四十八話:彼の責任
か、書きにくい……!!
こういうシーンは苦手……!!
四つん這いになって舌舐めずりをしながら、俺の動きをジッと見るグラム。月明かりに照らされた身体は、少しだけ汗ばんでいる。
さすが本家だ。精霊の力で猫耳を生やした雪風と違って、同じ女豹のポーズでも、こっちは逃げられるという気が全く起きない。
俺が逃げられないことをグラムも分かっているのか、獲物を弄ぶ獅子が如く、いつでも俺のことを襲えるのに襲おうとはしていない。
最後に見た時に比べて、グラムは獣に近くなっていた。それは、発情期だからか、それとも……。
「グラム、色々聞きたいことはあるが……これはなんだ?」
「見て分かるはずにゃ。……あ、それともグラムの口から言って欲しいのにゃ? ムフフ……シンもエッチなのにゃ」
「……そういうことで良いよ」
「……これは、夜這いにゃ。慢心は窮鼠に噛まれる原因にゃ。さっきシンに逃げられたのも、グラムの慢心にゃ」
反省しているように眉を寄せながら話すグラム。
その時、僅かに腰を落としたせいで胸が揺れた。悲しいかな男の性で、俺の目はグラムの顔からその下に向けられた。
それに気が付いたのか、グラムがニヤリと嬉しそうな笑みを浮かべる。
「にゃはっ♪シーン〜? どこを見てるのにゃぁ?」
楽しそうに、グラムがゆっくりと俺の方に近づいて来る。
四足歩行で一歩歩くたびにグラムの果実は左右に揺れ、俺の目は無理矢理引き付けられる。
これが万乳引力か……。
「はぁぁぁっ……、シンに見られてる……」
すぐ側まで寄ってきたグラムの口から熱い吐息が漏れ、撫でられた俺の太腿が総毛立つ。
「っ……、グ、グラム……。お前、なんかおかしいぞ? そ、そもそも、まだ発情期にはならないはずだろ?」
「…………そんなの、薬を使えばどうとでもなるにゃ。交尾できる期間が一年に一回しかないなんて、すぐに滅ぶのにゃ。そんなことより……」
「んっ……!!」
グラムが赤い舌を俺の身体に伸ばしてきたのを見て、俺は咄嗟にバックステップでそれを避けた。
だが……
「舐めて欲しいんじゃないのにゃ?」
俊敏な動きで飛びかかってきたグラムに、俺は簡単に組み敷かれてしまう。
首を傾げているグラムの裸身が月明かりの下に照らされ、俺は彼女の胸を伝った汗の滴がピチョンと垂れるのを見てしまう。
顔がカァッと熱くなるのを感じた。
「我慢しなくて良いのにゃ。理性なんて忘れて、グラムと一緒に獣になるのにゃ」
ふふふ、と柔らかい妖艶な微笑みを浮かべて、グラムは静かに俺の身体を撫でてくる。
その絶妙な力加減に思わず吐息を漏らすと、笑みを深くしたグラムは、
「にゃーん、にゃーん♡」
甘えた声を出しながら、俺の胸に頬擦りをしてきた。
「なっ……おい、グラム!?」
「マーキングにゃ。シンはグラムのもの……。それを、みんなに分からせるのにゃ。にゃぁ〜」
「マーキングって……」
変な気持ちが湧き上がってきて、さすがに抵抗しようとしたが、その瞬間、グラムの潤んだ瞳と目が合って、出かかった言葉も引っ込んでいく。
「シンはグラムの尻尾を掴んだにゃ。でも、多分シンはその責任の大きさが分かってないにゃ。だから…………シンにも分かるよう、責任の種類を変えるのにゃ」
「それが……夜這いってことかよ……」
「そういうことにゃ」
今ではもう、密着しているのは頭だけではなかった。
グラムの温かく柔らかな身体が、俺の肌と重なり合っている。俺の首筋から垂れた汗が、俺たちの間で潰れた胸の谷間に吸い込まれて行った。
肌と肌が触れた場所がジンジンと熱くなって、身体中の血液が興奮にはしゃぐ。
気付けば俺は、自分の手をゆっくりと動かしていた。
「あっ……シン…………」
俺がグラムの肩に触れると、グラムはちょっとだけ恥ずかしそうにしながらも、胸に顎を押し付けて上目遣いに微笑んできた。
責任を分かりやすくする、相手の価値観に合わせる、実に分かりやすい。俺も好きな考えだ。
だから、だから……
「グラムをめちゃくちゃにして……シンだけの雌猫にして欲しいにゃ♡」
グラムがそんなことを言ってきた瞬間、俺は自分の中の何かが弾けたような気がして、
「グラム……っ!」
「シンっ……!!」
グラムの身体を強く抱き締め、耳元に口を寄せた。
発情期のグラムは一度ブルリと身体を大きく震わせると、さらに自分から俺に身を寄せてきて……俺に全てを預けて……
「ごめんグラム、やっぱりおかしいと思うんだ」
「え…………?」
責任を分かりやすくする、それは理解できるのだが、やっぱり何かが引っかかる。
突然すぎるのだ。薬を使ってまで夜這いをするなど、これまでのグラムには考えられない。
というかそもそも、グラムは族長になりたいのではなかったか。ならば、夜這いなどではなく、もっと他にするべきことがあるのではないか。
だから……まずは、行方不明になっていた間、グラムが何をして、どんな心変わりがあったのか、それをハッキリさせなければ……
「俺は、お前の気持ちには応えられない」
「なん、で……」
俺がそうキッパリ告げると、グラムはイヤイヤと顔を振った。
唇をわななかせ呆然とするグラムに心が痛んだが、俺は決してグラムから目を逸らさない。
彼女の目を見続けると、グラムはか細い声で言ってきた。
「やっぱり、グラムが弱いからにゃ? それならグラムは……!!」
「違う!」
「…………っ!!」
「違うに決まってるだろ、そんなこと。なぁ、聞かせてくれ。お前は…………」
俺が若干の怒気を含みながらそう言いかけたその瞬間、
「お姉ちゃんの声…………?」
扉が、ゆっくりと開かれた。
大変なことになりそうな予感……




