七十二話:最悪の相手
一昨日から投稿しているラブコメもよろしくお願いします!
俺の周囲に揺らめく紅いオーラ。
暴走した魔力が、時より小さな電撃を起こす。
これがなんなのかと言えば……
「龍の力……」
今まで何もしてこなかったザーノスが、小さくポツリと呟いた。
ああそうだ。キラ先生と同じ、龍の力。理由は分からないが、どうやら俺は龍の力を一部扱えるらしい。
考えられる理由と言えば、師匠くらいか。きっと師匠が龍の関係者で、その一番弟子である俺にも力の行使が許されたとか。
まあ、その師匠が死亡、もしくは記憶喪失の今、真相なんて分かるはずもないが。
「戦う中で会得するとは思っていたが……まさか最初から掌握するとはな。昨日の時点からじゃ……まさか、あれからも一日中制御の訓練でもしてたのか?」
やれやれと言いたげに肩を竦めるアルディア。仮面で表情が見えくても、心の底から呆れていることは分かった。
「それじゃ昨日は……」
ハッと気が付いたように息を飲むエミリアに、俺は柔らかく微笑みかける。
そうだ。
昨日の夜は、自分の権能に任せて無理矢理解放しようとして、結果身体が爆散。だから俺は血だらけだったのだ。
魔力がなかったのも、全て放出してしまったからだ。今回も、失敗すれば戦う術を失った可能性があったんだ。
でも、そのリスクを冒す価値が、きっとこれにはあった。
「後ろだ」
「何っ!?」
何故なら、魔術師である俺の拳で、正神教徒大司教を吹き飛ばずことができるのだ。
小細工も使わずに相手の認識の外に居る感覚を、俺は初めて味わった。こんなに、気持ちの良いものだったのか。
「やっぱ、龍の力ってすげえ……」
全身から、力が湧き上がってくる感覚。冗談抜きで、今の俺なら敵なし、世界だって支配することもできそうだ。
動きも、今までとは比べ物にならない程速くなっている。当然、脳味噌の処理能力も上がっているから、
『魔弾』
無詠唱の、しかもろくに魔力を込めていない〈魔弾〉にも関わらず、放たれた二つの黒球は地面を抉りながらザーノスに追い討ちをかけた。
威力も桁違いに上がってるな、魔術師としても普段以上のパフォーマンスができるってことか……!
それなら……
「切り刻め!」
〈ストレージ〉から魔剣を取り出し、魔法の刃をザーノスに向けて途方もない数を飛ばす。
ああ、たまんない……!
地面が吹き飛び、木々が燃え、空気が凍る……!
圧倒的な力だ。これが、龍の力……!
正神教徒がなんだ、今なら、エミリアに歯向かう奴らを全員殺せる……。
「はぁ、はぁ、ハァ……ははっ……」
だが、これまでやってもザーノスは死なない。
立ち昇る噴煙の向こうで誰かが立ち上がる、そんなシルエットが見えた。
良い……それでこそ大司教だ……! この程度で死なせるものか……、地獄なんて生温い。悪魔でさえ恐れる地獄のさらに下まで、深淵まで堕とさなければ……!
エミリアを奪おうとした罪は、たとえ未遂だろうと、何をしようとも償えない。
「魔術師なのに格闘術の心得があるだと……?」
立ち上がったザーノスが、忌々しそうに呟く。
その身体は無傷、ああ、やっぱりこれくらいじゃ死なないよな……!
「……おい、何かがおかしくないか……?」
「〈旋風〉! 〈極炎魔法〉!」
ザーノスの周囲に現れた強烈な竜巻が、超高温の炎を巻きこむ。
先程、木々を燃やしたり切ったりして減らしたのは、このためでもある。
炎の熱気がここまで伝わってくるのだ、中の温度は、想像を絶するものだろう。
だが、
「甘いな。貴様のはただ威力だけの力技、精度がなっていない。繊細な魔術を、このように使えば……」
「なっ……!!」
「このように、相手に乗っ取られるぞ」
制御権が奪われた!?
「くっ……〈絶対零度〉!」
俺は慌てて相殺するが、
「高位魔法の相殺は、使用魔力の分だけ隙が多い。敵が多少の負傷を厭わず突貫してきたらどうするつもりだ?」
「っ……」
気付けば懐にザーノスが入り込んでいた。
確実に間合いの中。
「癒えぬ傷を負うが良い」
何かが身体を貫いた感覚、貫手だ。
即座に治癒能力が発動、空いた穴から黒い瘴気が噴き出す。
だが……
「回復が、遅い?」
明らかに、能力が上手く発動していなかった。
……いや、というよりもこれは…
「私の付けた傷は、何十倍もの速度で悪化する。今は貴様の治癒能力が勝るようだが……」
「ガァっ!」
「さて、治癒能力がその身体を癒すよりも速く、私が貴様の身体を壊せばどうなる?」
くそっ……これがこいつの能力か!
正神教徒の幹部は、必ず特別な能力を持っている。アルディアが魔力を通さない結界を待っていたように、こいつも何か能力があるとは思っていたが……。
「ああぁぁぁぁ!!」
「っ!!」
俺はさらに体内の魔力を放出して、ザーノスから距離を取ろうとするが、
「無駄だ」
俺の身体を貫く手刀が、それを許さない。
逃げられぬ間に、俺の眼前にザーノスのもう片方の手が向けられた。
その手の中には、小さな光弾があった。
──何か、とても嫌な予感がする。
「これで終わりだ」
ザーノスがそう言った途端、光球が膨れ上がり、閃光が目を貫く。
「…………?」
だが、それだけだった。
身体はまだあるし、身体の中にザーノスの手の感触もない。
何故ならそれは……
「馬鹿野郎……何手加減してんだ……、殺すつもりで行かなきゃやられるって……言った、だろ」
「アルディア……?」
俺の目の前に、アルディアの背中があった。
アルディアが身代わりになったおかげで、俺は助かったのだ。
だが……それなら、アルディアなら何故、魔力攻撃にも関わらず瀕死な状態なのか。
「お前、何で結界を……!」
「言ったであろう? 傷が広がる速さが速いと。無論、結界の破壊も同じだ。魔力攻撃に対する耐久力がどんなに高かろうと、私の全力の一撃には関係ない」
「っ……!!」
「感謝するぞ、シン・ゼロワン。私の最大の敵が、貴様のおかげで無力化できた。ふん、逃げ続けていれば良いものを」
何……?
どういうことだ? こいつの目的は、一体何なんだ……?
「待っていたぞ、この時を!」
「えっ……?」
後ろから感じる冷気。
慌てて振り向くと、そこに居たのは、
「ごめんなさい……シン……」
こちらに手を向ける、エミリアの姿だった。
要改稿ですね……。




