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五十話:全て解決!!

 

「……シン、固まってしまってどうしたんですか?」


 …………やってしまった。

 なんでグラムじゃなくてレイ先輩なのかとか、ちゃんとマリンちゃんも服を着てるとか。色々気になることはあったが、布団の中に隠れていた二人を見て、俺は青ざめる。


「……むぅ……シン? お返事がありませんよー?」


 ……怖い!

 腕を胸に抱え込んで、拗ねたように口を尖らせて喋るレイ先輩。

 うん、怖い! 怖すぎる!

 なんかあざとい! いつものレイ先輩じゃない!


「むぅ……無視された……。良いです、そんなことをするなら、この腕を抱き枕にして二度寝しちゃいますから」


 そう言ってレイ先輩ら、さらに強く俺の腕をギュッと抱き締めて、肩の辺りに顔を埋めてしまった。

 浴衣の薄布一枚の向こうに、レイ先輩の柔肌が……はわわ……!

 ()()()じゃないのに()()()だよ!

 …………いや待て、いったん落ち着こう。

 こんな時は深呼吸だ。


「スーーーーー」


 大きく吸って…………レイ先輩の髪の毛の匂いが鼻に入ってきた……。

 あぁ……いい匂い。いい匂いすぎて興奮してくる。つまり逆効果。

 全然落ち着けないじゃねえか!


「ううん……本当に昨日何があったんだ……?」


 これは事後なんだろうか。

 グラムとマリンちゃんで姉妹丼を作ってしまったのだろうか。そしてそれを美味しく頂いてしまったのだろうか。

 そしてついでに、騒音を注意しにやってきたレイ先輩をつまみ食いしたのだろうか。


「レイ先輩がここまで甘える、もとい子供っぽくなるなんて……やはりそれしか……」


 そうだとしたら、俺はもう死刑は免れない。

 娘を溺愛している王様が、今のこの状況を許すとは思えない。笑顔で死刑宣告されるだろうな。

 せめ未遂であってくれ……!!


 と、俺が必死に事後ではない証拠を探していると扉が外からノックされた。


「シンー、もう起きたー?」

「エミリアっ!?」


 まずい! よりにもよって一番来て欲しくない人が来てしまった。


「シンー? まだ寝てるのー?」


 どうするどうする?

 ここで何事もなく出て行く? 多分エミリアは、マリンちゃんとレイ先輩の行方を探しているはずだ。だから、多分俺に聞いてくる。

 そして俺が二人は知らないと言った瞬間、レイ先輩かマリンちゃんが目を覚ましたなら……。


『嘘ついたってことは、私に知られたくなくて……ま、まさかシン……!!』


 なんてことになってしまう!

 いや、エミリアにそこまでの知識はないからすぐにはバレないと思うけど! でも紫苑とか雪風に話が行ったら……


「返事がないなら、起こすために入りますからねー? 3……2……」

「……!!」


 誤解されようとも、誠実に土下座して謝れば、まだ被害は軽く済んだのかもしれない

 だが俺は、カウントダウンが始まった瞬間、反射的に布団の中に隠れてしまったのだ。


「……0! 起きなさーい!! ……あれ?」


 扉が開く音と共に、元気なエミリアの声が部屋中に響いた。

 だがすぐに不思議そうな声がして、次に畳を踏む音がした。

 足音は、どんどん近づいてきている。


「…………」


 俺には、息を殺して、エミリアが早くどこかに行ってくれることを祈るしかない。

 と、その時、俺が慌てて布団の中に潜り込んだ衝撃で眠気が覚めてきたのか、


「んんっ……」

「っ!!」

「あれ? 今何か……」


 レイ先輩が、苦しそうな唸り声を上げた。


「布団が不自然に盛り上がってる……シーン? ちゃんと起きなきゃ駄目ですよー? ほら起きてー」

「っ……!!」


 布団の上から、誰かにお腹を撫でられた。

 エミリアが、俺の身体を揺すって起こそうとしているのだ。

 ここで布団をめくられたら……いよいよ言い訳できないぞ……!!


「起きないと……えっとぉ……顔にラクガキしちゃいますから。シンって名前を……それか、エミリアって……えへへ……」

「俺は持ち物かよ……」

「ひゃあ!! シン、起きてたの!?」

「も、もう食べられないよ……」

「な、なんだ寝言か……良かった……」


 あ、危ねぇ……。というか、あそこからよく咄嗟に誤魔化せたな。

 落書きか……可愛い悪戯で地味に嫌なやつだ。


「起きないなら……ほっぺに……ちゅ、チューしちゃうよ……?」


 可愛い悪戯で普通に嬉しいやつだ。

 まあ、これはさすがに冗談だろうけど──


「……昨日、シンが裸のグラムちゃんとマリンに囲まれてて……それで今の私、少し嫌な子なの。だから……本当だよ? 本当に、ほっぺにチューしちゃうよ?」


 ────え?

 それじゃまるで、あの夜、エミリアが見てたように聞こえて……


「あと、ごめんなさい。気付いたら、シンに向かって魔法を使っちゃって。……なんでかな? なんか……すごい、モヤモヤしたの。頭、痛くなかった?」


 魔法? 頭……? 何か……何かが…………


「…………っ!!」


 そうだ!!

 全部思い出した!

 あの時、理性が崩壊するその直前、頭に氷塊が勢い良く当たって、それで俺は気を失ったんだ!!

 よく覚えてる……怒ったような表情のエミリアが、こっちに手を向けていたことを……二発目を撃とうとして、紫苑に止められていたことを……。

 じゃあ、俺は……


「…………えいっ!!」


 可愛らしい掛け声が聞こえたかと思うと、突然、世界が明るくなった。

 そして、エミリアとバッチリ目が合った。


「…………おはようございます」

「お、おはようございます…………あの、もしかしてシン…………」

「…………」


 俺が答えないでいると、


「…………っ!! さ、さっきのは忘れてください……っ!!」


 剥ぎ取ったかけ布団で、身体と真っ赤になった顔を隠して、エミリアがか細い声でそんなことを言ってきたので……少し悪戯心が湧いた。


「今から二度寝するから、悪戯していいよ?」

「っ!!」


 そう、俺が笑顔で言ってあげると。

 布団の端から目だけを恐る恐る出していたエミリアと目が合って、


「ううぅぅぅぅぅ!!」


 羞恥心が限界突破したのか、エミリアは布団の中にすっぽり隠れてミノムシになってしまった。


結果、シンは何もやってない。

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