四十話:北
とりあえず子供たち(と紫苑たち)には一回落ち着いてもらって、俺たちは話を切り出した。
「なぁみんな、マリンって子は知らないかな?」
「マリン? 知ってるよ!」
ビンゴ。
やっぱり予想通りだ。
俺たちは顔を見合わせ、頷き合う。
「あ、でもでも、マリン姉ちゃんは今いないんじゃなかったっけ?」
「マリン姉ちゃん……て待て少年。今はいない? さっきまでいたのか?」
「えーと……」
「……いた、よ……? で、も……族長さん、に……連れて、行かれちゃった……」
少年の後を、俺の右膝の上に座る犬系獣人の少女が引き継いだ。
何故か分からないが、俺はこの子、ムムちゃんに気に入られたらしい。
さっきから膝の上に乗って密着してきており、さらには俺に耳を触らせてくれるほどの懐きようだ。
狼少女なのに素直なんだな。
ちなみに女の子で俺に一番懐いてくれたのは、あの被害妄想の激しい長女を除けば、この子くらいだったりする。
アーサーの方がイケメンだし放ってるオーラも違うもんなー仕方ないよなー。
良いもんこの子だけで。俺から片時も離れないし。もうこの子をお持ち帰りしたいです。
「族長って……どの族長?」
「えと……ラム、さん……」
「ラムさんがマリンちゃんを……?」
グラムが行きそうな所を聞いたりしているのか?
タイミングが悪かったな。昼間どんなことしてるか見ようと思っていたんだけどな……。
「にぃには……マリン、ねぇを……探して、るの……?」
「え? あ、うん。マリンちゃんが普段どんなことしてるか、少し気になってさ」
「マリン姉ちゃんなら、いつも昼間きて遊んでくれるんだ! マリン姉ちゃん、手から火をボォーッて出せるんだよ!!」
「っ!!?」
そ、それって魔法じゃねえか……。
獣人の中で魔法を使う奴は珍しい、マリンちゃんはどこで魔法を学んだんだ……?
獣人にしては魔力が身体に馴染んでいると思ったけど……魔法が使えたのか。まあ、だからなんだと言う話ではあるけど。
その後俺たちは、何故グラムが突然居なくなったなかの理由を探るためにも、別室に移動し、一番歳上の彼女に話を聞いていた。
ちなみにアーサーは来ていない。子供たちが途中で乱入してこないように、みんなの相手をしてもらっている。
ちなみに、俺の右隣にはムムちゃんが座っており、俺の腕をギュッとコアラのように抱いている。
頑なに離れようとしなかったので、もうそのまま連れてきたのだ。
「ここは……とある事情で捨てられた子たちが集まる孤児院なんです。クロウという鳥系獣人の方が、長年園長を務めていたんですよ」
「クロウ……?」
雪風が、訝しげに眉を潜めた。
「でも、そのクロウさんは見当たらないけど……」
「……数年前に、当時犬系族長だったシャルガフさんと何処かへ行ってしまいましてね」
「シャルガフが……犬系の族長?」
「知ってるのか?」
「…………いや、知らないのです」
一瞬躊躇って、雪風は首を横に振った。
まあ、名前が同じ人なんか沢山いるしな。
「シャルガフとクロウなら、私聞いたことあるよ?」
「知っているのです!?」
「う、うん……。雪風ちゃんがシンを、その……狙っていた時、商店街でそんな名前の人たちがいた気がする。確か……三人組だった」
クロウさんとシャルガフさんが一緒にアニルレイを出たとして……あと一人は誰だ?
「えと……確か名前は…………咲耶?」
「咲耶……天照国の人か」
「うん、黒髪黒目だったよ」
「世間とは狭いものでござるなぁ……」
元族長とグラムの育ての親が、過去にエミリアと会っていた……。
いやそもそも、もしかしてグラムが族長になろうとしているのって……。
「そうですか……クロウさんもシャルガフさんも元気なんですか……。それは、良かったです……」
「しかし経営者がいないとなれば、資金が厳しいのでは? そこら辺は大丈夫なのでござる?」
「大丈夫かどうかを言われたら……大丈夫です。だってここ、北の孤児院に集められた子たちは…………獣化できない、雑種ですから」




