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五十七話:契約を続ける理由

150話到達しました!

 

「えと……どうやって、服を脱ごうか?」

「それくらいは一人でできると思うよ。直接外に面していない脱衣所なら、グラムに襲われることもないしね」

「そ、そう? じゃあシン、私が先に脱ぐから……えと、後ろ向いてて?」

「出なくて良いのか?」

「今のシンに、あまり動いて欲しくないの。できれば、私が脱がせてあげたいんだけど……」

「や、それは十分だからな!? エミリアは割り切れても、俺が恥ずかしすぎる……」


 でも、そうか。エミリアは既に、これを仕事のように考えているわけだな。

 一緒に入りたいと言った気持ちには、俺を心配する心、そして俺を守りたいという心、そんな似通った二つの心しかない。

 俺のいる場所で裸になるなど、エミリアにとっては羞恥で倒れてもおかしくない状況だが、いつもと違ってエミリアは気にしていないらしい。


「……はぅぅ……み、見ちゃダメだからね……?」


 いや、全く気にしていないわけじゃないらしい。

 でも、そりゃそうか。

 俺だってそこまでハッキリと割り切ることはできないんだ。これでエミリアが全く気にしなかったから、むしろその方が心配になるし虚しくもなる。


「ん、脱いだよ……。じ、じゃあ私は後ろを向いてるから。次はシンの番ね?」


 すぐ後ろから聞こえる衣擦れの音にドキドキしていると、エミリアからそんな声がかけられた。

 俺はゆっくりと立ち上がり、その場で制服を脱いでいく。そしてすぐに、全裸になった。

 すぐ後ろに、エミリアがいる。

 なのにこんな格好をしているなんて、すごく奇妙な感覚だ。

 腰にタオルを巻いて、俺はエミリアに声をかける。


「それじゃ……行こっか」


 エミリアに連れられ、俺は脱衣所から大浴場へと足を踏み入れた。

 俺たちは並んで身体を洗い場に触る。

 横目にチラリと見ると、バスタオルに包まれた男とは全く違う女性的な身体が目に写り、思わず顔が熱くなる。

 シャワーの水滴と俺の視線は、ほぼ同時に胸の谷間に吸い込まれていった。


「……何? やっぱり痛い?」

「い、いや…………」


 女の子はそういった視線に敏感だと聞く。エミリアも俺がどこを見ていたのか分かっていたはずだが、軽蔑するようなことはなく、むしろ俺を心配してくれた。


「…………なんでもないよ」

「そう……」

「「…………」」


 気恥ずかしいのもあって、俺たちの間に特に会話はない。

 早く来いよグラム……!!

 そんなことを考えているうちに、俺たちはもう身体を洗い終えて、後は湯船に浸かるだけとなった。

 いつもなら、身体を洗っている隙に後ろから接近してくるはずなのに……。今日に限ってグラムは来ない。


「ふぅ……」

「…………来ないね、グラムちゃん」

「ん? そうだな、来ないな……」

「…………」

「…………」

「ねぇ、シン」

「ん?」

「どうして、血だらけだったの?」

「…………あぁー……うん。修行してたんだよ。強くなるためにね。おかげてもう魔力は空っぽ」

「んんん……」


 納得行かない表情のエミリア。

 一人分くらい空いていた二人の間を、半分ほど詰めてきた。


「戦ったの……?」

「…………まぁ、それは雪風に伝わって……ってそうか、雪風は頭痛で眠ったんだったな。まあ、久し振りに修行らしい修行をしたよ」

「本当に、それだけ……? 嘘はついてなさそうだけど……誤魔化してたりしない?」


 まだ半信半疑な様子のエミリア。

 俺がどう言えば良いか考えていると、ふと目を向けた先の水面に、ポコポコと泡が出ているのが見えた。


「……エミリア。来たかも知れない」

「…………来たって……」


 エミリアが言い終えることはなかった。

 エミリアが言うよりも、俺がエミリアを抱えて〈飛翔〉を使う方が先だったのだ。


「シンっ! だ、駄目だよ魔力切れの状態で!!」

「……っ!!」


 咄嗟に使ってしまったツケか、魔力消費の多い魔法に、全身が悲鳴を上げた。

 だけど、この〈飛翔〉には、それだけの価値はあったと思う。


「お風呂が…………!!」

「マリンちゃんの力か……!!」


 湯船が大きな水柱を上げ、こちらに迫ってきていた。

 それをエミリアが氷魔法で凍らせ、同時に展開していた風魔法で粉々にする。

 いつものグラムにこんなことができるわけがないので、おそらくマリンちゃんの力だろう。

 グラムが魔術学院で学んだ知識が、マリンちゃんの力をブーストし、ここまでの効果を引き起こしているのだ。

 だから、マリンちゃんに同じ芸当ができると言われれば無理だろう。


 マリンちゃんを解放しないのは、こういうことか……。

 だが、水系統ならこっちの得意分野……


「…………ッ!!」

「シンっ!!」


 やばい……もう魔力が限界だ……。

 はは、久し振りだな、この感覚も。視界が明滅して、末端の感覚がなくなっていって……


「すまん、もう駄目だ……」

「ううん、後は任せて。…………スリープ」


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