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十一話:くノ一の憧れ(1)

四章は短編的に進んでいきますが、どの話も繋がっています。

それと……遅れてすみません!


「二人とも頑張れ〜」

「いけ! 紫苑! そんな奴やってしまえ!」

「……メアっち。シンくんと最近何かあった?」

「な、なななな何もねえよ! ほ、ほんとだぞ?」

「あー、はいはい。何かあったのね」

「〜〜〜〜!!」


 二十五番隊の修練場にて、俺は紫苑と模擬戦をしていた。

 模擬戦と言っても、使っている武器はそれぞれの愛剣、一歩間違えれば大怪我だ。

 大怪我でも勝手に完治する俺はまだしも、紫苑は怪我をしたら医務室送りになってしまう。

 だが、俺にそんなことを考えている暇はない。紫苑の止まらない猛攻を防ぐだけで精一杯だ。

 今日知ったのだが、アニルレイに行く前と後で、紫苑の動きが全然違うのだ。やっと本気を出して来たようにも見える。

 帰る前にライマさんとかに稽古をつけてもらって、俺もそこそこ自信があったが、それでも紫苑には敵わない。


「そこ!」


 俺の剣を払った直後の隙を狙って、俺は無理矢理な斬撃を放つが、クナイで小手を鋭く打たれて剣を離してしまった。

 続く斬撃を転がりながらかわし、バックステップで距離を取る。

 紫苑は、メアが作ってくれた俺の魔剣を拾い上げ、後ろに放り投げた。


「拙者に勝てたら、拙者はシン殿の言うことをなんでも聞くとは言っておりましたが……どうやら、無理そうでござるな」

「…………さあ、それはまだ分からないと思うぞ?」

「土魔法で剣を作るのでござるか? 先程の刀より落ちる物を使っても結果は変わらぬ上、そのような時間は与えませぬ」

「いいや、剣は使わない」

「……では、魔術でござるか?」

「いいや、この距離では避けられ、近づかれて終わりになる」

「ならばどうすると?」


 訝しげな顔をする紫苑。この距離で、俺が何かできることが不思議なのだろう。事実、俺はまだ紫苑の間合いの中だ。

 だが俺にとっては、これこそ普通だった。師匠相手では、間合いなど関係ないのだ。

 間合いの中でどう戦うかが、今になって生きてくる。


「龍凱」

「なっ!!」


 紅い闘気を纏い、一瞬で紫苑との距離を詰める。紫苑の間合いの中ということは、即ち俺の間合いの中でもあるのだから。

 不意を突かれたとは言え、さすがは紫苑だ。瞬時に反応を示す。だが、それは少しばかり遅い。


 手の甲を叩いてクナイを手離させた俺は、腕を掴んで紫苑の軽い身体を投げ飛ばした。

 だが勿論、これくらいで終わる紫苑ではない。壁に激突する前に、地面に足をつけて、さらに連続でバク転することで勢いを殺した。

 でも……それくらいは予想のうち。


「…………それが、大司教を倒した力でござるか……」


 紫苑も、逃げても意味がないと分かっているのか。

 ゆっくりと進む俺と距離を取るためにジリジリと後ろに下がる紫苑は、しかしついに壁に背中をつけてしまった。

 もう、逃げ場はない。


 だから俺は、紫苑の顔のすぐ横の壁に拳を打ち付け、耳元で宣言した。


「……なんでも、言うことを聞いてくれるんだよな?」

「ひゃ、ひゃい……」


 何を想像したのか、紫苑の顔は真っ赤だった。


 ♦︎♦︎♦︎


 時間は、少し前に遡る。


「ゴーストの討伐?」


 団長に呼ばれた俺は、そこで団長からある話を聞いた。


「ああ、大司教討伐で、お前は目立った。しかも、少し前に行われた武闘会で、お前が王女の護衛だと言うことも知られている」

「ええ。でも、それが何か?」

「つまりだな……。あまりに、胡散臭いんだよ」

「はぁ」

「一部過激派貴族から、本当に存在するのか。王族が自分たちに逆らったらどうなるかを示すために言っている嘘なんじゃないかって、そんな馬鹿みたいな意見が出てきたんだ」

「はぁ」


 それで、ゴースト。

 ふむ、ちょっとよく分からん。

 なんでゴーストなんだ? ゴーストなんて、物理無効で、除霊系の技以外に強い耐性を持つだけの弱い魔物だろ。

 ……あれ? ひょっとして強いのでは? スライム最強伝説が崩れるのでは?


「でも俺、除霊なんてできませんよ?」

「知ってる。俺もそう言った。そしたらな、あの馬鹿ども。『大司教も殺した英雄様が、たった一匹のゴーストすら倒せない!! おやおや、これは困りましたねぇ……そんな方に、王女様の護衛を任せて大丈夫なのでしょうか? おやおや、おやおや?』とか言い出しやがった」

「は?」


 無駄に団長の演技力が高いのが、尚更イライラを加速させる。


「お、おい、キレるなって。大丈夫だ、お前の護衛任務がなくなることは有り得ねぇよ。でも、確かにゴーストに勝てないってのは急所だ」

「……………」


 確かに、そうかも知れない。

 もしかしたら今後、反王家のゴーストが現れないとも限らない。ゴースト使いなんて奴がいてもおかしくない。

 そんな時、俺はエミリアをどうやって守る?


「だから、ゴースト討伐」

「ああ。場所は後でコウから地図を貰え。それと、女を一人連れて行け。かなり強いゴーストらしいから、気を付けろよ? 

「女性を……? いえ、分かりました」


 少し気になる所はあったが、一礼をして、俺が団長の部屋から出ていこうとした時、


「と、そうだ。メアが念話石で、裸を見られたらどうすれば良いかを聞いてきたんだが……なぁシンよ。俺はあの時娘を助けてくれたお前に感謝している。だがな、ん? 娘に遊び半分で手を出したら…………分かってるな?」

「き、肝に命じておきます……」


 今まで感じたことのない殺気を、俺はこんな所で浴びせられたのだった。

 そして俺は……


「紫苑、勝った方が負けた方になんでも命令できる勝負でもしない?」

「…………? ……………はい!?」


 兵舎で鍛錬をしていた紫苑に、勝負を持ちかけたのだった……。


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