五十八話:夜
お布団に入った後も、私は眠ることができなかった。
シンが心配なんじゃない。シンは、キラ先生が一緒の部屋で寝ているから、多分王城よりも安全。
眠れない原因は、グラムちゃんのことだ。
グラムちゃんは、別に間違ったことをしているわけじゃない。
契約して、強くなる。
それは精霊術師と同じことだし、非難できるわけがない。
でも、グラムちゃんは帰ってこない。
それはきっと、心のどこかで、何か後ろめたい気持ちがあるからだと思う。
多分、堂々と帰ってきていたら、こんなふうに気まずいことにはならなかった。
強くなる手段が見つかって良かったね、羨ましい、そんなふうに笑い合えたはずだ。
でも……そう上手くは行かなかった。
グラムちゃんは、あの力の扱いに困っているように見える。こんな力を持って、怒られないかとビクビクしてる。
だからあの時、私が許していると言った時、グラムちゃんはあれ程動揺していたのだ。
自分は許されないことをした、そんな自覚があるから、グラムちゃんは帰ってこない。あんなふうに、悪役を演じている。
服を着ているのも、顔が真っ赤になっているのも、悪役としては三流なのかも知れない。
だから、グラムちゃんは逃げた。
「シンは、いつから分かってたのかな……?」
グラムよりも、正神教徒の方が怖い。そうシンはよく言っていたが、今なら何故そんなことを言っていたのかわかる気がする。
だってそれは、シンも通ったことのある道だと思うから。あそこまでお師匠さんを敬愛しているシンが、強くなるために刀に手を出した。
それは多分、シンにとってひどく辛いことだったのかも知れない。当時の私は、そんなこと知らずにニコニコしていたけど。
「シンはグラムちゃんを心配して、でも安心していたのは多分…………自分を、重ねていたから」
と、その時、私の中でも、シンとグラムちゃんが重なって見えた。
「そうか、グラムちゃんはシンと似てるんだ……!」
プライドが高いところも、卑屈になりやすいところも、困った時にその場の勢いで誤魔化すところも。
もしかしたら、グラムちゃんは助けて欲しいのかも知れない。多分、グラムちゃん自身はそのことに気づいてないけど。
でも、今の自分が、自分の理想と違っていることには、きっと気づいてる。
だってそうじゃなきゃ、あんなに悲しそうな顔はしないもの。
グラムちゃんは、助けて欲しいから、こうしてどっちつかずの距離を保っていると思う。
グラムちゃんが本気で誘惑すれば、グラムちゃんならシンとキスできる。……ちょっとムッとするけど、仕方ない。
でも、それをしないのは、助けて欲しいから。悪役でいたいけど、悪にはなりたくない。そんな感じ。
「シンは、どうしてあの時を乗り越えられたんだろう……?」
それがわかれば、グラムちゃんを助けることができるかも知れない。
なんで、シンはお師匠さんから受け継いだ魔術だけじゃなくて、剣にまで手を出したんだろう?
シンの理想は、お師匠さんみたいな……つまりレイ先輩みたいな大魔術師のはず。あそこまで傾倒していることだし、刀を手に持つなんて考えは普通浮かばない。
「…………」
ただわからないのが、グラムちゃんはどうやってその能力を身につけたかだ。
あんな力が勝手に身につくなんて、絶対にあり得ない。
何か、原因があるはずなの。
もし、それが、誰かの悪意によるものだとしたら…………多分、シンは……
「約束、したのになぁ……」
また、守ってくれなかった。そう思うと、今の状況から考えて理不尽だとは思うが、やっぱり胸がキューってする。
い、いや! 別に嫉妬してるとかじゃないの! ただ、少しだけ胸がチクってして、喉が焼けるように熱くなって、少し寂しくなるだけ…………。
「ううん、今はグラムちゃんのこと……」
友達なんだから、少しくらい相談してくれたって良いのに。
そりゃ、私なんかじゃ役に立たないかも知れないけど……私だって、強くなりたいのは同じだし……。
「はぁ……どうして、グラムちゃんは強くなれたんだろう……?」
明日は、それを探って見るのも良いかも知れない。
そんなことを考えながら、私は目を閉じた。
次話は金曜日投稿です!




