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六十八話:本当の力

 

 時間の正神教徒から放たれた極光が、翼の折れたキラを包み込む。


「…………?」


 だがすぐに、正神教徒の額にシワが浮かんだ。

 厳しい目で睨む抉れた地面には、キラの死体と思しき物はなかった。

 その代わりに、氷の破片が。何故か溶けていない小さな氷の破片が、老人の背後を映し出す。

 だから、老人はすぐさま次の行動に移ることができた。


「絶対零度!!」

「チッ」


 迫りくる魔力の波に、避けられないと判断した老人は、一つ舌打ちをする。

 今、何が起きたかが分かったのだ。


「そんな!!」


 ただ、エミリアの放った氷の魔法は、老人に当たる直前で()()()()()。止められてしまった。

 老人が契約する五人の配下のうち、速度特化の戦士だ。彼は自分の命を犠牲にして、エミリアの精度の高い大魔法を防ぎ切ったのだ。


「高位の魔法と同時に、防御魔法も展開するとは……そして、それだけじゃないか。……私自身の力も失われている?」


 エミリアからキラが治癒魔法を受けているがそれも気にせず、老人は気付きを呟く。

 先程の極光、ハンゲルの防御魔法によって威力が減衰したのは確かだが、それだけではない。極光自体の威力が、格段に下がっていた。

 突然の弱体化、……いや、この場合は強化が解除されたと言うべきか。


「忌々しい……。最後まで役に立たないのだな、混血は」


 時間の正神教徒が使う主従契約は、従者の力の一部が主人に反映される特殊な物だ。

 そしてこの老人は、グラムとも契約を交わしていた。グラムとの戦闘で失った(自分が殺した)パワータイプの代わりとして。

 だから、先程までの時間の正神教徒には、グラムの力の一部が反映されていたのだ。

 トロール、グリフォン、サキュバスの王女と契約したグラムだ。一部とは言え、反映される力は大きい。

 それこそが、今までの圧倒的な力の理由であった。


「……なんじゃ? 以前より覇気が感じられなくなったが……」

「私も、これなら全力で戦えそうです。すみません、シンで慣れていたはずなのに……」

「いや、仕方がない。敵意のこもった膨大な魔力を浴びたのは初めてじゃろう? 萎縮して当然じゃ。……過保護の弊害じゃな」


 そしてその弱体化は、エミリアとキラにも伝わった。

 これは二人にとって嬉しい出来事だ、特にエミリアは、これでやっと本格的に参戦できる。

 今まではむしろキラの足を引っ張っていたが、魔法が全力で使えるようになれば話は別だ。


「行くぞ!」

「はい!」


 二人の表情に笑みが浮かんだ。それは、老人の言葉がグラムの状況を伝えるものであり、そしてまた、自分たちの戦況が大きくこちら側に傾いたからだ。

 エミリアが周囲に氷の礫を多数展開し、キラが闘気の純度をさらに高める。

 まるで、ここからが本番だと言わんばかりだ。


 事実、今の老人からは、正神教徒とは思えない程度の力しか感じなかったのだ。

 二人は思う、おそらくこの男は、配下の力のよって強者であることができたのだと。

 これまでの戦闘で、この老人は全ての配下を失った。今の老人は、一般的な範疇に収まる程度。

 龍人と、英雄の血を引く王女が、負けるはずがない。

 さっさと終わらせて、グラムに会いに行こう。そう、二人が顔を見合わせて一つ頷き、いざ動こうとした瞬間、


「「ッ────!」」


 不思議な程に、ピクリとも、身体が動かなくなった。

 エミリアが展開する魔法も、キラの闘気も、その場で霧散した。それならまだしも、呼吸すら上手くできない。


「──では、これから本番ということになるな」


 老人が、ゆっくりと振り向く。

 これまでのものがちっぽけに見えるような、冗談のような覇気。


 ──まさか……ここまでとは!!


 正神教徒幹部、討伐報告のない化け物、大司教。

 その言葉の意味を、二人は身をもって知った。

 時間の正神教徒が纏うオーラは、それに触れるだけで大怪我しそうな程、禍々しく、攻撃的だった。


「なんだ、動くことすらままならないのか。龍種といえども、こんなものか」

「舐めるな……力さえ、封印されてなければ……!!」

「だが、事実今のお前は口を動かすのがやっとではないか? しかし、封印か。封印されし龍種……どこかで聞いた話だったが、さてどこだったか」


 老人は顎髭を撫でながらしばし考えていたが、ふと思い出したように、


「おおそうだ、私の名前を言っていなかったな? 私の妻となるのだから知っていなくては話にならん」

「誰が貴様の妻になど……!」

「少しうるさいな。黙っていろ」

「っ……!!」


 老人がそう言って指を向けた途端、糸が切れたマリオネットのようにキラがその場で崩れ落ちた。

 だがエミリアは、驚きに目を見開くことしかできない。教師を呼ぶ声は、声にならなかった。


「安心しろ、意識はある。今から言う名前を聞いてもらわなくてはならないからな」

「…………」

「私は正神教徒大司教、『時間』。名を、ザーノスと言う。喜べ生物、この私の寵愛を受けるのだから」


話の流れが前後しているので、ここに全体の流れを載せておきます。


紫苑がグラムと交戦

シンが合流・二人がザーノスと出会う

キラが殺されそうになる

グラムが自力で契約を破棄、それによってザーノスが弱体化→キラが助かる。

ザーノスが本気を出す。

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