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十七:龍の紋

 

「お、お主ら、見てないで助け…………あんっ」


 マリンちゃんの手が動く度に悩ましい声を上げるキラ先生だったが、助けを求める相手が悪い。


「「「…………」」」


 助けを求められた三人は、自分の胸を隠すようにして、幼女に襲われる龍人を恨めしげに眺めているだけだ。

 まぁ、そうだな。

 レイ先輩は身体が小さいことを、紫苑は胸の大きさを、それぞれ気にしている。

 雪風は知らんが、羨ましそうに見ている限り、そういうことなんだろう。

 助けてくれそうな──羨ましがらなそうな──エミリアやグラムは、今は二人楽しそうに洗いっこしており、こちらに気が付いていない。


「……どうしたら、こんな風に……」

「なっ! ま、まさかお主らそんなことで!? し、知らぬ! 妾は昔からこうじゃ!」


 俺はそっと耳を物理的に塞ぎ、その上魔法で聴覚も遮断する。

 あぁ……静かだなぁ、平和だなぁ。

 キラ先生のためにも閉じていた目を開くと、静かだけど戦争だなぁ。


「す、すまぬのシン……。あ、あと……い、今見たことは、できれば忘れてくれ……」


 取り敢えず、マリンちゃんは回収だ。

 何やら職人のような顔つきのマリンちゃんを後ろから抱きかかえ、キラ先生を解放してやると、キラ先生は色っぽい息を吐きながら礼を言った。

 教師で見た目子供で、つまり背徳感がすごい。


「好奇心は猫をも殺す。マリンちゃん、気をつけなよ? 胸に逆鱗があったらどうするの?」

「む、胸に逆鱗などないのじゃ……」


 元の位置に戻った俺は、マリンちゃん自分の膝の上に乗せてようにして、マリンちゃんと一緒にお湯に浸かる。

 俺の定位置は、丁度キラ先生が真正面にいる。ぐったりしている紅髪のお姉ちゃんを見て、マリンちゃんはペコリと頭を下げた。

 俺も自分が感じている以上に疲れているのか、マリンちゃんが上に座っても興奮はしない。


「精霊の雪風も、身体を大きく変化させることは得意じゃないのです。こうして…………」


 うおっ!?


 雪風の胸元が、何故かいつもより盛り上がった。いや、身体が大人になった? 

 いつもの雪風が熟す前の青い果実の美少女だとすれば、今の雪風は栄養を溜め込んだ妖艶な美女。

 …………とは言い難いかも知れないが、確実に雪風は大人の姿になっていた。


 少女形態に大きさが合っていたタオルから、雪風の様々なものがもろび出そうになっている。

 水を吸ったタオルは身体に張り付き、雪風の肢体をハッキリと表す。

 一言で言ってエロい。めっちゃエロい。

 これは俺の知る雪風じゃないな!


「…………すごく、疲れるのです」

「あ、戻った」


 シュルシュルと、いつもの雪風に戻っていく。

 これは俺の知る雪風だな!


「そ、それでも充分でござろう! いや、変化の術を極めれば拙者も…………」

「私はどう足掻いても無理ですね。……まあ、損することはないですから」


 紫苑が何かを決意したように頷き、レイ先輩は小さく溜息をついた。

 話は聞こえなくても、なんか状況が分かる気がするな……。


「聞いた話によると……異性、それも好きな相手に胸を揉まれると効果的らしいのです」

「…………なる、ほど……」


 おい待て、なんでみんなしてこっちを見る。

 何を言ったのかは知らないが、女性にしか分からない話に俺を巻き込むなよ。


「シン殿、一応聞いておきますが、話は聞こえておりましたか?」

「…………?」


 何か俺に話しかけているようだけど、今の俺は耳が聞こえないので分からない。

 首を傾げていると、紫苑はどこか安心したように頷いた。


「ねぇねぇ! それって本当!?」

「え? た、多分……本当、です? やられたことはないので分からないのですが……」


 おい待て、なんで雪風はこっちを見るんだ。

 巻き込まれる前に、何の話か知っておきたい……!


「じゃあ紅髪のお姉ちゃんは大っきくなった?」

「へ? い、いや妾は分からぬが……」

「なら見てあげる!」

「へ? あ、ちょっと……」


 キラ先生のタオルに手をかけたマリンちゃんを、慌てて止めようとするキラ先生。

 だが、呆気なくタオルは開いてしまい……いやまあ、俺の所からでは、マリンちゃんの身体が丁度よく隠してくれてるんだけどね?


「紅髪のお姉ちゃん……これ、何……?」

「…………これか……」

「? 何かあるのです? …………え?」

「マリン殿、拙者にも見せて……あ」

「キラ……これは……」


 え? 何々?

 全裸のキラ先生の前に、エミリアとグラムを除くみんなが集まっていくんだけど……。

 み、見ていいやつなのかな……?


「シン、これは龍の紋ですよ」

「…………?」


 ……あ、話しかけてるのか。

 俺は聴覚を遮断する魔法を解除して、みんなに近づく。


「龍の紋と呼ばれる印ですね。シンも知っていますよね?」

「龍の紋…………聞いたことはあります」


 分かりやすく言えば、ドラゴンライダーが乗る龍のような、使役される龍の身体に刻まれる紋章というか印のことだ。

 だが、キラ先生のはその龍の紋ではないだろう。あれはあくまで、焼印を付けているだけだからな。

 キラ先生が誰かに使役されてるなら別だけど。

 となると…………


「モデルとなった方か?」

「…………少し違うが、似たようなもんじゃ。ほれ、これじゃ」

「ちょっと!? ……なんだ…………」


 キラ先生が空に飛んで、俺に裸身を見せてきた。

 だから期待したんだけどなぁ、


「なんで隠すんですか!」

「当たり前じゃろ!」


 黒い翼と尻尾で、俺の見たかったところは隠されてしまっている。

 ガードが硬いのじゃロリだ。


「見ないならやめるぞ。恥ずかしいのは変わらないのじゃから」

「見ます見ます。目に焼き付けます!」

「焼き付けないでくれないかの!?」


 キラ先生は小柄ではあるが、見た目はレイ先輩やマリンちゃんのように幼女というわけではない。充分、目の保養になるなぁ……。

 あ、ちなみにレイ先輩や師匠だと目が潰れる。

 って今は龍の紋の話だったよな…….?

 えぇ……胸とお腹にかけて、龍を模した簡易な魔法陣ような物が描かれているな。

 男心をくすぐるカッコイイ印だ。


「胸の所が見えないですね」

「胸は見せんからの!?」

「背中とかにはないんですか?」

「……お主が始めた話なのだから無視しないで欲しいのじゃが……。背中か、ほれ」


 クルリと空中で反転するキラ先生、可愛らしい小さなお尻がこんにちは。

 取り敢えず拝んどこう。


「…………む? なんじゃ、どうした?」

「い、いえ! なんでもないです!」

「? そうか……」


 不思議そうにするキラ先生。話がややこしくなると思ったのか、紫苑たちは見て見ぬ振りをしてくれた。

 代わりに紫苑、雪風、レイ先輩の三人からは脇腹を抓られたけど。

 俺が何もなかったと伝えると、キラ先生は目を細めて話を始める。


「妾は昔、とある男と契約した、龍の盟約じゃな。その男は死に、そしてこの痣も消えたのだが……現れたのは最近じゃ…………契約相手は、当に死んでおると言うのに……」


 俺たちは、顔を見合わせる。

 何を言って良いか、分からなかったからだ。


「龍化と何か関係があるんじゃないですか? 龍化したから、痣が現れたとか……」

「多分そうじゃな。……まあ、そう気にすることもないじゃろう。見せる相手など今も昔もいないしな!」


 腰に手を当てて「ハハハ!!」と笑うキラ先生。そうか……見せる相手はこれまでも()()()()()いないのか……。


「おいシン、今変なこと考えたじゃろ」

「は? 変なことなら、ずっと考えてるから大丈夫ですよ」

「!?」


 翼と尻尾で胸と股間を隠しているだけでさぁ、思春期の男子が興奮しないと思うの? むしろ扇情的になってるよ?

 無理だよ、さっきから妄想が捗ってるよ。


「あ! お兄ちゃんのタオルがなんか盛り上がってるよ!」

「マリンちゃん!?」

「シ、シン……」

「いえ先生、これは何かの間違いでですね……」


 殺される!

 ゆらりと、キラ先生が湯船に降り立った。

 そして、俺のすぐそばに立つと、拳をコツンと俺の胸にやった。

 む、胸に風穴が開いたかと思った……。


 俺が戦々恐々としていると……


「わ、妾も女じゃ……。じゃからそういうのは恥ずかしいぞ……。だ、だからの? タオル…………貸してくれないか?」


 顔を赤らめながら、キラ先生がそんなことを言ってきた。

 ……やべえ、可愛い。


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