十七話:ネギどころか鴨鍋の具材を背負っているカモ
「なんでオレだけ仲間外れなんだ……。そういえば、屋敷でもあまりみんなと仲良くないし……」
って、駄目駄目! 暗いことを考えてる!
いやまあ、その……事実は事実なんだけどさ……。
気楽な関係ならともかく、一緒に住むとなるとやっぱり気を遣うことが多いわけで……。仲良くするのが恥ずかしいと言うか……ちょっと怖い。
オレの性格が分かってるからシンは何も言わないけど……それを知らないみんなは、絶対オレのことを嫌な奴だと思ってるよな……。
はぁ……。もう少し、知り合おうとする努力はした方が良いのか……?
まあでも、一緒にお風呂は無理だけどな! エミリアたち、特にグラムとかいう獣人と一緒にお風呂に入るとか、なんか惨めな気持ちになる気がするからな!
「……ん?」
と、その時、曲がり角を曲がったオレは、不思議なものを見た。
謁見の間に通じる扉の前に集合している男たち。確か……王城にいるのは、四番隊の兵士だったっけか。
腰抜けのくせにやけに自信家な貴族野郎が多いから、オレはこの隊が苦手だ。
「四番隊の兵士がなんで集まってんだ……?」
一応、腰に付けた銃を確認して、オレはゆっくりと近づいた。
全員が扉を睨んでいて、誰も背後のオレには気が付いていない。
これがシンとか紫苑なら、オレは曲がり角を曲がる前に察知されていたはずだ。やっぱり、二十五番隊と他の部隊の実力は桁違いなんだな。
「中はどうだ?」
「武装メイド隊と交戦中。なんか一人の若い女がおかしいくらいに暴れ回ってて、俺たち四番隊が劣勢だ」
「なあ、やっぱり突入した方が……」
「いや、その命令は下っていない。いいか、王の首を討ち取るチャンスなんだ、ここをものにしなければ……俺たちは文字通り、終わる」
「だからと言って、現場の判断で動くべき時もあるだろう!」
「死にたいのなら一人でやってくれ。俺は命令に従うのみだ」
「てめぇには勇気がないだけだろ! もういい! 俺は一人でも行かせてもら────」
「ハンク!? おい、ハンク! だ、誰だ!」
誰だ、か……。
そういや、少し昔、シンが言ってたな。
名前を言う時は堂々として、自分が特別な人間だと認めて知れれば、自ずと利用しようとする奴はいなくなる。
オレは、自分が特別な人間だと分かっている。それを認める勇気が、まだないだけで。
だからこそ、名乗りの時は名前に"ド"を付けて言うのだ。
特に、こういう場では。
「オレの名前はメア・ド・マーカスだ。えっと……安心しろ! 本格的に殺しはしない!」
♦︎♦︎♦︎
「ふぅ……終わった終わったー」
案外、呆気なかったな。
俊敏でもなければ、全身鎧で身体を覆っているわけでもない。ゴム弾を装填したサブマシンガン一丁で終わった。
二丁持ちするまでもなかったし、体術を使う必要もなかった。
「む……? メア、あなたがこれをやったのですか?」
「あ、リーシャじゃん、中は大丈夫なのか?」
「ええ、銃を遠距離武器と思っている時点で私たちの敵ではありませんでしたね」
「近距離武器として使ってるオレが言えたことじゃないが、多分そいつらの認識は正しいと思うぞ……」
こっちの騒ぎを聞きつけたのか、扉を開けて出てきたリーシャが、廊下に転がる男たちを見て顔を顰めた。
うっわー、嫌そうな顔。リーシャもそういえば、貴族が嫌いとか言ってたな。
エロい目で見てくるし、頭の中は食虫花によるお花畑だから、とか言ってたな。自分はシン様に仕えていたので、未だに綺麗な身体ですが、とか言ってもいた。
エロい目でか……やっぱりシンも、リーシャくらいスタイルの良い方が、好きなのか……? オレは誰からも、そんな目を向けられたことがないし……。
「…………メア? どうしました、どこか上の空ですが」
「え? あ、ああ……なんでもない。ちょっと考え事していただけだ」
「…………そういえばメアは、何かシン様にご奉仕をしましたか?」
「いやまだ何もできて……って急に何言ってんだ!?」
「裸を見せたり、見られたりしましたか?」
「言い直せってことじゃない! そ、それに見せたことも見られたこともない! ……………とは言い切れないかも知れないなぁ……」
再会した時にはエッチな下着を見られたし、少し前には全部見られたばっかりだし……。
「〰︎〰︎〰︎〰︎ッ!!」
「はぁ……気さくな挨拶は終わりとして、メア、このにノートがあるのですが……」
「き、気さくな挨拶…………?」
「はい。気さくな挨拶です。それはそうとノートはいかがですか?」
「は? なんでノートなんだ?」
「貴方は人との付き合いが苦手でしょう? シン様のようにグイグイ行かないと逃げるのに、強引に行くと警戒する」
「うっ……それとノートになんの関係があるんだよ……」
「そこでこれです。このノートを読めば、エミリア様と仲良くする方法が分かります。そしてこちらのノートには、購入者の願望が記されています」
「…………本当か?」
リーシャは結構悪戯するのが好きだけど……部下の面倒見はいい奴だ。じゃなきゃ、この若さで武装メイド隊のリーダーにはなれない。
「はい、さらに今ならなんと、この幸運の壺も付いてきます」
「ほ、本当か!?」
「はい、ただレアものなので価格は十万ですが」
「じゅうまっ……い、いやでも……」
「買わないのですか? それなら、買いたいと言っていたあの人に……」
他の人!?
そ、それなら……ここで買わなきゃもう手に入らない……?
でも、でもぉ……。
「はぁ……今なら、シン様と仲良くなる方法を書いたノートも付いてきたのに……それでは」
「えっ!? ま、待ってくれ!」
「はい。どうかしましたか? エミリア様と仲良くなろうと思わず、自分のご主人様に奉仕したこともなく、さらに自分のご主人様と仲良くなろうとしない落ちこぼれメイドのメアさん?」
「うぐっ……。わ、悪かったから……そ、そのノート……売って、くれないか……?」
「……十五万出してくれると言っていた人がいますが?」
「に、二十万出す!」
「んー、その人にももう一度聞く必要が……」
「三十万!」
「分かりましたでは後払いで構いませんのでここにサインを」
「本当か! 売ってくれるのか! へへっ、ありがとな、リーシャ!」
「…………罪悪感すごいですね……」
「ん? 何か言ったか?」
「いえ、何も。さあさあサインを」
どうしたんだ?
リーシャが哀れむような表情をしているけど……。
ま、まあいっか! えっと購入の証明書にサインをして……!
よし、これでみんなと仲良くなれるな!
♦︎♦︎♦︎
「ねー、ファントム、私メアっちが心配なんだけど」
「大丈夫だよスー、みんなも思ってるから」
「うん、守らなきゃいけない気がしてくるね……ま、あの壺は本当っぽいけど」
「いやぁ、ぼくとしては、なんでただのメイドがあんな壺を持ってるかが気になるけどなぁ……」
引きこもっていた十四歳なので仕方がないかなぁ……




