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二十七話:モフモフいかが?

三章は今までで一番長い章になると思います。

 

「…………モフモフ屋……」


 俺は今、静かな衝撃を受けていた。

 街を探索するうちに、気付けば大人のお店が立ち並ぶ通りに迷い込んだしまった俺。

 すぐにUターンしようと思ったのだが、考えてみれば今は昼間だ。

 露骨な勧誘もされないだろうから、食わず嫌いせずに店を見て行こうと思ったのが、大体十分くらい前の俺。


 ここでしか買えない特別な自白用アイテムとか、携帯できるお手軽拷問道具とかがあるかも知れないからな?

 王都にある信頼と実績のお店が数と種類だとすれば、ここアニルレイにあるのは市場に出回らない秘蔵の品々。

 もしかしたら、対処法が出回っていない物と出会えるかも知れない。


 さらに言えば、武闘会の決勝戦のせいで、俺はかなり目立った。『王女の護衛の正体が判明!』などと銘打って、大きく宣伝までされた。

 そんな俺は、もう迂闊に王都のお店に行けないんだよなぁ……。エミリアと()()()()関係だと誤解されるのは避けるべきだし。


「モフモフ屋…………」


 だからこの機会に大量買いするかと意気込んだのだが……昼間に開店準備をしている独特の空気の中、俺はこの素晴らしいお店を見つけてしまった。


「モフモフ……」


 そう、()()()()


 この世界において獣人の尻尾を触ることは、伴侶にしか許されないことなのだ。

 たとえ家族でも、兄と妹、姉と弟、父と娘、母と息子などと性別が違えば、触らせることは道徳的にいけないことだとされている。

 尻尾を撫でるなど、夜ベッドの上でしか許されない。


 それはつまり…………簡単に()()()()()()()()ということだ。


 異世界だぞ!? 異世界に来てモフモフできないとかっ……、何のためのケモミミシッポなんだよチクショウ!!


 獣人の頭をナデナデしたい、尻尾に頬擦りしたい。

 そんなモフモフ成分が足りなくなった俺の目の前に、モフモフ屋という看板を掲げた店が現れたのだ。

 長い間タバコを吸わずにいたタバコ中毒者の家の隣に、世界一美味しいタバコを売るお店ができたようなものだ。

 俺は当然タバコなんて吸わないから知らないけど、きっとそれは甘美で悪魔の誘惑なのだろう。


 そして、彼らはきっとこう思うだろう。


 ────これはもう、神の啓示に他ならない。と。


「価値観の違いだ……。獣人にとってはいかがわしいお店でも、俺たち人間にとっては普通……ではないかも知れないけど、一般的なお店……」


 エミリアたちは許してくれるか。それが、店に足を踏み入れるために乗り越えなければいけない最後の壁だった。

 これがもし、女性の身体がやり取りされるようなお店であれば、確実に彼女らは怒る。

 

「だがこれは……っっ!!」


 獣人の耳や尻尾を触るだけで、エッチなことはしない。

 お店側が尻尾をモフモフする機会を提供しているのだから、グラムの時と違って、無理矢理触るわけではない。


「な、なら入っても構わないはず……」


 よし、入るぞ……。

 一歩モフモフ屋の敷居を跨げば、それからは流れるように進んだ。

 丁寧な対応で説明をされるが、その説明を聞く分にはやはり健全なお店のようだ。

 いや、獣人から見ればすごくいかがわしいお店なんだろうけど。


「今空いているのはこちらですね」


 ディスプレイのような物が突然空中に現れ、どこかの部屋の中を映し出した。部屋の中では、女の子たちが思い思いのことをしている。

 ハイテクだな……こんなハイテクな魔道具は聞いたことがないし、迷宮から出てきたマジックアイテムか?

 いや、もしかしたらドワーフの国にしかない特別な魔道具の可能性も……。


「あ、あのぉ……」


 ディスプレイへの考察を続けていると、店員が何故かやけに俺の後ろを気にしていた。

 俺に後ろに行列でもできてるのか? 

 それなら、空中に投影する技術について考えている場合じゃないな……。

 …………。

 …………。


「やっぱりオーソドックスに猫系だな。じゃあ、一番右の、今伸びをしている子に……」


 猫系の子は沢山いたが、一番目を引いた小柄な子にした。

 というのも、仕草が一番猫らしく、可愛らしかったから。尻尾や耳も、猫系獣人の中で一番好みのものだった。

 小柄な所に惹かれたとか、そういうことはないから誤解しないように。……だから俺はロリコンじゃないって!!


「ところで、お連れ様はどういたしますかね?」

「連れ?」


 可愛らしい欠伸をしているその子を眺めていると、店員が突然変なことを言ってきた。

 いや、俺は一人だぞ?

 連れなんているはずが…………


「おはようございます。シン殿。して、このような店で何をしておられるので?」


 俺が後ろを振り向いた途端、ニッコリ笑顔の紫苑と目が合った。

 紫苑は恋人のように俺の腕をしっかりと抱き込んで、コトンと首を傾げて聞いてくる。


『う わ き ?』


 その目が、何よりも雄弁に語っていた。

 

♦︎♦︎♦︎


 何があったのかは省くが、結果的にモフモフ屋は駄目だそうだ。

 というのも、


『拙者はシン殿がただ獣人をモフモフするだけでしたら、まぁそこまで抵抗はないのでござるが……グラム殿はどう思うかと考えると……』


 そんなことを言われては、俺も返す言葉がなかった。

 だから俺は大人しく、紫苑とアニルレイの街を並んで歩いている。まあ、いわゆるデートってやつだ。


「……シン殿、その……そういった欲求があるのでござれば、拙者に出来ることはなんでもするでござるから……あまり、ああいったお店には行かないで欲しいのでござる」

「いや……うん。ごめんな」


 というか今の俺はあれだな、いかがわしいお店に行った所を恋人に見つかった彼氏の図なんだな。

 すっごく恥ずかしい。


「拙者はいつでも……そよ、夜伽(よとぎ)に……参りますから」

「お、おう…………」


 そういうのは、あまり外で言わないで欲しいなぁ。

 俺たちに珍しそうな視線を投げかけてきていた獣人の皆さんが、それを聞いて途端にニヤニヤし始めた。

 果物を売っている店のおっちゃんが、ニカッと笑ってサムズアップしてくる。


 人間が万年発情期だという考えを獣人族から除くのは、意外と難しいことなのかも知れない。


 ♦︎♦︎♦︎


「……契約の匂い……珍しいな、精霊術師か?」


 丁度その時、モフモフ屋から一人の男が出てきていた。

 仮面をつけた、奇妙な男。頭から耳も生えてなければ、腰に尻尾もない。

 獣人ではない。だが、Sクラスの生徒という訳でもなかった。


「あっちに行ったか……少し、楽しくなってきたなぁ?」


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