エピローグ2
──エミリアのことが、好きだ。
すぐ隣で俺に背中を向けて眠るエミリアの頭を撫でながら、俺はしっかりと言葉に出してそう言った。
昨日、自分が押さえられなくなって。
乱暴にして、エミリアを泣かせてしまって、拒絶されて、そして自覚した。
みっともない独占欲と言えばそうだが、その感情がどこから来ているかを考えれば、それはやはり俺がエミリアに恋をしているからだろう。
いつからなのか、分からない。
ただ、師匠を探さずにエミリアの護衛であり続けていたことを考えると、もしかしたら、その時から既に種は芽を出していたのかも知れない。
少し前、俺の記憶が生んだ師匠が言っていたこと──。
エミリアは既に俺の中の一番で、ただそれに気がついていないだけ。
何故、エミリアの好意を無視し続けてきたかが、今ならハッキリと分かる。
俺は、怖かったのだ。
今の関係が崩れることもそうだが、何より、両想いだと分かれば、エミリアへの気持ちが抑えられなくなってしまう。
そんなことになれば、そう、
『シンの……バカァァァ!』
俺はきっと、昨日のように、理性を失って獣のようになってしまう。
あの時、エミリアの流した涙に映っていた自分の顔は、今でも頭から離れない。
俺は、とても冷たい表情をしていた。
冷酷で、事務的な、感情の感じられない表情。無表情というよりも、無感情だった。
エミリアがハッキリと拒絶して、俺がそこで思い留まったから良かったものの…………。
もしあの時、俺が我に帰らなかったら……、そう考えると、とてもゾッとする。
俺はエミリアが好きだ。
エミリアも、多分俺のことを好きに思ってくれている。
だからこそ、俺は、エミリアを大切にしたい。
エミリアを誰かに奪われるなんてあり得ないし、俺自身がエミリアを襲うなんてもっての他だ。
「でも俺は…………」
自分のことは、自分が一番知っている。
俺の独占欲は、おそらく普通じゃない。
このままエミリアを想い続ければ、きっと、エミリアは不幸になる。
だから……この気持ちは、閉まっておくべきだろう。
エミリアが俺の本性に気付いて、俺への気持ちを失うその時まで。
「ごめん、エミリア…………」
俺の願いは、エミリアが幸せになること、ただ一つ。
師匠と再会することは、俺の願いではないのだ。
エミリアが幸せにさえなってくれれば、俺はどうなっても良い。師匠との再会が叶わなくとも、構わない。地獄に落ちようが構わない。たとえ世界が滅んでも、それがエミリアの真の幸せであれば、俺は喜んで世界を滅ぼす。
──だから、今だけは、この言葉を許してくれ。
「俺を早く嫌いになってくれ、エミリア」
自分から嫌われる勇気のない俺を、どうか、早く見捨ててくれ。
「…………本当に、ごめん」
最後に布団をかけてやり、俺は部屋を後にした。
♦︎♦︎♦︎
「バカ…………シンの、大馬鹿……」
一人になった布団は寒くて。
想いを知った身体は暖かい。
だからひどく悲しくて。
だからひどく嬉しいの。
「本当に……………………」




