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十八話:共存派と過激派

うん! やっぱりサブタイトル変えようと思う!

 

「くそっ! 何故だ! 何故我々は劣勢なのだ!」


 煌びやかな調度品溢れる一室で、一人の男の声が響いた。

 その声を煩わしく感じたのか、同じくその部屋にいた少年が、本を眺めていた目を貴族の男に向ける。

 そして、口を開いた。


「見通しが甘かったとしか思えない。君に聞いたよりも、遥かに王国軍は強い。そもそも大国を僕らで落とすことがそもそも無理な話。ご意見どうぞ」

「うるさい! 貴様も上級悪魔を名乗るなら、もっとこう……配下の悪魔を強化したりせんか!」

「それなら僕じゃなくて他の人に当たって欲しい。僕の得意分野は建築。そもそもお門違い」

「ならば! 何故それを早く言わん!」

「? 君は最初言った。新しい王宮を築くと。だから協力した。まさかクーデターとは思わない。理解した?」

「っ……!! 途中で気付くだろうがぁ!!」


 吠える貴族に対して、この見た目の幼い悪魔は、


「僕は共存派の悪魔。元よりハンゲル王国と対立する気はない」

「くそっ! ならばチェンジだ! 貴様など用済み! 今度こそ過激派の悪魔を……」

「いいの? 呼び出した途端に君は殺される。もしくは飼い殺されることになる」

「ぐっ……!!」


 全くの正論に、貴族の男は歯噛みする。

 こうして上級悪魔が命令に従っていることでさえ奇跡なのだ。再召喚など、ありえない。


「だが……だが……!」

「一つ気になった。君はどうしてそうも王家に反抗する? 何か不満でもあるのか?」

「あの一族が、汚れた一族だからだ。私は、かつての美しき国を取り戻す。ここにあったという、楽園の世界を」

「かつて……と言うのは、三百年前のことかな? 神のいた時代?」


 悪魔が目を細める。

 だが貴族の男はそれに気が付かず、興奮した、自分に酔っているような恍惚の表情で、腕を空に伸ばした。


「そうだ! 神が統治していた楽園を、私はここに再び築くのだ!」

「君は神がいい奴だと思っているのか。成る程、話が合わないわけだ。案外過激派とも上手くいくんじゃないか?」

「ふんっ、誰が貴様らのような汚れた生物と仲良くなるか。貴様の力を借りるなど、本来ならあってはならないことなのだぞ?」

「やっぱり無理そうだ。結局は神の下に人、人の下に悪魔という考えだからね」

「当然だろう?」


 ──貴様は何を言っている?

 そんな悪魔を馬鹿にした表情で鼻を鳴らす貴族の男に対して、少年の悪魔は何も言わなかった。


「神は素晴らしい! これは当然のこと、最強の教えにもある通りだ。比べて悪魔は、我ら人間を破滅の道に進ませる者である!」

「君は聖教なのかい?」

「無論、聖教である」

「へー、僕の知らない間に、聖教の信仰対象はいつの間にか旧神になっていたのか」

「…………む? どういうことだ?」


 今度は、悪魔が馬鹿にしたような表情を浮かべる番だった。


「神には二種類いる。古い考えを捨てない、つまり人間の世界を統治しようとする旧神。そして、マーリンの側に付いた半神。聖教が信じる神は半神たちだ」

「む、そうであったのか。ならば私は聖教徒であることをやめるか……」

「その素直な姿勢は好感が持てるよ」

「ふん、貴様のような男に好感を持たれても嬉しくはない。それはそうと、マーリンに神の仲間はいかなかったはずだが?」

「正確に言えば、マーリンに付いた旧神はいない、だね。半分だけ神の血を引く半神は、人からも神からも差別されていたから、人の歴史から削除されたんだろうさ」

「ふむ……確かに旧神が消え、皆が魔術を会得すれば、神の血を引く半神は達人とも言える。後の争いにおいてその力は垂涎もの、一転して高い地位を得ることができるな……」


 戦争中になんとも呑気な会話だが、貴族の男にとってこの悪魔の話す言葉は未知のことばかり。

 しかも内容が、誰もが興味を持つ三百年前のことと言えば、この貴族の男の反応も仕方のないものなのかも知れない。


「なるほど……。つまり、半神もまた人を堕落させた存在というわけであるな?」

「君の言葉に合わせればそうだね。しかしそうすると、君は旧神派というわけか。それなら、過激派の悪魔は尚更呼ばない方が良い。彼らは自分たち以外の存在を全て搾取されるものだと考えているから」

「ふっ……なんとも傲慢な奴らだ」

「全く同感だね。ちなみに共存派は、文字通り全ての存在と共存していこうという考えだ」


 そう言って、笑い合う二人。


「ふふ、意外となんだ。明らかに敵と分かっているのに、貴様と話すのは悪くないものだな」

「奇遇だね、僕もだよ。君という人間に興味が湧いた。どうだい? ここは一度、僕の暇つぶしに付き合ってくれないかい? どうせ、クーデターは失敗だ」

「ふむ……それもまた、悪くはないか……」


 貴族の男は、いつの間にかこの悪魔に心を許していた。

 見た目が少年の悪魔また、最初の距離を感じる言葉に比べてどこかフランクに話している。


「さぁ、ゲートを開くよ。魔界は初めてだろう? 大丈夫だ、意外とこの世界と変わらないからね」

「ああ、だが忘れるな。私はいずれ貴様を裏切るぞ」

「ふふ……楽しみにしているよ。()()()()


 こうして、史上初めてである悪魔を利用したクーデターは、たった一日にして終わった。

 また、この事件をきっかけに、すぐさま王国の軍事体制が見直されることになるのだが……それはまた別の話だ。


 ♦︎♦︎♦︎


 そして、その様子を見ていた者がいた。

 尻尾に鈴をつけた小さな猫と、バーテンダーの格好をした老紳士だ。


「行かせて……良かったのかい?」

「……あそこで誰かが乱入すれば、あの男の精神は崩壊したはずサ。それに……()()()の動きも気になる。今はまだ泳がせておくべきだヨ」

「だからと言って、これはどうなんだろうね」


 猫が見上げる先には、


「仕方がない……私も、娘の想い人と友人を傷付けるのには心が傷んだがネ」


 結界の中で身を寄せ合って目を閉じる、魔術師の少年と忍びの少女がいた。


貴族の人は、操られてしまったんですね……。

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