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十三話:くノ一の憧れ(3)

頭が痛い……

 

「すげえ……」

「ほわぁ……」


 大都会に来た典型的な田舎もんの如く、俺たちは口を半開きにそれを見上げる。

 夕方で空が微かに赤く染まり始めたのも、その美しさを際立たせている要因だろう。


「いやぁ、都会の教会さはでっけえなぁ」

「可愛い…………」

「うんうん、資金のことを一切考えない豪奢な作り…………え? 可愛い?」


 なんか衝撃的な一言が聞こえた気がしたが、何も言わないことにしよう。

 うん、可愛いの基準は人それぞれだもんね。

 俺は少なくとも、虫を見て可愛いって言う人よりは紫苑の方が共感できる。

 ちなみに、馬車で謝り続けた結果、紫苑には騙したことを許してもらった。


「えっとそれじゃあ、もう夕方だからまずは宿屋を探しに行こうか。観光はそれからってことで」

「はい、では宿屋の場所を……すみませぬ、そこのご婦人」

「? おや、突然謝ってどうしたんだい?」

「拙者たちは宿屋を探しておるのでござるが……どこか良い場所は知っておりませぬか?」

「なんだい、そんなことかい! それなら、この道を少し進んだ所に案内所があるからさ、そこで街の地図をもらうと良い」

「おお! 感謝致しまする! ご婦人!」

「いやいや、良いんだよ。末長くお幸せにね」


 そう言って、ご婦人は立ち去って行った。俺とすれ違う際に、サムズアップ+ウインクのお土産を残して。

 面白いから口出ししなかったけど、絶対勘違いされてるなぁ……。


「……末長く?」

「まぁ気にしないで良いだろ。それより、この道の先だったよな?」

「はい、では参りましょう!」


 ♦︎♦︎♦︎


「ど、どうして一部屋なのでござる!?」


 フロントで、顔を真っ赤にして焦る紫苑。


「どうしてもこうしても、この宿屋に一人部屋はないよ。夫婦なんだから同室でも構わないだろう?」

「で、ですが冒険者などの方は……」

「冒険者なら冒険者用の宿屋街に行けば良いじゃないか。ここは挙式に来た夫婦……恋人用の宿屋街だ」

「ええっ!?」

「多分気付いてなかったのは紫苑だけだと思うぞ」

「シン殿!? 知っておられるのなら何故言ってくださらなかったのでござるか!?」

「ニヤニヤされてるのに気が付いてない紫苑が面白かったのと、自分が率先して選んだ宿が夫婦用だと気が付いた時の紫苑を見たかったから」

「〰︎〰︎〰︎〰︎!!」


 恨めしそうにこちらを睨んでくる紫苑。

 まあその反応を見たかっただけで、俺も同じ部屋に泊まろうとしているわけじゃない。

 いやまあ、そりゃ俺も年頃の男ですし? 同じ部屋に寝泊りしたい願望はありますけどね?


「ごめんごめん。悪かったって。冒険者用の宿屋なら良いんだな?」

「…………いえ、別に構いませぬ」

「…………へ?」


 だが、予想外の答えが聞こえて来た。


「良いのか……?」

「そもそも、拙者はシン殿と非公式ながら、こ、婚約を結んでいるわけでござるし……あながち、夫婦というのも、間違ってはいないわけで……。確かに恥ずかしさはありまするが、よくよく考えてみれば、レイ殿キラ殿を除けば、拙者だけ仲間外れで……」

「なるほど、よく分かった。よく分かったからそれ以上はやめて! なんか周りの視線が責めるような視線になってきてるから!」


「女?」「他の女?」って、あちこちから聞こえてくるよ……!

 本当はもう少し複雑だけど、反論できないことは事実だからな……!! 


「じゃ、じゃあ良いんだな!」


 俺たちは半ば勢いで部屋を取り、そして……


「なんでベッドが一つなのでござる!」

「一応言うけど、部屋の説明に書いてあったからな……? それを知った上で挑戦的な態度だったんじゃないの……?」

「そ、そんなこと、知りませぬ……」


 大きなベッドが存在感を放つ部屋。日本で言うなら、特殊な用途に使うホテルにありそうな部屋に案内されたのだった……。

 まあとは言え、変なお香を炊いてるわけでも、やけに豪奢だったりするわけでもない。

 気にしないで、通常の宿屋通りに使用しても構わないだろう。


 と、俺は思ったのだが紫苑はそうも行かないようで、さっきからあちこちをペタペタ触って、変な仕掛けや玩具という名の魔道具を見つけて、一人で赤面している。

 最近肩凝ってるからな……。

 た、俺が小刻みに振動するマッサージ機を肩に当てて、「われわれは宇宙人だあぁぁぁぁぁ」とか言っていると、浴室に向かった紫苑から泣きそうな声が聞こえて来た。

 面白そうなので、スイッチを切ったマッサージ機をベッドの上に放り投げて、浴室へ向かおうとした時、


「うぅ……浴室にもなんだか変なボタンが……あ」

「うわぁ……」

「どうして拙者を見るのでござる!? 駄目でござるよ! これは絶対に使いませぬ!」


 曇りガラスで変だと思っていたガラスからスモークが取れ、透明なガラスに変化した。もちろん、中の……つまり入浴している人が見えてしまう。

 ちなみにベッドとその特殊な魔道具であろうガラスは隣り合っていて、つまりベッドに寝転びながら入浴シーンを見ることができるらしいね。へー。

 ちなみに今は、紫苑(もちろん服は着ている)と目が合っている。

 

 この魔道具、水と土魔法の混合の応用かな……? 取り敢えず考案者には、その頭脳を他の分野に生かして欲しかったなぁ……。いや、これはこれで戦闘に生かせるか……?

 現実逃避とか言わないで。


「えっと……安心しろ。俺は紳士だ。相手に襲われて理性崩壊しそうになることはあるが、自分から襲うようなことはしない」

「それをヘタレと言うのでは……? まあ、シン殿を信頼していないわけではございませぬが……って、何をしているのでござる?」


 ポチポチスイッチを押して、ガラスをスモークにしたり透明にしたりして遊んでいた紫苑が、怪訝な顔で聞いてきた。

 俺がベッドの下に手を伸ばしていたのが気になったのだろう。

 いやいや、何をしてるってそりゃ……


「盗撮盗聴とか、盗み見とかがないようにな。メアが作った試作品の設置型結界を試してる」

「どういう効果があるのでござる?」

「範囲外に音が漏れない上、範囲外からは中が見れないようにする結果」

「えっ……?」


 さっと胸を隠して、紫苑が一歩引いた。間にガラスがあっても関係ないんだね……。

 というか違うからな!? しないから! そういうために使ってるわけじゃないから!


「一応場所は指定されてるけど、ゴーストがその場所から動かないとは限らないだろ? 丁度良いから実験的に使ってるんだ。別にもしものために置いてるわけじゃないから安心しろ」


 幽霊退治なんて簡単すぎる任務、なーんか引っかかる所もあるしなぁ。

 保険だ保険。決して保健体育ではないから、そこは注意な。 

 と、理解してくれたのか、警戒を解いた紫苑がガラスをスモークにしてから戻ってきた。

 やっと誤解が解けたか……。


「…………あの、シン殿」

「どうした?」

「拙者、初めてはちゃんと覚えていたいのでござる」

「だから違うよ!!」


 全員理解してくれてないじゃん!


あとちょっとで二百話じゃん……。

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