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二十四話:同時に見たのは変な夢

 

 ────彼女(グラム)は、不思議な夢を見た。


 それは、自分がシンに夜這いをかけている夢だった。いや、もしくはその逆、シンに夜這いをかけられた夢だ。

 全裸のグラムは、和室に一組だけ敷いた布団の上で、胡座をかくシンの上に対面で座っていた。

 何故全裸なのかと言えば、シンに服を強引に奪い取られたからだ。


 ♦︎♦︎♦︎


「…………にゃぁっ!」


 その日の朝、グラムは不思議な感覚のせいでパッと目が覚めた。

 身体の奥底から、()()()()()が溢れているような、そんな不思議な感覚が身体中を駆け巡る。

 グラムの身体は、初めて感じる種類の謎の幸せに満ちていた。


「シ、シン……?」


 胸だ。

 胸を、誰かに揉まれているのだ。

 いや、揉まれているだけではない。


「ああっ!!」


 キューッと、自分の先が何かに強く吸われた。

 ゆっくりと揉まれながら、自分の胸を強く吸われ、股間の辺りには硬い何かが押し付けられていた。


「シ、シン……」


 ──シンに、夜這いをかけられた。


 そう、グラムが理解するには充分だった。


 あまりの気持ち良さに若干涙が滲む視界ではあったが、シンを見ようとグラムは色っぽい荒い息を吐きながら上半身を僅かに起こし…………


「にゃ、にゃぁ……?」


 一瞬、何がなんだか分からず混乱する。


「…………おかぁさん……」


 グラムの胸を吸っていたのも、グラムの身体をまさぐっていたのも、シンではなかった。

 ……妹だ。自分の、妹。


「マ〜リ〜ン〜ッッ!!」


 グラムの浴衣の前は大きく開かれており、胸はもちろん肩も露出している。

 そして、そんな露出している胸を赤子のように咥えながら、マリンはグラムに抱き付いていた。

 グラムの股間に当たる硬いものは、マリンの膝だった。


「で、出ないからやめるのにゃぁ……!」

「……んんっ……おかぁにゃん……」

「くんっ…………ッッ!!」


 このままでは、色々と危険だ。何が危険か分からなくとも、そう判断したグラムは、マリンを無理矢理引き剥がす。


「バ、バカマリン……シンにだって触らせてないのに…………」


 胸を腕で隠して、マリンを睨み付けるグラム。

 だがすぐに、


「にゃ!? にゃんでここでシンが出てくるのにゃ!?」


 既に赤く染まっていた顔が、今度はまた別の意味で真っ赤に染まる。

 確かに一応の()ではあるが、シンの考えが本当だとするのならば──夫を見つけるのは、信頼できる強い仲間を見つけるという意味であれば──グラムはシンを夫とする必要はない。

 グラム自身がシン以外に強い繋がりを持てば、シンを夫とする必要はないのだ。


「シンは、多分グラムを助けてはくれないのにゃ……。シンはもう、自分が夫だとは考えてないはずにゃから……」


 友達とは思ってくれているのだろうが、シンの助けを借りるには友達では弱い。

 友達や親友程度では、エミリアと天秤にかけられたら一瞬で傾く。それは紫苑でも、雪風でも同じだろう。

 エミリア(大切なもの)を守る時にシンが見せる表情を一度でも見れば、そんなことはもう本能的に理解できる。


 ──では、シンの助けを借りるには…………。


 マリンのせいで頭が冴えているのか、グラムの思考はドンドン加速していく。ここまでに、ほんの十数秒しか要していない。


「シンと関係を持つ…………ってグラムは何を言ってるのにゃ!?」


 だが、そんな頭の冴えも、どこか偏りが見られる。

 具体的にはそう、さっき夢で見たような内容に……。


「うぅ……それもこれも変な夢を見たせいにゃ……あうぅ……んにゃぁ……」


 限界まで赤くなった顔を洗うため、邪念にまみれた頭を冷やすため、変な汗でベトベトな身体を洗うため、浴衣を直したグラムは大浴場へ向かった。

 その頃、廊下の奥の部屋で大変なことが起きていることに、一切気付かずに。


 ♦︎♦︎♦︎


「シン…………大好きなのですぅ……」

「…………」


 変な夢を見た。そして目が覚めた。そして全てを理解した。

 華麗な3コンボが決まった。


「んにゅぅ〜〜……」

「…………」


 いやぁ、まさかグラムに夜這いをかけられている夢を見るとはねぇ……。

 全裸のグラムに押し倒されて、俺の浴衣が徐々にグラムの手によってただの布にされていく。

 そんな奇妙で少しゾッとする夢だったんだが、まさか、似たようなことが現実で起きてるとは……。

 いや、逆か。現実で起きたことを、夢の中で再現しちゃったんだな。


「シーン〜〜って、あ、あれ……?」


 今俺は、雪風に襲われている。

 雪風は俺の身体に右側から抱き付いてきていて、その身体は寝汗で少し湿っている。

 そして、何故か俺の左手には雪風の履いていたショーツが一枚。

 …………もしかして、夢の中でグラムの下着を脱がしたのを、現実でも雪風にやっていたのかな? そうではないと思いたい。


「えへへ…………おかぁさんと一緒なんて、少し恥ずかしいのです……」

「……ん?」

「でも、見られたからには、雪風がシンを独り占めするのは駄目なのです。だから……おかぁさんも一緒で良いのです」

「おい待て、少し不穏な……」

「むぅ……シン、おかぁさんの胸だけじゃなくて、雪風のもちゃんと見るのですぅ……」

「待って!?」


 夢の中の俺はどんな高尚なことをしてんだよ……。

 これはあれか? 昨日エミリアに口を滑らせた罰なのか?


 ……ん、いや、あれ? ……精霊に親っていないよな?

 となると、雪風がお母さんと呼ぶのは……紫苑だな。

 なるほど、紫苑か。

 …………紫苑? いや紫苑の胸は別に大きく……いや、やめよう、紫苑が泣く。


「ティーじゃなくて、今の雪風は雪風……」

「ティー?」


 お茶かな?

 いやいや、今はそんなことを言っている場合じゃない。


「シン……駄目なのです……雪風も、雪風にもぉ……」


 このままじゃ、いつ理性が飛んで雪風の夢の再現を始めるか分からないので、俺はそっと雪風を起こさないように布団から抜け出す。

 すると雪風が、寂しそうで悲しそうな顔をした。


「どうして、雪風じゃ駄目なのです? やっぱりシンにとって雪風は…………さっきはあんなに求めてくれたのに…………」


 雪風がこんな不思議な夢を見ているのは、俺が寝相で雪風を襲ったせいじゃない……と思いたい。


「…………」

「…………」


 頭を撫でると、雪風の表情がフッと楽になった。


「大浴場にでも行こっと……」


 最後の、幸せそうな雪風の表情。それを心のメモリーにしっかり保存して、俺はその場をあとにした。


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