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十一話:追加試験は片手間に

 

「シン、こっちこっち!」


 前からエミリアが俺を急かす。

 その顔には焦りも感じるが、それ以上にどこかこの空気を楽しんで……って、今はそんなこと言ってる場合じゃなかったか。

 俺は隣の人物と目配せして、走る速度を上げた。


「落ち着けってエミリア。前見て走らないと転ぶぞ?」

「は、走るのは良いんですか……。普通、走ると転ぶと言うべきでは……?」

「先輩……エミリアに走るなと言っても無駄です」

「え、いや全然そんなことはないと思いますが。というかむしろ、シンに言われれば恐らくやめると思いますが……」

「あー、本当の理由はですね。前見て走らないことにちょっとトラウマがありまして……」

「成る程、それで実際のところは?」

「はい、本当は……ってえ!? いやいや! 何ナチュラルに嘘だと断定してるんですか! これは本当に本当ですよ! 俺の信じる女神に誓えます!」


 ああ、俺の信じる女神、つまり師匠に誓ってこれは本当です! 

 勿論、トラウマとは、前を見ずに走ったせいで崖から落ちたあの記憶のことだ。あの時は師匠がいたから俺は助かったものの……ん、これってつまり師匠と出会えた切っ掛けとも言えるのか? あら、もしかして良い思い出かしら?


 ……ふむふむ、あ、いやちょっと待て、そうなると話が変わってくるな。トラウマって、どこからがトラウマなんだ? 少し、というか結構いや〜な思い出がある程度では、もしかしなくともトラウマ認定されないのでは!?


「……やっぱ国王に誓います」


 王国民、特に二十五番隊に属している俺のような、王国軍の軍人にとっては最大レベルだろうが、うん、俺にとっては実質ゼロに近いかな。

 え、だって軍人と王族って敵対するものでしょ?

 エミリアの父親ライゼン・ハンゲルよ。当然のように君は師匠よりも低いのだよ。というか、俺が誓う相手の中では一番低いまであるよ、国王なのに。

 あ、ちなみに、師匠へ誓うのを百としたら、二番目の人は誓うのは三くらいの重大さだから。

 うん、二番目以降はどんぐりの背比べだな。良かったですね! 王様!


「その()に一体何を考えていたのかは気になりますが……そんなことより彼女は良いのですか?」

「彼女?」


 俺の信じる女神(師匠)の生まれ変わりとも言うべきレイ先輩が、意味ありげに前を走るエミリアを指し示すと……


「…………」


 彼女は黙って、グラウンドに六つ立てられた大きな掲示板のうち一つ、Fクラスの掲示板を眺めていた。


 この学院のクラス発表は、広いグラウンドを駆け巡らないと自分のクラスは分からない仕組みなのだ。だから、一番最初の掲示板で見つけた人は良いが、気付かなかった時は……とても悲惨なことになる。ええ、とても……悲惨なことに。

 このシステム……様々な種族に合わせて、誰でも見やすいようにしたんだろうけど、ちょっと頭悪いと思うんだよ。

 伝統にしがみついている感じがして、そういう姿勢自体に好感は持てても、実際自分が被害を受けるとなると、学院長を校舎裏に呼びかねない事態になってしまう。

 怪奇! 超名門魔術学院学院長が謎の死を! まさかまさかの遺産の呪いか! とか銘打って翌日あたりに報道……もとい新聞の一面に載ってそうだ。

 と、冗談はさておき……。


「おかしいところ……」


 ……Fクラスから確認して行こうとレイ先輩が言ったこと以外に、特におかしな点はないよな?

 レイ先輩なら、「どうせ、Aクラスなんでしょうからさっさと確認して教室の席を確保しといた方が良いですよ?」とか言いそうだったが……Fクラスから見ることに何か理由があるのだろうか。

 デート、これはデートなのか!?(錯乱)


「ん、んんっ……せ、先輩以外に何かおかしなことでも?」

「…………き、気付かないんですか。少し、彼女の顔を動きをよく見てください。……先輩が付き添うのはおかしい事くらい、私も分かってますよ……」

「先輩?」

「な、なんでもありません! いいからその無駄に高くて肝心な所で全く役に立たない観察力を使って見てください!」

「うわ、泣きそう……」 


 なんかボロクソに言われて目の端から無色透明な液体が溢れそうになったが(これは汗である)、堪えてエミリアの方を見る。

 するとそこには……


「…………」


 ひたすら無言に、自分達の名前がないかを探しているエミリアの姿が。

 ……あ、確認終わった。

 …………そして!! 二回目の確認が終わった。

 ……三回…………四回……。


「って、いやいや、何回確認すんの!? 多くても二回で十分だよね!?」


 そうこうしているうちに四回目が終わって……ご、五回目、だと……!?


「……あ、どうしたの、シン? その……結果ならここにはありませんでした!」


 俺の視線に気付いたエミリアが、ピシッと敬礼をしながら答える。

 可愛い。可愛いのだが、王女にこんなことさせて果たして俺の立場は大丈夫なのかという心配が……っ。

 そして、五回も確認を……!


 ……………………。


「エミリア、こっちに来い」

「シン?」

「速く!」


 突然大声をあげた俺に、エミリアがビクッと怯えた様子で立ち竦んでしまう。

 ああ、いけない。もっと良い言い方はなかったかのか。

 そう自分を責めたくなるが、自責している時間などない。


「くっ! エミリア様!」


 周囲には誰もいないが、一応敬語を使う。

 身体強化の魔法を使用し、Fクラス生徒の名簿が載っている掲示板へ急いで向かう。

 俺は決して足が速いわけでもないし、身体強化だって人並みのものだが、流石にこの距離。嫌な予感の正体が現れる前にエミリアの元へたどり着く。


「しっかり捕まれよ、エミリア」

「…………!」


 エミリアを抱き抱えると、すぐにその場から離脱。

 その光景を遠巻きに見た生徒達が騒いでいるが、エミリアが王女であることはすぐにバレるだろうから気にしない気にしない。

 エミリアにだけ聞こえるように耳元で注意を促すと、エミリアの方からも、手が俺の背中に回され、ギュッとしがみついてくる。

 不覚にも、少しドキッとしてしまった。


『飛翔』


 それを確認した俺は、風魔法の中でも難易度の高いと言われている〈飛翔〉の魔法を使って、レイ先輩の所まで戻る。

 その時にチラリと見えたのは、人がやけに少ないグラウンドの中央。


「おかしい……」

「え?」


 エミリアがキョトンした声を上げる。


「生徒達が意図的に誘導されている。ほら、グラウンドの中央に誰もいないだろ? あ、端の方にボッチもいるけど、気にしちゃダメだよ?」


 ボッチとは、孤高の信念を持つ者。決して群れず、ただ望むは己が本懐を遂げることのみ。一族の悲願を、世代を超えたただ唯一の愛をここに……。


「シンが一番失礼だよ?」

「大丈夫。俺は彼らの先輩みたいなもんだから」


 師匠と別れてから、王宮の人達に王女の命の恩人として攫われるまで、山の中一人でサバイバルしてきた俺を舐めてはいけない。

 我こそ、孤高の信念を持つ者なり。


「ほんとだ、誰もいない……」


 エミリアと一緒に、掲示板の裏に回って直接見ても、やはり誰もいない。

 と言っても、ミステリー的な何かではなさそうだ。

 ただ、Aクラスの掲示板の前に人が密集しているせいか全体の人数が分かり難く…………人数?


「……エミリア、一年の生徒数は何人だったけ」

「もう、聞いてなかったの? 確か百三十五人だよ」

「百三十五……」


 Fクラスの掲示板の前に回り、もう一度Fクラスの人数を確認する。

 すると、そこには二十人の名前があった。


「やっぱり……」


 教室の大きさは全て同じで、クラス毎で人数が変わらないことは俺も知っている。

 すると、ここで一つおかしなことが。

 AからFの六クラスで、一クラス二十人なら、合計で百二十人のはずだ。だが、エミリアが言った数値は百三十五。十五人足りない。


「レイ先輩、これはどういうことで――」


 恐らく何かを知っている先輩に聞こうとしたが、結局その必要はなかった。


「魔法陣……? これは、召喚魔法か……?」


 グラウンドの中央に、いくつもの魔法陣が青白く浮かび上がる。

 即座になんの魔法陣か解析……それなりに準備されている、ただの召喚用の魔法陣だな。危険度はEくらい。無視していいレベルだ。

 この魔法陣。ここ数日……俺が寮に来てからは準備をしている様子も感じなかったから、恐らくこれは使い回しの魔法陣か? そうでなくとも、前々から企画されていたものだな。

 と、するとだ。これは毎年恒例と考えた方が良いだろう。そうなれば、危険度はかなり低い、というかもうゼロに近いだろう。

 何が召喚されるかは知らないが、生徒が死んでしまうような事態になれば、流石に王宮や山で籠っていた俺にも情報は入ってくるだろうからな。

 普通の生徒で死なないのなら、エミリアが危険に晒される道理もない。最早ここ(校庭)はエアコン付きシェルターと言っても過言じゃない。


「えっと……まさかとは思いますが、抜き打ち試験ですか? 実戦の技術を見る、的な」

「ふふ、正解です。あ、でもシンはダメですからね。シンが出れば一瞬で終わって、試験になりませんから。他にも、隔離されている人が居ますよね? 彼らも似たようなもので、彼らには特別な個体が用意されているんです。エミリアさんもそうです」

「確かに……。あれは、ボッチを心配した先輩が話しかけてる図ではなかったんですね。成る程、あれも教育係ですか……」


 すまない……。君達はボッチだと、俺の仲間だと思っていたよ……。本当にすまない……。

 考えてみれば、百三十五人に十三人のボッチが居ること自体。ちょっと確率的におかしいな。しかも、ボッチはボッチでも、クラスが発表されている時に、一人ポツンとしているくらいのボッチだ。

 人は皆、結局は孤独なのだと、二十五番隊の独身女性隊員Aは言っていたけど、それは少し違うので考えないものとしましょうね。

 まだ、二十代前半なのに……一体何があったんだ。


 と、そんなことを話している間に、魔法陣はその輝きを増していき……。


「わーお」

「――…………」


 魔物の大群じゃあーりませんか。

 昔俺が苦戦した例の狼もいれば、小鬼のような奴、つまりゴブリンや、スケルトンの狼版もいる。

 狼が多めの印象を受けるのは、多分俺の住んでいた山から持ってきた奴だろう。師匠の家があるような奥地だと、もっと強い、それこそベテラン冒険者のパーティーでもなければ討伐依頼を受けられないような奴もいるが、狼は山の中なら比較的どこにでも居た。

 食物連鎖とは何かを考えさせる奴だな、あいつらは。明らかに力量差が足りない敵でも、知恵を使って逆に狩っちまうんだから。


「スライム……」


 そして、その魔物の群れの中には、我らが青き彗星、スライムちゃんまでいた。


 真ん中にドーンと集まって塊になっている様は、さながらキングなアイツが完成する一歩手前の状態だ。

 スライムなのにあの風格。別にキングでもないのに、圧倒的なオーラを感じる。

 冗談抜きで、あのスライムが一番強い。いやマジで。

 そもそも、物理攻撃をほとんど無効化する時点で能力的には最強のスペックなんだよな。

 個体が小さいと魔物の核ごと切断できるから、一見すると物理攻撃も効く弱い魔物だけど、大きくなったらどうやって核を壊すんだって話だ。

 魔法攻撃無効とかの能力を得たら、多分スライムが世界を征服すると思う。俺もスライムになりたい。人間の姿に擬態しておけば、人間として子供を作り、人間として老い、人間として死ねるし。


「おい、スライムがいるぞ!」「アイツを狩れば終わりだ!」「いけ、狙撃だ。魔法で狙撃だ!」


 最初は戸惑っていた生徒達も、近くの先輩が説明をしたのか、魔物に攻撃を開始する……のだが、ちょっと待てよ……アイツらアホじゃねえのか!?

 距離が離れすぎているから、お前らが使ってる初級魔法だとほとんどダメージはないぞ? 多分、ヘイトを集めることにしかならないし……


「うお、なんで効かねえんだよ! スライムの癖に魔法が効かないのかよ!」「あ、悪魔だ……! 青い悪魔だ!」


 いや、お前らがアホなだけだから。

 そも、スライム相手に風魔法を使っている時点で、優しすぎるだろ。運良く当たってたとしても、液状の体を切り刻むだけなら意味はないぞ? 数秒後には元通りだ。

 一撃で仕留めるなら炎系統、これ冒険者界の常識な。ただ、魔物によっては素材が取れなくなるから注意が必要だけど。

 ちなみに、魔法生物研究界では氷結系統が常識だ。

 風系統を使う世界は……俺は知らないな。


「エミリアは、どれを狙うんだ?」

「シン、分かって言ってるよね……」


 エミリアに目を戻すと、エミリアは目の前の大鬼、体長二メートルを越すオーガと相対していた。

 見れば、他の孤立させられている生徒の前にも、同じくオーガが出現しているし、これは特別に用意された個体なんだろう。

 まあ、それでも強さはスライム程じゃないけどな。

 ただ、スライムは時にドラゴンをも倒すから、比較してはいけない。窮スライム竜を狩る、とかいう諺もあるくらいだし。


「大地を、空を、海を、全てを切り裂く不可視の刃。〈風刃〉」


 エミリアが詠唱をすると、背後から五つの風の刃が現れ、目の前のオーガを切り刻もうと襲いかかる。

 微かに帯びた魔力が見えるから不可視じゃないし、そもそも海や大地を切るほど威力ないけど、それでもオーガくらいなら傷付けることは容易い。

 オーガは、腕をクロスさせるようにして顔を守る。


「……エミリアさんの、勝ちですか」

「まだ勝負はついていない、と言いたいところですが、これは、覆せませんね」


 その後の未来に予想がついたのか、レイ先輩がホッと安堵の息を吐く。元々勝つだろうとは思っていたのだろうが、それでも心配は心配だったんだろう。

 結局、オーガは五つの風の刃を防いだ。

 エミリアの魔法は、擦り傷を負わせた程度。傷の具合を確認したオーガが、ニヤッと笑い……()()()()()()()()()()()()()


「詠唱ありと同時に、無詠唱の刃を同時に放つ。成る程、作戦としては面白いですね」

「すごいでしょ、あの子の魔法、俺が育てたんだぜ」

「ええ、本当に凄いです。あれは、シンが?」

「いや、エミリア独自の戦法です」


 理論的には可能。方法もシンプル。だが、その難易度は底知れない。同魔法をなんの準備もなしに同時展開すること自体、それなりに研鑽を積んだ魔法士でなければ出来ないというのに、僅かに魔力の濃さを変えた魔法を気付かれずな放つなど、一朝一夕にできるものじゃない。


「成る程…………シン?」


 オーガに近づき、断面を見る。

 鋭い切断だったおかげか、出血が少ない。皮は勿論腕以外は無傷だし、角は……まあ使役させているっぽかったらから、当然なように折られているけど、他は全部上質。

 オーガの皮は、硬くて伸びが悪いから鞭には使えないんだよなぁ。防具に使うとしても、俺達魔術師や魔法士にとっては邪魔でしかない。

 ……売るか。これくらいあれば、食器を買ってもなお余るくらいのお金は手に入る筈だ。エミリアに、調理器具を買ってやるのもいいな。


「エミリア、このオーガの死体、何かに使うか?」

「えっ? い、いや大丈夫だから!」

「そうか、分かった」


 取り敢えず、オーガの死体を魔物用の〈ストレージ〉に収納しとく。

 もう事後だけど、一応持っていっても構わないかレイ先輩に確認を取ると、溜息を吐きながらも許可してくれた。


「んで、先輩。これは結局なんなんです?」


 グラウンドの中央では、スライムを狙うより周りの雑魚を狙った方が効率が良いことに気付いたのか、快調に魔物の数が減っている。

 ただ、意地になってスライム一点狙いの奴は、魔力切れを起こして倒れているな。


「…………簡単に言えば、先程シンが言ったように追加試験です」

「して、その意義は?」

「…………最後のクラス決め、と言ったところでしょうか。十五人に余っていることに気付いたと思いますが、その十五人はSクラスに入ることになっています。ですが、あまりにも実戦が酷い場合、クラスを落とすこともあるので」

「では、何故最初からSクラスを発表しなかったんですか?」

「Sクラスの生徒が、準備をしないためですね。それと、他クラスの生徒がSクラスの生徒を頼らないためです。去年は、Sクラスのとある女子生徒が煽られた結果、召喚の魔法陣ごと破壊してしまって……」


 どこか遠い目をしながらレイ先輩が言う。

 スライムしか残っていないせいで、見えるようになった魔法陣に目を戻すと、確かに新品だ。

 成る程、ジーク教頭はさぞ苦労したんだろう。


「そんな、魔法陣ごと壊すような人もいるんですね……」

「それ、シンが言っちゃダメなことだと思う」

「心外だな。俺は魔法陣を壊すなんてことはしない。むしろ乗っ取るタイプだ」

「いや、むしろその方が酷いですからね? あと、公機関の魔法陣制御掌握は普通に犯罪ですからね?」


 そ、そうだっのか……。

 二十五番隊兵舎の空調用魔法陣を改良したんだけど……まさかそれも不味かったか? ま、まあ、いざとなれば逃げればいいよな!

 二十五番隊の皆は追ってこない……いや、多分満面の笑みで凶器を振りかざして来るわ。うん、やっぱり後で一応王様に確認取っとこ……。


「あ、そ、そういえばレイ先輩! 私達の試験結果はどうでしたか?」

「そ、そうだ。それを聞かなきゃいけなかったな。どうでしたか? 俺、何もやってませんが。俺、何もやってませんが」

「何故二回……勿論合格ですよ。あれはあくまで、理論だけ出来る人を炙り出すためのものですから。一人で倒せていれば、何も問題はありません。シンは私との一対一が試験扱いなので、元々合格してます」


 そ、そうなのか……。こう、何もないと、じゃあ何故やったんだって感情が、さ……。いや、実施した理由は分かってるんだけど、釈然としないっていうか。元々合格なら、何故俺はグラウンドを歩かされたのか、とか、色々思うんだよ。

 自業自得だけどさ、俺、朝に水被って町内を走ったんだよ? 少し体力を回復させたかった気持ちもあるんだよ。まあ、どっちにしろエミリアに着いて行ったけど。


「えっ、それじゃあ、私もシンも()()S()()()!?」

「はい、そうなります」

「――た……」

「へ?」


 腕をプルプル、力を溜めてぇ……


「やったー!!!」


 バンザーイ。

 ……………………いや、ちょっと待て。

 一人だけ合格発表してる子がいるぞ。俺の目の前に。


「エ、エミリア? 少し落ち着け?」

「あ、ご、ごめん。嬉しくって……。シ、シンも嬉しい?」


 俺の手を取って、ピョンピョン飛び跳ねる。

 ああ、ヤバい。心の汚れたおらに対して、そんな仔兎になったエミリアなんて、最早日光を浴びた吸血鬼になっちまうべ。


「まあ、Sクラスだもんな。喜びたいのは、分かる」

「……え?」


 エミリアの笑顔が固まった。

 固まる前は、残しておきたいこの笑顔、だっだ筈なのに、何故だろう。背筋に悪寒が走ったのは。


「エミリア?」

「あ、ちょ、ちょっと顔の筋肉が何処かに行っていただけだから大丈夫!」

「だから、全然大丈夫じゃない!?」


 が、すぐにいつも通りのエミリアに戻って、俺の手を引いて「ほら、早く教室に行こ?」と、可愛らしく首を傾げている。

 さっきのは、気のせいか……?

 うん、まあ。蒸し返す必要はないし、そんな勇気もない。

 エミリアに引かれて、歩き出すと……。


「ちょ、エミリア。手を繋いで歩くのも不味いのに、腕に抱き着くのは色々と勘違いされるって!」

「? 私は別に構わないけど……それに、誰も見てないよ?」


 ……………………。


 まあ、目の前の戦闘に夢中で誰も見てませんよね。


本当は、クラスへ向かった後(クラスメイト登場)まで書くつもりだったのですが……意外に文量が多くなったので分割します。すみません…。


スライムに文字を使い過ぎなのでは?と思ってはいけない。


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― 新着の感想 ―
[一言] 中々良い小説だと思います! しかし、ここまでわざと主人公さんを鈍くさせる展開の連続は個人的として好きじゃないかも。。。
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