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四十一話:雑種

 

「雑種……?」

「はい、雑種、もしくはクロスブリード。言えば差別用語です」

「さべっ……!!」


 少女はなんの気負いもなく、さも簡単なことのように言った。

 だが、俺たちはそう簡単に受け入れられない。ここの子たちは幸せそうで、それがまさか差別を受けている子供たちには到底見えなかったからだ。


「差別と言っても、街を歩けば石を投げられるような……かつての半獣が受けていたような差別とは別です」


 だが、差別について話す今の彼女は、さっきまで「私の身体を捧げるから〜」と、いまいちよく分からないことをほざいていた少女とは思えない程大人びていた。

 俺たちよりも、小さな少女が。


「クロスブリードは、種族として下なのではありません。私たちは、獣人でありながら戦闘能力を持たない生物だと考えられているのです」

「それってつまり…………弱い獣人ってこと?」

「……はい。私たちは獣人は力こそ正義。ですから、力ないものには生きる道がありません。そんな私たちが一か所に集まって形成されたのが……ここ、北区域です」


 その時、俺はふとグラムの言葉を思い出した。

 グラムの『北へは行くな』という言葉、あれはつまり、自分が差別を受けていたことを知られたくなかったのではないか。


「でも……この子供たちはどうなの? なんで親がいないの?」

「……捨てられた」

「紫苑?」

「子供たちはただ『弱い』という理由で親に捨てられた……違いまするか?」

「大体合っています。ですが……『弱い』というと語弊がありますね。クロスブリードが生きるには、北区域が一番効率が良いんです。普通の子からのいじめもなければ、先輩も沢山いますから」


 それで捨てる親もどうかと思うが……いや、苦渋の決断なんだろうな。

 自分たちが育てることで子供が辛い思いをするくらいなら、いっそ専門的な場所に預けた方がいい。

 獣人族の特有な実力主義のせいか……


「マリンちゃんが約束をすっぽかされたのも……」

「そっか……そういうことだったんだね……」

「じゃああの時、グラムは妹がどんな目に遭っているかを正確に理解していたのです……?」


 夜に泣いていたのも、もしかして……。

 族長になりたいというのは……まさか……。


 ……いや、もう『まさか』とかの話じゃない。ほぼ確定だろう。

 グラムは自分が実力で族長になることで、クロスブリードは弱いという固定観念を覆そうとしているのだ。

 それは妹のためか、妹()()のためか……まあ、両方だろうけど。


「じゃあ、俺が言ったアドバイスって……」


 俺は昔を思い出して、頭が痛くなってきた。

 グラムが、もし俺の予想どおりの理由で族長になりたいのだとすれば……。


 グラム個人の強さではなく、クロスブリードとしての強さで、族長として認められる必要があるのだ。


 仲間はグラムの強さであって、クロスブリードとしての強さじゃない。

 グラムの言うような純粋な戦闘能力でしか、クロスブリードでもここまで強くなれるのだと示すことはできない。


 だとすれば、解決していたつもりのグラムの悩みは…………


「……マリンちゃんは、グラムがいなくなったのは自分のせいだって言ってたよな?」

「え? う、うん……でも、どうしたの?」

「ちょっと、自己嫌悪に陥っててな。もうこの際洗いざらい吐かせようかと」


 キョトンと尋ねてくるエミリア。

 俺はそれに答えながら、踵でトントンと床を叩いて、靴の調子を確かめる。


「「…………っ!!」」


 その瞬間、雪風と紫苑に緊張が走った。

 少し遅れてエミリアも俺が言っていることを理解したのか、表情が険しくなる。


「俺一人で行く。今この街は…………」


 言葉を切ってエミリアを見た俺は、一つ溜息をついて、


「正神教徒幹部が一人いる。グラムなら相性が良いから勝てると思うが……心配だ。みんなが居ると……多分、マリンちゃんは話してくれない気がするから」


 怒るかな?

 俺は恐る恐る三人を見るが……


「そういうことなら、分かりました。マリンちゃんは一番シンに懐いているし、それに、悩みを相談する相手は少ない方が良いからね。でも……ううん、なんでもない」

「エミリア殿…………。シン殿、やはり、全員で情報を共有しましょう。無論、マリン殿に話を聞いてから」

「ああ…………そのつもりだ……。約束破っちゃったことも、謝んないといけないしな」


 エミリアも紫苑も、反対はないようだった。もちろん、雪風も。

 だが、やっぱりエミリアは、正神教徒の情報が自分一人だけ伝えられていなかったことに対して不満そうな表情をしていた。


「教えて……くれるの?」

「ああ。今度こそ、な」

「そっか……うん、ありがと」


 戦いに行くわけじゃない、エミリアは笑顔で送り出してくれた。


「紫苑、雪風、後は頼んだからな」

「了解でござる」

「…………です」


 物理タイプの二人がいれば、エミリアも安全だろう。

 俺は一度ムムちゃんの頭を撫でてから、〈飛翔〉でアニルレイの中心へと飛行した。

 

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