四話:天邪鬼メイドのご主人様!
遅れましたすみません!
「スゥゥ……ハァァ……」
他のものに比べて重厚な扉の前で、俺は深呼吸をする。
隣では、メアも緊張に顔を強張らせていた。
「もう良いか?」と、そう目線で尋ねると、メアがコクリと頷いたので、俺は扉に手をかけて……
「娘さんを僕に下さい!!」
「どうぞもらって行きなさイ!!」
流れるような完璧すぎる土下座!
そして即座に返ってくる許可の返事!
「おまえ何やってんだ!! おい! す、すぐに謝れって!」
そして涙目で慌てる新人メイド、メア!
「まあまあメア、少し落ち着け」
「これが落ち着いていられるかよ! そ、それじゃ……王女様と、け、結婚するみたいじゃねえか!」
「違うって、これは老化チェック」
「…………は?」
意味わからんって顔のメア。
そうだな、自分でやっていてなんだが、俺も正直意味わからん。
「王様ってのは発言の一つ一つ、頭の回転、どちらも大事だろ? だから、俺が適当なことを言って、王様がそれに的確に返答できたら合格ってのをやってるんだよ。数年前くらいから」
「本当に何やってんだ!?」
「ちなみに今のは不合格。一国の王が、そう軽々と娘を差し出すものじゃないからね」
「クッ……久しぶりで勘が鈍ったヨ……!!」
「この王様も何言ってんだ!? ……って、す、すみません!!」
王様に対して無礼な言葉遣いをし、それに気が付いてすぐに顔を青褪めさせるメア。
ふむ、こいつのこういう姿は初めて見たな。
「大丈夫大丈夫。娘の友人になってもらう子に、そんな目くじら立てないヨ」
「あ、ありがとうございます!!」
勢い良く頭を下げるメア。
ふむ、これも初めて見たな。
「てか娘の友人? そうだ、メアがメイドになってことも含めて、何の用なんですか?」
「あー、そうだね。まず、呼び出した件と、マーカス君の一人娘の件は別物だヨ?」
「別件? あなたがメイドにさせたんじゃないんですか?」
「うぐっ…………」
俺がそう聞くと、半歩ほど俺の後ろに立つメアが変な声を出した。
振り向いて見ると、何故か俺と目を合わせようとしない。
なんだ? 何かやましいことでも…………っ!
「それでしたら、私が説明します」
「っリーシャさん!?」
真後ろに気配を感じて、手刀を放ってしまった。
彼女の姿を確認して、慌てて止めようとするがもう遅い。
何故なら、止めた時既に、俺の手はリーシャさんの胸の谷間に埋没していたのだからね!
…………柔らかっ!
「シン!? お、おまえ何してんだ!!」
俺のセクハラを目の当たりにしたメアが、目の色変えて飛びかかってくるが……
「駄目ですよ、メア」
「うげっ!」
リーシャさんが、どこからともなく取り出した拳銃の銃口をメアに向けて、間髪入れずに発砲。
とは言ってもさすがにゴム弾だ。だが、それでも痛いものは痛い。
メアは、赤くなった額を抑えて「うぅ〜〜」と唸りながらしゃがみ込んでいる。
メアに弾丸を当てるとか……何者なんだまじで……。
「私は貴方に、一番最初に、主人の求めには全て答えなさいと教えたはずですが? このように胸を触りたいというのなら触らせ、たとえ人には言えないような、あるいは獣以下の行為であろうと、私たちは応えなければならないのですよ?」
「人を異常性癖の持ち主のように言わないでくれます!?」
「おや? 違いましたか?」
「大外れですけど!?」
リーシャさんの尽くすことに対する想いは伝わったけども……そもそもこの人って、そういうの嫌いな人じゃなかったのか?
「もちろん嫌ですよ、今でも。ですが、シン様のおかげで、私は今も純潔を散らさず、男に触れられることなく、生きているのです。シン様でしたら……構いません」
「何を!?」
「色々と」
怖い! なんか分からないけど怖い!
「あー、シン君? いつまで胸を触っているのかナ? それと、説明して良いかナ? おじさん困っちゃう」
「いえ、触っていたいのでしたら、私は我慢しますので……」
「お気遣い結構です!」
♦︎♦︎♦︎
「えっと……つまり、家が完成したんですか?」
「そう! あれ? 反応薄くない?」
「いや、まあ、なんというか……もっと大きい衝撃のせいで、一周回ってもう何を聞いても冷静でいられるというか……」
「そう言えばさっきエミリアが誘拐されて……」
「どこですか!? 誰ですか!? 殺して良いですか!?」
「一瞬で冷静じゃなくなったな」
「メア」
「う……良いじゃんかよ、あいつも許してくれたんだし……」
「はぁ……仕方ないですね……。シン様、嘘ですよ。嘘」
「ああ、エミリアが誘拐されたエミリアが誘拐されたァァ〜〜!! くそっ俺がいないばかりに…………って、へ? 嘘?」
嘘って……あの嘘?
「良かったぁぁぁぁ!!」
「やっぱこいつアホだろ」
「同意します」
「あ、同意しちゃうんだ」
あー、まじで心配した!
もう、エミリアの身に何かあったら……もう世界滅ぼす。いや、冗談じゃなく。
「安心したところで聞きたいけど、大きい衝撃ってのは、あの子かい?」
「まあ……そうです、メアです」
メアがどうしたのかって言うと……
『メアがシン様専属のメイドになることになりました』
そう、なんと、俺はメアの主人になったのだ!
…………いや待とう?
俺たち幼馴染みで同じ隊の仲間だよな? なんでそうなるの?
そう、俺が聞くと…………
『メアが希望したんですよ』
ね? もう理解不能でしょ?
お久しぶりの登場。




