四十五話:グラム〈2〉
話数間違えてるの多いな……気を付けます
「あー、クラスブリードだー」
「弱いのに外歩いて大丈夫なのー?」
「家の中でお母さんのおっぱいでも吸ってたらー?」
「あ、ごめーん、お母さんいないんだったねー」
何かあって、どうしようもなくムシャクシャした時、グラムは大森林の中に入って獣を狩る。
そしてそれは、グラムを揶揄う人間がいなくなった後も、鍛錬の一つとして続いていた。
「三十三匹目……にゃ。三十四匹発見にゃ……」
成長して十歳となったグラムは、既に大人顔負けの実力者になっていた。
師匠であるシャルガフはアニルレイを去り、孤児院の園長であるクロウはシャルガフについて行った。
それでもグラムは、自身の成長を止めることはない。
彼らの言い残したことをしっかりと守り、今日もまた鍛錬に励んでいた。
「魔力が身体を押し固めるのを意識して……鋭く、力強く突き出すにゃ……」
身体強化によって強化された拳は、魔狼の身体に当たる直前で寸止め。だがその拳圧だけで魔狼は吹き飛ばされた。
昔は思い出した時に語尾に付けていた『にゃ』も、今では自然に使えるようになっていた。
シャルガフの読み通り、今のグラムは昔のような、付き合いにくい無愛想な子ではなくなってきていた。
「シャルガフはすごいにゃ。半獣への差別を完全になくした……。だから次は……弟子である私の番にゃ」
澄んだ瞳に決意の灯火を灯し、軽い裂帛の気合いと共に足が高く突き出された。
犬系族長シャルガフと鳥系族長クロウの引退から、最近は次々と族長が交代している。
最近ではラムとかいう獣人にしては小柄な若い女性が、新しく猫系獣人の族長に就任していた。
次は自分が……若いグラムが、そう考えるのも仕方のないことだろう。
♢
「グラムお姉ちゃん……これから、どうするの……?」
「家が……みんなの家が……」
「うわぁぁぁぁん!! キヨお兄ちゃぁぁん! ミミお姉ちゃぁぁぁん!!」
グラムが十三歳の時、孤児院が燃えた。
犯人は極端にクロスブリードを嫌っており、クロスブリードの子供たちが集まる北の孤児院を狙ったのだ。
だが、そんなことはグラムたちにとってはどうでも良かった。
最後まで皆を逃し続けてたせいで火に飲み込まれた兄と姉は、もう二度と帰ってくることがなかった。
突然無くなった自分たちの我が家。
大火傷を負って、その後死んでしまった子供もいた。
男の子の多くは、家族の食い扶持のために自分からアニルレイを出て行き、音信不通に。
「なんで…………なんで……」
なんで自分たちがこんな目に遭わなきゃいけない。自分たちが何かしたのか? それとも、自分たちがクロスブリードだから?
そんな疑問が、グラムの頭を駆け巡る。
だが、グラムに嘆いている暇はなかったのだ。
生き残った子供たちが、肌寒い夜空の下、グラムにしがみ付いて、恐怖にプルプルと震えながら眠っているのだ。
「私が…………グラムが、今は一番年上……なら……」
やるしかない。
自分が、妹たちを引っ張って行くしかないのだ。
夜が明けて、不思議そうな顔をする生き残った家族に、グラムは高らかに宣言した。
「グラムは族長になるのにゃ! そしてクロスブリードへの差別をなくす! それがグラムの夢にゃ!」
「「「「…………」」」」
顔を見合わせる妹たち。
だが突然、一人の女の子が、目の端に涙を浮かべながら立ち上がった。
そして、嗚咽の混じった声で、こう宣言した。
「私も……お花屋さんになりたい……。街を沢山の花で飾って……昔の、綺麗な孤児院みたいにしたい……」
「俺も……」
「ボクも……」
「私も……」
次々と、自分の夢を語り出す子供たち。
「さぁおまいら! 今から新しい孤児院を作るのにゃ! 目指すは真理の樹! 族長たちに直談判にゃぁぁ!!」
「「「「おーー!!」」」」
♢
十五歳になったグラムは、昔とは大きく変わっていた。
今のグラムをシャルガフが見れば、彼はどう思うのだろう。今度は慎みが足りないと言い出すのか、それとも満足そうに頷くのか。
「ちょっと待つのにゃ! そこは危ないから……にゃぁ!? せ、セーフ……」
「グラム姉ちゃんすげー! 花瓶が割れなかった!!」
「ニャハハ! グラム様を崇め称えるが良いのにゃ! って言うと思ったか! 危ないことした子には説教にゃ!」
「やべぇ! 姉ちゃんキレた! 逃げろぉぉ!」
「待つのにゃぁぁぁ!!」
朝から騒がしい声が、沢山の花で彩られた孤児院からアニルレイの街に響き渡る。
もちろん、現実にはそんなことあり得ないのだが、孤児院の近くに住むクロスブリードたちは、実際にそう思ったのだ。
自分たちには無理かも知れないが、この子供たちの声は、いつか、アニルレイ全体に響くことになる。
この子供たちが、いつか獣人の子供たちと手を取り合ってくれる日が来る。
そう、確かに幻視したのだ。
「皆、話があるのにゃ」
「…………?」
「どうしたの、姉ちゃん?」
「お話? グラムお姉ちゃん」
「どうしたんですか?」
初めは、ただ一人のクロスブリードが、虎なのに犬系族長という変人に目を付けられただけだった。
獣化できない、落ちこぼれ。獣人の成り損ない。
そんな風に言われるだけのクロスブリードは、鍛錬を積み重ね、辛い過去を経験し、
そして……………………
「グラムは、王都に行くのにゃ!!」
魔術学院に、入学することになる。




