表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

169/344

七十六話:嫌な予感


『かんぱーい!!』


 宿屋にて、八人の声が揃った。

 隣同士で楽しげに喋り、目の前の豪華な料理に目を輝かせるみんなを、俺はグラスに口をつけながら眺める。

 みんな、どこか浮かれている。

 理由は、言うまでもないだろう。


 正神教徒幹部ザーノスを倒した。

 歴史上で一番最初の大司教討伐だ。それも、死者がゼロという、最高の終わり方で。エミリアも純潔を守ったし、俺もグラムからの誘惑を防ぎ切った……!!


 食べ終わり時刻が遅くなっても、興奮冷めやらぬ様子でみんなはまだワイワイと話していた。

 そんな彼女らを見て、俺はこっそりと立ち上がる。

 が、流石に隣で食べていたエミリアには気付かれるか。


「どこ行くの? シン」

「ん、ちょっとお手洗いに」

「了解です。行ってらっしゃい」


 エミリアの言葉に送られて、俺は宴会場をそっと後にした。

 暗い廊下を進んで、トイレの前を通り過ぎ、俺はロビーに向かった。


 エミリアにはお手洗いと言ったが、俺の本当の目的は違う。

 ロビーに来ている男が、俺の目的だ。


「時間ピッタリだな、全く、お前も几帳面だよな? 男との約束のために美少女だらけの祝賀会を抜け出すなんてよ」

「そう言うなら明日にしろよ……」

「明日にしたら、今晩のうちに色々考えられそうだったからな。まずはこれ、返しておく」


 そう言いながら取り出したのは、鈍く光る銀装の拳銃。

 あの、装弾数三発の代わりに当たれば即死という、無茶苦茶な設計の銃だ。

 エミリアがザーノスに犯されそうになった時、こいつが発砲したおかげでエミリアは助かったらしい。


「ありがとな、エミリアを助けてくれて」

「いいや? あの王女様が犯されれば、お前が制御不能になって俺の計画もおじゃんになるからな。復讐のためだよ」


 手をヒラヒラさせながら答えるアルディアの表情は見えないが、本当に、なんとも思っていないようだった。


「と言うよりもそれ、壊しちまったが大丈夫だったか? ひでぇ壊れ方してっけど」

「ん? ああ、これなら大丈夫だ。三発撃つと、丁度銃身の耐久度が無くなるようにできてるんだよ」


 もし壊れていることに気がつかず発砲してしまうと、そのオーバーキル気味の威力が自分に牙を剥くことになる。

 それを防ぐために、わざと弱くしているのだ。

 今回はこの銃を三回も使ったから、壊れるのも仕方がない。


 弾、三発分。

 俺が森で撃った一発、アルディアがエミリアを助けた一発。

 そして、最後の一発は……


「大丈夫か? お前、最後頭に食らってただろ」


 アルディアがザーノスに向けて放った、トドメの一撃だった。

 死なない呪いはザーノスの魔力を元にしているから、アルディアの能力が付与された弾丸であれば、確実に殺すことができる。

 問題は避けられることだったが、それは、俺が羽交い締めにすることで解決した。

 勿論、ザーノスを後ろから羽交い締めにした俺ごと、ザーノスの脳天に弾丸を撃ち込むことになる。

 軽々と貫通した弾丸がそのまま俺の脳天を貫くことに、何も不思議はない。


「大丈夫だ、気を抜くとちょっとふらつく程度」


 だが俺は、あの再生能力があるので、死ぬことはない。アルディアの結界内でも復活できるのは、最初にこいつに殺された時に確認済みだ。

 死に方が死に方だけに、復活後も少し違和感があるがな。

 まぁそれも、じきに無くなるだろう。


「…………お前、これからどこに行くんだ?」

「さあな。適当にフラフラするよ」

「なぁ、孤児院に戻るってのは…………」

「やめろ」

「っ!!」


「俺は、孤児院を燃やした奴と同じ正神教徒だ。今更、どんな面下げて戻れってんだ。それに…………」


 少し悲しげにふっと笑って、


「もう、グラムやマリン、みんなしっかりお姉ちゃんお兄ちゃんやってるからな。俺の居場所はもうねえよ。それにグラム自身にも、寄りかかれる相手ができたみたいだし」

「…………」

「……俺はもう行くよ」

「ああ、ありがとな」


 俺の礼にも、手をヒラヒラと振るのみ。

 なんとも掴み所のない男だ。


「……ああ、あと一つ」


 だが、ふと立ち止まったアルディアが、仮面を外して振り返った。


「妹を、頼んだからな」


 そして、それだけ言うと、あとは何も言わず、闇の中に消えていった。


「任せておけ、アルディア」


 ♦︎♦︎♦︎


 と、本来ならばこれで全て解決となるのであろうが、残念ながら、そうも行かなかった。

 宴会場に戻った俺を出迎えていたのは、なんとも言えない異様な雰囲気だった。

 その雰囲気の中心では、トランプのようなゲームをしている、エミリア、キラ先生、雪風、マリンちゃんがいた。

 四人とも、俺には気が付いていないみたいだ。


「むぅ……やはりこういったものは苦手じゃ……。じゃが、勝負は勝負、仕方がないの」

「受け止めるです」


 少し残念そうな表情をしているキラ先生と雪風を見て、何か嫌な予感がした。


「ごめんお姉ちゃん……マリンが不甲斐ないばかりに……」

「だから最初から頼んでないにゃ!?」


 申し訳なさそうに眉を下げるマリンちゃんと、顔を赤くするグラムを見て、さらに嫌な予感が。


「────っ!!!」


 そして、エミリアの嬉しそうな顔を見た途端、俺は、今度こそ確信に近いものを覚えた。


「あのぉ、これって、何やってるの?」


 恐る恐る紫苑に聞いてみると……


「部屋割りでござる。勝者から順に、誰と同じ部屋にするかを決めるのでござるよ」

「やっぱりそういうことか…………」


 となると、今勝ったのはエミリアだし……


「私は…………シンとが……良いかな?」


 嫌な予感が、確信どころか確定に変わった瞬間であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ