二十一話:両親
俺と誰かが寝る和室で円形にお膳を配置し、俺たちは適当に席についた。
順番を言っていけば、俺、エミリア、雪風、マリン、グラム、キラ先生、レイ先輩、紫苑の順に座っている。なので、俺の正面はグラムだ。
さっきのこともあって、少し気恥ずかしい。
「「「かんぱーい!!」」」
グラスが高々と掲げられて、続いてぶつかり合う音が響いた。
決して広くない和室の二人部屋に、身体が小さい子が多いとは言え八人が集まったのだ。自然と人と人との間隔は狭くなる。
てか、身体が小さい子の割合高くないか? 雪風と紫苑も高校生にしては小さいし、二人を含めたら八人中五人だぞ?
異常だ。何か作為的なものを感じてしまうな。
出されたのは、すき焼きだった。
それぞれのお膳に小さな鍋が乗っていて、中でグツグツと肉野菜が煮えている。
飲み物は二種類で、お酒と水だ。
俺と紫苑とキラ先生の三人がお酒を飲み、他は水を飲んでいる。
と、俺が生卵を溶きながら談笑しているみんなを眺めていると、エミリアが話しかけてきた。
「ねぇシン、これって天照国の料理なの?」
「え? ああそうだけど、なんでだ?」
「ううん、なんとなくそう思ったから聞いてみただけ」
「食べ方は大丈夫か?」
「うん。多分大丈夫。えへへ、ほら見て」
少し嬉しそうに、エミリアは箸を持った手を見せてきた。
隠れて練習してるのは知ってたけど、ここまで上手くなってるとは思わなかったなぁ。
エミリアの顔が『褒めて褒めて!』と言っていたので、俺はみんなから死角になるお膳の影でサムズアップする。
「なんか二人だけの秘密みたいだね」
するとエミリアも、同じようにサムズアップで返してきた。
ああ、なんか分かるかも知れない。こういう小さなことで笑い合って、何か悪いことをした後のような高揚感を共有する。
偽装とは言え、恋人らしい…………。
…………。
「恋人、か…………」
「? どうしたのシン?」
「いや、なんでもないよ。マリンちゃんが、食べ方に困ってないから意外に思って」
「マリンちゃんは意外としっかりしてるんだよ? 少し寂しがり屋で甘えん坊さんだから、中々そうは見えないけどね」
「可愛いのでござるよぉ〜。膝枕をせがんできた時などは、思わず抱き締めてしまったくらいでござる」
「うんうんっ! レイ先輩のことを間違えてママって言ったり!」
なんだと!?
なら俺はマリンちゃんと兄妹になりたい。俺も間違えたい。
でも、ママか……。
「俺も、パパって言われたいなぁ……」
「それは、擬似的に夫婦になるためでござる?」
「いや、純粋に」
「「…………」」
俺を挟んで、顔を見合わせる二人。
なんだよ、いいだろパパ。
俺の溢れる父性本能に、マリンちゃんが反応してくれないかなぁ?
パパと呼んでくれたことのある雪風は、今グラム姉妹と楽しそうに話している。
「でも、私もママって呼ばれたいかも……」
「だろ?」
「でもその場合、ママが二人になってしまうのでござる。パパはシン殿一人だとして……。む、むぅ………………」
「紫苑、そもそも俺がパパと呼ばれること前提だろ、それは」
「まだ何も言ってないのでござるが!? え、ええ! シン殿と夫婦ごっごをする気などこれっぽっちも!!」
そこまで否定されると傷つくなぁ。
照れ隠しだと分かっていても、悲しいもんは悲しい。
夫婦ごっごと聞いて何人かがこっちを見たが、すぐに触れない方がいいと分かったのか、聞かなかったことにしている。
「? 別に、ママは沢山いていいんじゃないの?」
「「?」」
「お父さんだって、奥さんはお母さんだけじゃないもの。義理のお母さんでも、ママはママでしょう?」
「まぁ、確かに。そもそも、そんなこと言えばみんな義理だしな」
「う、うむ……。しかしそれでは、シン殿のハーレムになってしまうでござるよ……。一二三……十二人に」
「ちょっと待って計算おかしくないか!? 三人だろ三人、レイ先輩に紫苑エミリア!」
誰を含めたんだよ……怖くて聞けない。
お姉さんか? スーピルお姉さんなのか? パパの姉なのでママというより叔母さんでは?
「ここにいる七人と、お師匠殿、スーピル殿、エストロ殿、アイリス殿、メイドのリーシャ殿」
「なるほど…………どっからツッコメばいいんだろう」
まず、娘を毒牙にかけてる計算なんですがそれは。
マリンちゃんのパパの妻に、マリンちゃん本人がいるという謎現象が起きちまうぞ。
マリンちゃんの子供はマリンちゃん……マトリョーシカ的な何かですか?
しかもグラムは姉だ。姉妹丼と親子丼を同時に行うことになる。
リーシャさんの行方は俺も知らないし、生徒会の二人は色々と違うだろ。
「…………十一人も……」
「…………十一人か……」
何故か困った表情をする二人、そして俺に、咎めるような視線を向けてくる。
え? なんで?
…….俺がこの話を始めたから? パパって呼ばれたいって言ったから?
「シン、アニルレイから帰ったら少しお話ししましょう」
「エミリア殿、拙者と……それと雪風殿、あと、場合によってはグラム殿も参加したいのでござるが……」
「ええ、みんなでちゃんと、そろそろハッキリさせなきゃ……」
「うむ……」
重々しく頷く二人。
会話は聞こえていても、なんの話か分からないのですが……。
ただ、何か猛烈に嫌な予感がする。
アニルレイから帰ったら、三人ないし四人に囲まれてお話か……。
その後もみんなでワイワイ騒いでいると、時計の針は驚くほどのスピードで進み、マリンちゃんがウトウトし始めたのを区切りに、徐々に解散ムードになってきた。
「それじゃあ、みんなおやすみにゃ」
「うにゃぁ……んんっ……おやすみ、お兄ちゃん、お姉ちゃんたち…………」
「マリン、ちゃんと歯を磨いてから寝るのにゃ。ほら、行くにゃよ」
「んんっ……抱っこぉ……」
「はぁ……仕方ないにゃねぇ……」
眠たげなマリンちゃんを背負って、グラムが部屋を出て行った。
やっぱり、二人は一緒の部屋なのか。
「うむ、それでは妾たちも帰るとするか」
「ええ、そうですね。私は、ちょっと眠いですよ……ふわ〜あ」
「ハハハ、眠そうじゃな。妾も今日は少し早めに寝るとするか」
「おやすみなさい。シン、エミリア、紫苑、雪風」
「しっかりと休むのじゃぞ?」
レイ先輩も、ちょっと眠たそうだ。
アニルレイという伝説の街に来て、みんなかなり興奮してるからな。昼間、紫苑と雪風に振り回されたんだろう。
二人が同じ部屋か。
そして、最後。
「おやすみなさい。シン、雪風ちゃん」
「おやすみなさいなのです」
「ああ、おやすみエミリア。それに……もう寝ちゃってるけど紫苑も、おやすみ。エミリア、紫苑の歯とか磨いてあげてくれないか?」
「うん、元々そのつもり。流石に、このまま寝かせられないから」
「王女様直々に世話を焼いてもらえて羨ましいなぁ、紫苑は」
「これを明日の朝知ったら、驚くと思うのです」
「ふふふ」
お酒の効果か、途中から俺の膝を枕に寝てしまった紫苑。
そんな、寝息を立てて寝てしまっている紫苑をお姫様抱っこし、俺は雪風と一緒にエミリアを隣の部屋まで送った。
紫苑を布団に寝かせて、俺と雪風は元の部屋に戻る。
そう、俺と雪風が同じ部屋だった。いざという時、雪風なら俺の身体の中に逃げ込める。俺って信用されていないのかなぁ……?
「どうする? 寝るか?」
「いえ……。その前に、話があるのです」
「……なんだ?」
半ば予想はついていたが、俺は聞いた。
「シン、今日の午後、雪風を置いて…………なんで一人で戦っていたのですか」
感想評価お願いします!




