁ……。
「け、けけけけ結婚式!?」
紫苑の、悲鳴にも聞こえる驚きの声が、王都の商店街に響く。
予想していた俺は耳を塞いでいたから良いが、他の人は突然の大声にビックリしている。
「あっ……す、すみませぬ! と、取り乱してしまい……」
周りの人にペコペコと頭を下げる紫苑。
だがここにいるのは、魔術学院の学生やお調子者の冒険者、そして地元民である心優しい商店街の方々だ。
「いいのよ、結婚なんて素晴らしいこと、驚いて当然だわ。おめでとう」
「そうね、結婚式には私も招待してくださる? ……ふふ、なんてね」
「おお、やるのぉ兄ちゃん、幸せにするんじゃぞ?」
毎日のように通っていたから、商店街の人とはもう顔見知りのようなものだ。
口々に、からかい半分の祝福の言葉を送られる。
「何気ない日常の中でプロポーズか……そういうのも良いかなぁ……」
「? どうかしました、お兄ちゃん?」
「い、いやなんでもないぞ! うん!」
「な、なんでこっちを見るのかなぁ……?」
「いやぁ〜、べっつに〜?」
「い、いや悪いとは思ってるんだよ、でも色々と準備もあるし、まず挨拶に行かなきゃだし……」
「へ? ふ、ふーん。なら良いけどさ。……か、考えてくれてたんだ……」
「ご主人様! わ、私はいつでもお待ちしておりますから!」
「そうか、待ちすぎてお婆ちゃんになるなよ」
「ぐぬぬ……! ご主人様が冷たい!」
カップルはプロポーズだと勘違いしたのか、その場でイチャイチャし始める。
いやまぁ、平常運転な兄妹もいたけど……。あと個人的に気になる主従もいたけど……。
……そう、勘違いだ。
これはプロポーズではない。ちょっと俺も、言葉が足りなかったなぁ……と今かなり焦っているが、プロポーズじゃないんだ。
『花嫁衣装、着てみたかったりするか?』
だなんてそんな恥ずかしいセリフ、俺は絶対プロポーズで使わないから!
俺がやってもダサイだけだからね、うん!
うん……本当に、深い意味はなくて、そのまんまの意味なんだ……。
紫苑は花嫁とかに興味があるのかなぁ? と、ちょっと疑問に思ったから聞いただけなんだ……。
なんでそんなことを聞いたかと言えば、アルバムの街を見て回ることができなかったからだな。
あの時俺たちは王都についてすぐ、ファントムに奇襲を受けて気絶した……そう、ファントムからは聞いている。
ちなみに奇襲の理由は、悪魔の頭領的立場の奴が催眠系の能力を持っているから。つまり、俺と紫苑が操られると面倒だと思ったのだろう。
というわけで、丸一日を往復移動に費やしたとという、とても無駄な一日だったんだなぁ。
……馬に乗っている間、紫苑とくっつけたのは嬉しかったけど。
と、俺がそんなことを考えている間に、紫苑も落ち着いてきたらしい。
「紛らわしいことを言わないで欲しいでござるよ、シン殿」
「ごめんごめん。でも、なんで分かったんだ?」
「シン殿、人は過去に学ぶのでござる」
「……うん、なんかごめん……」
何かを悟ったかのような紫苑の表情に、俺は頭を下げて謝るしかない。
「構いませぬよ。シン殿の言動に一喜一憂して振り回されるのも、これで中々楽しい物ですから」
「新しい楽しみ方見出してるよこの人……」
「多分、拙者だけではないと思いまする」
「うーん、頭が上がらないなぁ……」
俺が昼間の往来で間違いのプロポーズをしても、それを笑って許してくれる紫苑。
こんなに心の広い子、本当俺には勿体ないよなぁ……。
「それで、答えなのですが……」
「ん?」
「花嫁衣装を着たいかと言われれば、それは拙者も、着てみたいとは思いまする。ですが……それには、二つ問題があるのでござる」
「問題?」
なんだろう、お金とかなら心配しなくて良いんだけど。〈ストレージ〉の中には、俺がこれまで採取して来た沢山の素材があるからな。
値崩れしないよう、こまめに換金してもらっているが、魔狼の毛皮なんかはまだまだ沢山ある。
賢狼を味方につけた今、魔狼の毛皮は値崩れした方がむしろ討伐数が減って良いから、今すぐ売っても良い。
手っ取り早く、それなりの額が手に入るはずだ。
だが答えは、俺の予想とは全然違った。
「はい、まず一つ。そもそも拙者は、和装以外の服を着ることが苦手なのでござる」
「そういや、いつ見ても和装だな。二十五番隊らしく、変わった奴だと思ってたけど、そういう理由があったのか」
「変わっ……いや、はい。そう思われているとは分かっておりましたから……。とにかくですね、拙者はまずは洋風の服に慣れなければいけまけぬ」
なるほど……確かに、それは致命的かも知れない。根本的な問題だ。
「でも天照国には、白無垢があるよな? あれは駄目なのか?」
「暁月家のある風習によって、拙者は白無垢が着れないのでござる。より分かりやすく言えば、父がやらかしました」
「なるほど、大体は理解した気がする」
呪いとか厄を祓う意味も込めて、数代の間は白無垢が着れない、的なことだろう。
詳しいことは知らないしあまり知りたくないが、それなら仕方ないかも知れない。
「まあそっちは、俺に考えがあるから任せてくれて良いよ。もう一つの問題は?」
「そちらは簡単でござる」
そう言うと紫苑は、俺の腕に抱き付いて、
「一番最初に着るのは、シン殿にプロポーズされた後が良いですから」
少し照れた、可愛らしい笑顔で、そんなことを言ってきたのだった。
商店街のモブに他作品(自作)のキャラを出そうかと迷ったけど……流石にやめました。




