二十三話:おやすみなさい
遅れましたすみません!
「…………」
俺は今、絶賛雪風に詰め寄られていた。
というのも、大浴場で俺が寝落ちしてしまったのだ。
まだ暖かいお湯が張っていて、俺は嬉々として飛び込んだのだが、疲れが溜まっていたんだな。気付いたら部屋で雪風に膝枕されていた。
なんでも、あまりに俺の帰りが遅いので、雪風が心配になって見に来てくれたらしい。
それで、全裸の俺をここまで運んだ……。
誰が、俺の身体を拭いたんだろうね? 誰が、俺に服を着せたんだろうね? 怖くて聞けない。
「…………」
それだけなら、よかったのだ。
いや、全裸を見られた時点であまり良くないことではあるのだが、少なくとも、ここでこうして無言の圧力を受けることはなかったはずだ。
雪風の機嫌が悪い理由、それは……
『駄目ですよ、キラ先生……そんな……俺たちは教師と生徒で……』
寝言である。
あまりに衝撃的な内容だったせいか、俺も自分が見た夢の内容を覚えているのだが……。
簡潔に言えば、キラ先生と様々なシチュエーションでイチャイチャした。
意味がわからない? 大丈夫、俺も何故そんな夢を見たのか分かってない。
ちなみに、さっき説明した寝言は、放課後の教室でキラ先生に襲われたシーンだ。
心のどこかでセーブしたのか、一線は超えていない。
たが、そんなこと雪風には関係ないよなぁ……。
「むぅ…………」
女豹のポーズをした雪風の姿に、俺は思わず生唾を飲む。
獣人用の浴衣はやっぱり雪風には胸元が大きく、こうして四つん這いになると、浴衣が重力に従って……雪風の二つの桜色がこんにちは。
「…………」
俺はそっと目を逸らした。
そして…………
「シンのバカ……」
紆余曲折を経て、雪風は完全に不機嫌になってしまった。
具体的には猫耳猫尻尾を生やして俺を誘惑してきたが、俺がその誘いにならなかった。
…………夢で対策してなければ、多分流されてたかも知れない。
ありがとう、(夢の中の)キラ先生。
「…………」
「…………」
でも、やっぱりこのままは気まずいよな……。
「…………その、雪風」
「…………なんです?」
「その……綺麗だと思うぞ」
「っ!! べ、別にこの姿を褒められても雪風は嬉しく……」
「いや、猫耳なんかなくても」
「〜〜〜〜!!」
耳まで真っ赤になる雪風。勿論、耳ってのは猫耳のことじゃないぞ?
猫耳と猫尻尾は、フッと消えた。いつもの雪風だ。
「じゃあ、なんで? シンは……やっぱり、雪風の身体じゃ駄目なんです?」
「い、いや風呂に入る前にも言ったけど、別にそんなことは……」
「これをしたのが雪風じゃなくてグラムなら……シンは、何もしなかったのです?」
「そ、それは……」
しないと言えないのが、悲しいかな男の性。
健康的で男好きのする身体のグラムに、ああして甘えられたら……そう考えると、貴賎はないとか言っていたのが、途端に薄寒く見えてくるな。
「シンは、雪風を女として見てくれないのです。雪風はシンにとって妹同然。雪風だって、アナタが大好きなのに……」
「…………」
ど直球の、告白。
気付いてはいたが、いざ言われてみると恥ずかしいな……。
「雪風の機嫌、治したいです?」
「あ、ああ……できることなら」
「簡単なことです。…………キスしてくれたら……多分雪風は、何も考えられなくなっちゃうのです。怒りとか、嫉妬とか、そういうのを全部忘れて、シンのことしか…………」
「…………」
そう言って、雪風は何かを待つように目をそっと閉じた。
「ゆ、雪風……」
「…………」
これはもう、そういうことだ。
男と二人きりで、こうしてキスをせがむ。これはもう、雪風はとうに覚悟はできているということで……。
「…………」
だから、俺は雪風の肩を掴んで布団の上に押し倒した。
ビクッと肩を震わせたものの、雪風は無抵抗で布団に横になり、そしてゆっくりと目を開けた。
入浴したのは俺だけだというのに、雪風の身体は火照ったように赤くなり、お互いの身体が触れた部分から雪風の熱いくらいの体温が伝わってくる。
「シン…………」
雪風は熱っぽい瞳でこちらを見て、ハグを求めるように、そっと隣にしゃがむ俺に向けて手を伸ばしてきた。
今の雪風は、きっと全てを受け入れてくれる。俺がどんな変態的な要求をしようが、きっと……。
だから俺は……
「はいはい、寝るぞー。そんなこと言うなら機嫌を治さないでよろしい」
「…………え?」
雪風に掛け布団を掛けた俺は、その隣に潜り込んで横になり、部屋の電気を消した。
魔道具だと、こういう時に楽だな。スイッチを押す必要も、リモコンを探す必要もない。
あぁ、疲れた。さぁ! もう寝るか!
「ちょ、ちょっとシン!?」
「知らん。俺はもう寝るからな」
「え? あ……えぇ? そ、そんなぁ……。…….うぅ……シンは酷いのです……」
「知らん知らん。こっちは疲れてるんだ。もうさっさと寝たい」
「な、なら雪風の胸を枕に……」
「緊張と興奮で眠れるわけないだろ」
「むぅ…………生殺しです……」
不満気に唸る雪風。
はいはいおやすみ。
「……ふん、もう知らないのです」
ついに拗ねてしまったのか、雪風が俺に背を向けるように姿勢を変えた。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……………………おやすみなさい……」
薄れ行く意識の中、腕に誰かが抱き付いてきた。
そんな、気がした。
♦︎♦︎♦︎
「ね、言った通りでしょ! シンは何もしないって」
「本当じゃな……むぅ、もっとシンを信じるべきだったか……。雪風にとってはあまり嬉しくない話かも知れんが」
「パートナーである精霊にもしないとなると……彼も意外と身持ちは固いんですね。雪風には、少し嫌な任務を任せてしまいましたね」
「うん……明日にでもみんなで謝った方が良いですよね?」
「そうじゃな、ある意味身代わりにかって出たのじゃから」
「まぁ……本人は望んでいましたけどね」
扉の隙間から、そんな二人の様子を三人の女子が見ていたことを、シンが知ることはない。
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