五話:世界は狭い!
メアの言葉で、変更点があります。
お前→おまえ
どうでも良いかも知れないけど、人によっては気になるかも知れないので……(←そんなことより誤字を直せ)。
「お前」に戻っていたら、「あ、この人使い分けるの面倒になったな」って思ってください。
「これが…………」
メアが自らメイドを志願したと聞いて霞んでしまっていたが、家だ。家なのだ。
当然、俺はこれまで家を持ったことなどない。
だから、改めてその家を見た時、言いようのない深い感動を覚えた。
隣ではエミリアも、「ほへー」と気の抜けた声を出している。
「おまえがアニルレイに行っている間に作った。王様が選んだ奴が建ててるから、不備があったりすることはないと思う」
「すごいスピードだな……」
アニルレイにいたのが一ヶ月くらい、そんな短期間に、家って建てられるものなのか?
それも、こんな豪邸、屋敷をさ……。俺としては、早くて来年くらいだと思ってたんだけど……。
「それじゃあ今からオレが中を案内するけど…………その前に、一つ良いか?」
「なんだ?」
「こいつら誰」
メアが指差した先にいたのは……
「えっと…………仲間?」
紫苑、雪風、グラム、マリンちゃん、レイ先輩、キラ先生だった。
いや本当に俺も不思議なんだよ。俺は雪風しか呼んでないはずなんだけど……。なんでいるのかな?
♦︎♦︎♦︎
玄関で靴を脱いで(メア、グラム、レイ先輩、キラ先生は困惑していた)、俺たちは屋敷の中を見て回る。
玄関を通ると、早速吹き抜け。一階から二階の廊下が見える。
それに驚きながらも、メアの行く方向へ進んで行き……
「ここは……ダイニングか」
ダイニングでまず目につくのは、広間の中央に置かれた大きなテーブル。二十人は無理かも知れないが、それより少ない人数は座れる。
赤レンガの暖炉と、大きな窓から見える外の緑が、程よい具合に調和していた。
これはあれか、人を呼んでパーティとかする部屋だな。
「大きい部屋だね、桃髪のお姉ちゃん」
「ああ、たしかこの屋敷で二番目に大きい部屋で……。え、お姉ちゃん?」
二番目? これより大きい部屋があるのか?
「ま、それは後のお楽しみだな。次行くぞ。……お姉ちゃんか……」
「わぁ〜」
エミリアが、嬉しそうな驚き声を上げた。
ここは……リビングだな。心温まるような、家庭的な空間だ。
そして面白いのが、二つの部屋をふすまで仕切っているのだ。そう、和室と洋室が隣同士なのだ。
まず洋室だが、いくつかのソファが、小さなテーブルを囲むように設置されている。ここにも暖炉があり、その前には安楽椅子が二つ置かれていた。
軽くソファを触ってみるとやや硬いが、これは使っているうちに柔らかくなっていくだろう。
くつろぎの空間だ。
そして和室だが…………これは一言で済む。
炬燵
畳の上に、炬燵が置いてあるのだ。
冬になれば、炬燵でヌクヌクするのも良いかも知れない。今は夏なので仕舞っておくが。
「冬は炬燵を出しましょう! シン殿!」
「紫苑、俺も全く同じ考えだ!」
「えっと……硬く握手しているところ悪いが次行くぞ。厨房だ」
厨房。最新の調理機器が揃っていた。
他に特筆することは……ああ、厨房からも外に出る扉があって、外に大きな作業台があった。狩った獣を捌くためだろう。
俺にはよく分からん。なのでエミリアを見ると……
「これ、結構使いやすいかも」
「毎日使うものだから、そこにはこだわったらしい。えっと次は……」
「「「大浴場!!」」」
マリンちゃん、紫苑、俺の三人の声が重なって、広い浴室に反響した。
そう! 脱衣所を抜けると、そこは大浴場であったのだ!
とは言っても、アニルレイにあったほど大きくはない。でもそれなりの広さで、例えば今ここにいる全員が同時に浴槽に入ることも簡単にできるくらいだ。
「リーシャの案らしい。えっと……『みんな一緒に入るためのものですよ。狭い浴室で二人きりになりたいのなら、ちゃんとそれ用の風呂場も用意しています』か。…………今のは忘れて、一応小さい方も見るぞ」
小さい方の風呂場は、俺とエミリアが寮で使っているものと同じくらいの大きさだった。一人または二人が丁度よく、三人で使うと少し狭いくらいの大きさ。
「い、一応言っとくけど、メイドでも、オレは……え、エッチなこと、しないからな」
「分かってるって」
前にも言ったが、そういうことをさせるのは好きじゃないんだよ。
「これで、主要な部屋は全部見せたと思う。あとは個人の部屋だけど、畳の部屋はない」
「二階に個人の部屋があるのか?」
「ああ、オレの使う従者用の部屋だけは玄関近くに……」
「メアも二階な」
「…………。……え!? い、いや待て! オレはおまえのメイドだぞ!? そ、そんなちゃんとした部屋なんか……」
「だーめ。メアちゃんだけ仲間外れなんて駄目。従者用の部屋は…………物置にでもしましょう?」
「そうでござるよ。これだけの部屋があれば、使わない方がもったいない」
他のみんなからも、そうだそうだと賛成の声が上がる。
「…………良いのか?」
「ああ、良いに決まってるだろ? 俺たちは一緒に住む家族なんだから」
「そうか…………あ、ありがとな……」
照れ臭そうに頬を掻きながら、お礼を言うメアに、俺たちの頬は緩む。
俺たちのニヤニヤとした視線が恥ずかしかったのか、メアは無理矢理話を変えた。
「そ、そうだ! いま思い出したが、一階のこっちの部屋に面白いものがあるってリーシャが……」
不安しかない言葉と共に歩いていくメアに、俺たちはゾロゾロとついて行く。
辿り着いた先にあったのは、豪奢で大きな扉だ。王様の部屋に使われているような、両開きの扉。
メアがそれをゆっくりと押し開き…………
『…………』
俺たちは絶句した。
その部屋には、中央に大きなベッドがポツンと置いてあった。
本当に大きなベッドだ。ここにいる全員が、一緒に寝ることができるくらいの大きなベッド。
「? どうしたの? みんな?」
「いや…………これはあれじゃ、大きなベッドで寝てみたいという、そういう希望を叶えるための部屋じゃ…………」
とりあえず、そういうことになった。
♦︎♦︎♦︎
その後、屋敷内を自由に見て良いということになったので、俺は早速トイレに向かっていた。初トイレってやつだ。
「そういや、一番大きい部屋ってなんなんだろう……?」
主要な部屋は全部見せたって言ってたが……。ダイニングを見せてもらった時に聞いた、後のお楽しみという言葉が引っかかる。
本当に、家に必要な残りの部屋と言えば、あとはもうトイレしかないのだ。
いや、まさかな。
俺はちょっとした不安を感じながらトイレのドアを開け…………
「…………は?」
そして、固まった。
……いや、と言っても、トイレが広かったとかじゃない。
もっと別の理由。強い既視感だ。
「このトイレって…………」
トイレの横に、トイレする人を見るかのような向きの、あまりに用途不明な謎の椅子があった。
そう、寮と同じ作り。
それを理解した途端、俺の中で全てが繋がる。あの巨大なベッド、大きなお風呂…………。
「寮と作った奴同じだこれ!!」
予定では、ここまで3話くらいだったんですがね!なんか二倍近くなってますね!




