四十二話:仲良し
「「ただいまー」」
マリンちゃんと手を繋ぎ旅館にかえってくると、
「あ、お帰りなさい二人とも。……あれ? 随分と仲良くなったんだね? どうかしたの?」
ロビーで待ってくれていたのか、エミリアが出迎えてくれた。
俺たちを見て、不思議そうに首を傾げている。
「そうか? ちょっと遊んでただけだよ」
「本当は秘密の場所なんだけど、お兄ちゃんなら良いと思って。お兄ちゃんすごいんだよ! 手から急に鳥が出てきたり、マリンが選んだカードを当てたり!!」
「ふふ、良かったねマリンちゃん。と、そうだ、マリンちゃん。これ……食べる? シオンお姉ちゃんが買ってきたの」
そう言ってエミリアは、テーブルの上のデザートを指差した。あの日紫苑が食べてたやつだな。クレープみたいなの。
俺たちが帰ってくるまで置いていたはずなのに、冷たいまま……エミリア、また時間止めたのかよ……。まぁ、これくらいはいつもやっているし許してやるか。
「これ? んー、マリンも初めて見た……。うんっ! 食べる!」
「シオンお姉ちゃんに後でお礼を言うんだよ〜?」
ロビーのソファに勢いよく座ったマリンちゃんは、大きくデザートにかぶりつく。
それを微笑ましい気持ちで眺めていると、エミリアがチョンチョンと俺の腕を突っついてきた。
「それで、どうだったの? マリンちゃんは……」
「ああ、大丈夫だよ。心配しなくていい」
「そっか……うん、ありがとうシン。……えらいですよーって、えへへ……頭なでなでしてみちゃった」
「お、おう……」
エミリアがよしよしと俺の頭を撫でてくれた。
あ、あれ……? なんか顔が熱いな? しまった、水遊びしすぎて熱でも出たのか。
「? お兄ちゃん、顔真っ赤だよ。どうしたの?」
「へ!? や、べ、別になんでもないぞ!?」
「も、もしかして照れてるの……!?」
「ち、違う! これは何かの間違いだ! だからそんな嬉しそうな顔をするな!」
「えへへ〜照れちゃって〜」
「お兄ちゃんかーわいー」
「〜〜〜〜!!」
ニマニマするませた子供と、照れ臭そうに俺を揶揄うエミリア。
く、屈辱だ……!!
「な、ならエミリアは照れないのかよ!」
「へ!? そ、それは……ってきゃぁ!」
やられっぱなしは性に合わない。
俺はエミリアの頭に手を置いて、滑らかな銀色の髪をゆっくりと毛の流れに沿って撫で付ける。
するとエミリアは気持ち良さそうに目を細めて、
「ふあ……こ、これは……き、気持ちいいかも……」
「エミリアだって顔真っ赤じゃねえか」
「!? や、これは……ち、違うの……あ、頭撫でてもらえて嬉しいとかじゃなくて……あうう……今度こそシンに勝ったと思ったのにぃ……」
「フハハ、俺に勝つにはまだまだだな」
「むぅ……そんなこと言ってると、いつかいっぱい仕返ししますからね」
「フハハ、望むところだ」
「ひゃん! み、耳は反則だよ……」
プクゥと頬を膨らませていたエミリアだったが、俺が頭を撫でる手で耳を触ると、途端に可愛らしい声を上げた。
俺が触れている耳とは反対側の髪をいじりながら、恥ずかしいのを我慢するエミリア。
その姿が可愛らしくて、俺は思わず笑ってしまった。
「…………仲良いなぁ……これはお姉ちゃん、相当頑張らないと厳しいかも。……ねぇ、お兄ちゃん、エミリアお姉ちゃん、みんな見てるよ?」
「へ?」
「え、え?」
いつの間にかデザートを食べ終えていたのか、両手で頬杖をついて鑑賞モードに入っていたマリンちゃんが、ロビーの奥を指差した。
俺とエミリアが恐る恐るそちらを見てみると……
「「「「どうぞごゆっくり」」」」
廊下の角から、紫苑たちが上下一列に顔を出してこちらをじっと見ていた。
その中にはキラ先生まで入っていて、何やらニヤニヤとしていた。




